伝説の流転企画「憂国呆談」が 『ソトコト』でサステイナブルに展開中! 帝国ホテルのコンファレンスルームより、 稀代の論客ふたりが送る ロハスな社会のためのクロストーク。 市場の倫理を忘れたがために起こった 100年に1度の金融破綻の教訓とは何か、 そして、不況を乗り越えるための社会制度や 明るい未来を照らすエネルギー政策を、 ふたつの鋭い視線が見据える。
憂いゴト
talk 16

ベーシック・インカム構想からエネルギーの多極化まで!

定額給付金にダメ出し!ベーシック・インカム構想を

浅田:

1929年の大恐慌に見られるとおり、市場の暴走を国家が制御する必要がある。ジョン・メイナード・ケインズのそういう考え方が、80年後のいま急に復活してきた。ただ、今回は本当にグローバル化した経済が危機に直面してるわけで、一国単位のケインズ政策でどこまで対処できるかどうか。ともかく、一国内で労使が妥協して、労働者はテーラー・システムのような体制に従う半面、それによる生産性向上に見合った賃上げ、そして保険や年金を保証されるという、いわゆるフォード主義のモデルは、グローバル化によっていったん破産宣告された。ケインズ主義的福祉国家の破産ってやつだよね。そこでミルトン・フリードマンが、国家の介入を最小限にして市場の競争に任せる新自由主義をあらためて打ち出し、それがサッチャー・レーガン・中曽根以後、世界を覆った。いま、それに対する新たな揺り戻しがきてるわけだ。

ただ、フリードマンの発想はラディカルではあってね。政府が煩雑かつ不透明な裁量行政で福祉政策をやるより、市場競争で落ちこぼれた人たちには「負の所得税」、つまり最低限の生活のための給付金を渡しちゃうほうが効率的だ、と。極右からそういう提案が提出される一方、極左の側でもアントニオ・ネグリなんかに近い連中は、すべての人間にベーシック・インカムを保障せよって言ってて、両者は不思議に似通ってるわけね。ネグリも、マイケル・ハートと書いた『帝国』で、いくつかの国家が世界に覇を唱える帝国主義の時代に代わって、グローバル資本主義と一体の「帝国」の時代になった、世界中のマイノリティの群れが「マルチチュード」としてそれに対抗するんだっていうヴィジョンを打ち出してる。いずれにしても、個々の先進国の内部で特権に胡坐あぐらをかいてる大企業と大労組が主要敵になる。その意味でフリードマンとネグリが似てくるってのは皮肉だね。


田中:

実にそうなんだよ。給料20万円の社員を雇い続ける上で、健康保険料や年金とかを含めて企業が毎月30万円のコストを負担していたら、それはむしろ社会全体のロスじゃないかと。だったら、その人間に無条件に20万円を所得保障したほうが、一企業の枠を超えて社会全体で残りの10万円を有効に使う道が生まれるじゃないかと。そう考えると、ハイエクの不肖の弟子と思われているフリードマンも、師匠を引き継いで少なからずコモンズ的な思考も持ち合わせていたんだね。とはいえ、社会的公正と経済的自由という、以前から述べている正しいハイエク、新しいケインズへの実践的パラダイムチェンジを成し得ずに、ずっと世界はとどまっているんだな。


浅田:

そこは難しいところで、長期的・原理的な問題と短期的・実際的な問題を一挙に解決しようとするのは危ないと思うな。確かに一国単位のケインズ主義・社会民主主義は成り立たなくなってる。とはいえ、グローバルなセイフティネットがないところで急に福祉国家を解体しちゃえば、大変なことになっちゃうからね。幸か不幸か金融危機で失業率が急増してるし、当面はケインズ主義に戻ってやらざるをえない、ただそれが一国単位では長期的に持続できないってことも意識しつつやっていかなきゃいけない。そういう複眼的な視座と二刀流の政策が必要だろうね。


田中:

終身雇用と専業主婦に象徴される固定化された「労働」と「家庭」が日本でも多様に変化したんだから、働いている人も働いてない人も、赤ちゃんもおじいちゃんも、体が不自由な人も丈夫な人も、生活に最低限必要な所得を全ての個人に無条件で保障する「ベーシック・インカム」という生存権としての所得保障を積極的に考えるべきだと思うよ。仮に1人月額5万円、年間60万円支給すると、子ども2人の夫婦で合計240万円。所得税率を一律30%として、夫の年収が200万円だと140万円の収入。合わせて年間380万円の可処分所得になる。

これって一見、バラマキ行政に見えるけど、実は正反対。年金や生活保護、失業保険を扱う社会保険庁や自治体の福祉事務所は半ば自動的に不要となるから、「脱・行政の肥大化」と「脱・福祉切り捨て」を同時に達成できちゃう。無用な行政組織と裁量行政な予算を、他の重点政策へと振り向けられる。


浅田:

所得をもっときちんと補足して、累進税率の所得税を主としてやっていくのが、福祉国家のひとつの建前なんだけど、日本ではどうしてもうまくいかない。だったら、負の所得税なりベーシック・インカムなりで貧しい人たちの生活を保障し、税源としては消費税を浅く広くかける、ただし生活必需品は税率ゼロにするっていうような方式のほうが、簡単ではあるんだな。

いずれにせよ、今はIT社会なんだから、ぼくは必ずしも納税者背番号制度に反対じゃない。そうすれば所得税だってもっときちんと取れるはずだし、インボイス方式で複数税率の消費税もきちんと取れるはずなんだから。


田中:

無用の長物な住基カードの維持に年間400億円も使うんだったら、こうした意味あるIT化を推進すべき。話を戻せば、早晩、年金制度が破綻する日本にベーシック・インカムを導入すれば、大きい政府・小さい政府の二元論を超えた“効率のいい政府”が実現するんだ。働きたい人はたくさん働いてたくさん稼いで税も納める。その代わり、生まれた以上は、万人の生存権を保障すると。


浅田:

そういう意味では、定額給付金も、1人につき1万2000円なんてものじゃなく、8万円くらい配れば意味があったはずなの。オーストラリアのケヴィン・ラッド首相なんて、日本とも似たねじれ国会のような状況で、労働市場の自由化の行き過ぎを巻き戻す半面、クリスマス一時金として国民1人につき8万円ぐらい配った。やろうと思えばできるんだよ。


田中:

日本はいじましくちこちこと配ろうとするから効果なし。決定・実施までのスピードもないから効果なし。


浅田:

来年度になってから1万いくらももらえるかどうかっていうような給付金では、自民・公明の選挙対策にもなってない。むしろ評判を下げただけじゃない?

ただ、現在のデフレにケインズ政策で立ち向かう必要があるのは事実として、他方でインフレの危険もなくなったわけじゃないからね。これだけドルや円を垂れ流したら、相当あぶないところまできてると思わなきゃ。そもそも一般論としていえば、国の債務を目減りさせるのにはインフレが一番なんだよ。その意味で、「通貨の番人」である日銀には、政府発行貨幣とか無利子国債とかいう危ないトリックを排し、あくまで通貨の価値を守るように、頑張ってほしいね。







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