ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

緊迫するウクライナ情勢から、右傾化する日本、子宮頸がん予防ワクチンから、『ダラス・バイヤーズクラブ』まで! photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

東京・二子玉川にあるクリエイティブスペース「カタリストBA」の窓際のテーブルで、8階からの景色を眺めながら対談を始めた田中・浅田両氏。春先の多摩川周辺ののどかな風景とは裏腹に、緊迫する世界情勢と右傾化する日本の現状を憂えた。

田中

被害続出の子宮頸がん予防ワクチンの積極的勧奨を厚労省は再開する予定だったけど、再調査を理由にひとまず延期となった。なのに日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本婦人科腫瘍学会が即時再開を強硬に求めている。連中が言うには、接種後、2週間以内の痛みは副反応かもしれないが(被害や副作用と呼ばずにあえてポエムな逃げ言葉を使うのも問題)、それ以降の痛みは「心身の反応」だって(苦笑)。心の持ちようだとはお前は祈祷師か! その公的会合での暴言をメディアは無批判に垂れ流してるんだから呆れる。

「子宮頸がんワクチン」という名称自体が羊頭狗肉。子宮頸がんに至る可能性をもたらす「HPV=ヒトパピローマウィルス」に感染するのを予防するワクチンと正確に呼ぶべき。しかも100種類以上ものHPVウィルスの中でグラクソ・スミスクラインと米国メルク日本法人MSDのワクチンが効果を持つのは僅か2~4種類。おまけに日本人に多いウィルスへの有効性は両社とも効能書きに記してない。生理も性交も未経験の児童生徒に年間1000億円も投じる前に、イギリスのように成人女子も含めて検診を充実したほうが予防医学でしょ。

浅田

昔、中曽根康弘元首相が広島の原爆被爆者の病室で「病は気から」って言ったのを思い出す(苦笑)。そもそもこのワクチンは子宮頸がんの一部しか予防できないんだし、その割に、痙攣とか麻痺とか、かなり重篤な副作用が出てるんだから、当然見直すべきだと思うね。

そんなことより、インフルエンザのワクチンや特効薬を大量に供給する準備を整える方が先決だよ。今年の冬はまだ大事にいたってないけど、中国ではトリ・インフルエンザのいろんな変異体があちこちで感染を起こしてるんで、あれが本格化したら大変なことになる──というか、いつかは本格化するに決まってるんだから。儲けたいなら、そういう役に立つところで儲けろっての。

ついでに言えば、ノバルティスファーマのディオバン(高血圧の降圧剤)の例が示す通り、製薬会社と大学の癒着の中で、不正なデータ操作によって薬効が誇張されるといった例も少なくないらしい。にもかかわらず、世界中で高価な薬が使われ、製薬会社に莫大な利益をもたらしてる。

ぼくの老母も82歳で脳梗塞で倒れたあと抗うつ薬を処方されたけれど、そりゃ多少はうつになって当然でしょう。とはいえ、それで少しでもうつが軽減されるかと思うと、家族としてはなかなか断れない……。そうやって世界中で大量の抗うつ剤が消費されてるわけだ。

田中

日本に限った話ではないけど、製薬会社もゼネコン同様に公共事業体質。福島県立医大の鈴木真一が、「甲状腺がんは最短で4、5年で発見されるのがチェルノブイリの知見。今の調査は(震災以前から)もともとあった甲状腺がんを把握している」と、福島原発事故による放射線の影響を否定する始末。逝ってよしのアホ阿呆だ。

浅田

まったく。

田中

そう言えば、アカデミー賞授賞式を見てたら、浅田さん推薦の『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーが主演男優賞、ジャレッド・レトが助演男優賞を射止めたね。

浅田

映画自体、1980年代のAIDSクライシス初期に、感染者や患者が資本主義国家の「生権力」(哲学者フーコーの用語)──身体や生命を直接とらえる権力といかに闘争して生き延びたかを描く、ある意味で爽快な作品だよ。早い時期にHIVウィルスが特定され、AZTのような薬もつくられた。それはいまでも多剤併用カクテル療法の一環として使われてる。ただ、最初はその薬効を確認するため、AZTと偽薬プラシーボをアト・ランダムに投与して統計的に比較する調査が行われた。患者にとっては生死にかかわる問題なのにモルモットとしてロシアン・ルーレットをやらされるようなもの。余命30日と言われたロン・ウッドルーフって男(マコノヒー)がそれを断固拒否し、自分で世界中から未承認薬の類をかき集めて会員制クラブで頒布し始める──ただし、市民運動的な偽善のかけらもない、むしろドラッグ・ディーラー的なノリで。しかも、彼はゲイを蛇蝎だかつのように嫌うマッチョなんだけど、それでは商売に差し支えるんで、女装のオネエ(レト)と組む。この二人の間に不思議な愛情が生じるところはなかなか面白い。で、絶えず弾圧されながらもなんとか営業を続け、余命30日と言われてたのが7年も生き延びるわけ。ウッドルーフは実在の人物で、映画化の話は彼の亡くなった92年からあったんだけど、マコノヒーが脚本に興味を示し、ジャン=マルク・ヴァレ監督がそれを実際に撮るまで、20年以上もかかったわけだね。

ちなみに、この男は岡山の林原生物化学研究所まで来てインターフェロンαを仕入れたりする。あそこは研究開発に惜しげなく資金をつぎ込み、株主資本主義の波のなかで粉飾決算を理由に破綻に追い込まれたわけだけど、こんなところで再評価されるとは。

田中

コンプライアンスという事なかれな鋳型を、良い意味で超越していたんだ。

浅田

しかし、小保方晴子のSTAP細胞に関する論文が撤回に追い込まれつつある事件を見ると、問題は基礎研究にまで及んでるみたいだね。競争の激しい分野では論文の撤回は珍しいことじゃないけど、そのこと自体、過当競争が研究を歪めてる兆候じゃないか。まあ彼女の場合は博士論文にもコピー&ペーストによる部分があるようで、そもそも問題外だけど。

田中

彼女も彼女だし、見抜けなかった共同研究者や上司も劣化の極致でしょ。死語となりかけていた倫理学を学び直さないと。福岡ハカセも交えて、日米チャット鼎談をしたいくらいだね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

ゴミ、捨てんなよ!

Copyright © KIRAKUSHA, Inc. ALL rights reserved.