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第一回「節電と幸せ」
アイディア&エッセイコンテスト
受賞作品

エッセイ部門

優秀賞

これからも二人で歩こう
小田純子さん(石川県金沢市)

「そろそろ行こうか」
夫の言葉を合図に私は立ち上がり靴を履く。
意志が弱い私たち。いくら頭で『節電』と思っていても
家にいるとたくさんの照明をつけたり、
見なくていいようなテレビ番組を見たり、
ちょっと暑いとエアコンを入れたり、
なんとなく冷蔵庫を開け閉めしたりしてしまう。
そんな私たちが考えた『節電』。
それはズバリ『なるべく家にいないこと』だ。
そこで、夕食後には2人で散歩をすることにした。
最初は「食後に動くとおなか痛くなる」とか
「メイク落としてすっぴんだから」とか
「雨が降りそうだから」などとお互いに断る理由を言っていたが、
決めたことはできるだけ頑張ろうと何とか今まで継続している。
いざ歩き始めるとこれがなかなか快適なことがわかった。

ウォーキングについてはさまざまな利点があげられている。
「今まで気づかなかった景色に出会える」
「血流が良くなり全身に血液が行き届く」
「有酸素運動でダイエットできる」

でも、私たち夫婦にはもう1つの思いがけない幸運があった。
夫婦の会話が増えてストレス解消になったのだ。
今までは話すとケンカになるからなかなか言えなかったことや
相手への不満や文句も、周囲の暗さを味方につけて言えるようになった。
言い出すタイミングも歩くリズムに合わせて
イチニのサン!と勢いで言えてしまう。
「最近おなか出てきて中年オヤジみたい。
食べ過ぎないでよっていくら言っても全然言うこと聞かないよね。
私が何を言おうとどうでもいいと思っているんでしょ。」
「こまめに掃除機かけるって約束したのに全然やってないよな。
どうして約束したことができないんだよ。
どうせやらないなら最初から約束なんてするなよ」

痛いところを突かれて腹が立ったら手を大きく振って大またで歩く。
『アイシテルのサイン』ならぬ『オコッテルのサイン』だ。
アイシテルのサインなら二人でうっとりもするだろうが、
オコッテルのサインは見てみぬフリをして放っておく。
ただ、怒った側がどんどん先に歩いていってしまうので
遅れないように2人とも大またになって必死で歩くだけだ。
手をぶんぶん振って足も高く上げながら歩いていると、
ただそれだけでいつの間にかイライラは消えていく。
そのまま歩き続けていると、
『むかつく相手だけど歩調を合わせて歩けるということは実は相性がいいのかな?』
なんてなんだか幸せな気分になってきたりするから不思議だ。
ウォーキング・ハイという言葉はないかもしれないけど、
どんどん気分が高揚してきて歩けば歩くほど楽しくなってくる。

そうやって小一時間ほど歩いてから家に帰る。
帰った後はお互いに言いたいことを言い合えて気分はスッキリ。
体が温まりじんわり汗をかき美容にもイイ感じ。
そして、たった一時間だけど全く電力を消費しなかったことで
節電に貢献できたような誇らしい気持ちになれる。

節電のために暗い町を歩く。
そのことで私たちは明かりの下では見えなかったお互いの本心を知ることができた。
煌々と電気がついた室内にいたら、相手の怒る顔に遠慮してきっと言えなかった。
心の奥でためていた思いを見せるのは勇気のいることだったけど、
思い切ってさらけ出したことで私たち夫婦は歩きはじめる前より
お互いへの理解は深まり絆も強くなれたと思う。
『節電』について考え、行動しなければ
私たちが深くわかり合えることはなかっただろう。
暗い夜道が私たちに相手を理解する心を与えてくれた。
明かりのない世界も私たちには必要だったのだ。
暗い中でこそ見えるものがあるのだと私はこの経験を通してはじめて知った。

そして同時に感謝する。
夜、こんなに安全にどこでもぶらぶら歩けることを。
被災地も自然が豊かで穏やかな地域だったと報道されていた。
震災前の落ち着いた町の光景をテレビで見たときは涙が出た。
すぐに元通りは無理かもしれない。
でも、今の子供たちが大人になって結婚するころには
また美しい風景が戻り、私たちのように何の心配もなく夫婦で
ぶらぶら散歩することができるように心から祈っている。
そして、私たちも自分の住む町をいつまでも自由に歩けるように
これからもこの平和を守り続けていきたい。

もうすぐ夫が帰ってくる。
それまでに私は掃除機をかけておこう。
大食いの夫は今日もたくさん食べるだろう。
でも、きっと食べ過ぎないように少しは注意してくれるにちがいない。
そして最近ほんのちょっとだけ引っ込んできたお腹をさすりながら言うのだろう。
「そろそろ行こうか」と。

※アイディア部門の大賞については、今回該当作品をなしといたしました。

※コンテストの概要はこちらでご確認ください。

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