東京・二子玉川にあるクリエイティブスペース「カタリストBA」の窓際のテーブルで、8階からの景色を眺めながら対談を始めた田中・浅田両氏。春先の多摩川周辺ののどかな風景とは裏腹に、緊迫する世界情勢と右傾化する日本の現状を憂えた。
- 浅田
-
ソチ・オリンピックも終わらぬうちから、ウクライナ情勢が一挙に緊迫、ヤヌコヴィッチ親露政権が崩壊したかと思いきや、親欧政権に従わない勢力を支持してロシアが軍事介入、まずはウクライナの一部だったクリミアをロシアに編入した。
- 田中
-
敗戦国の日本がサンフランシスコ講和条約を受け入れ、国際社会に復帰した「戦後レジーム」の原点ともいえるチャーチル・ルーズベルト・スターリンの三者会談が行われたのがクリミア半島のヤルタだ。
究極的には、プラハが首都で工業国のチェコと、ウィーンに隣接するブラチスラヴァが首都で農業国のスロバキアに冷戦後の1993年に分国したチェコスロバキアと同じく、EU側とロシア側に分轄される運命にあるのだろうけど、時間はかかるね。
クリミア半島でのロシアのやり方は奇襲攻撃的。国際法的には認められない。ただし、現時点ではごくわずかの犠牲しか出ていない画期的な“無血革命”でもある。逆にキエフでの親露政権打倒時には、極右勢力が武装勢力と結託して多くの一般市民が巻き添えになった。しかも、ネオナチ政党スボボダの創設者が新政権の安保部門の最高責任者だから、欧米側としても悩ましい。ウクライナの大統領代行も首相も最高議会も統治能力に問題がある。
他方で、クリミア自治共和国のウクライナからの独立とロシアへの編入を問う3月16日の住民投票にはアメリカ、イタリア、フィンランドをはじめとした23か国から126人の選挙監視団を受け入れて、すべての投開票作業を公開し、州都シンフェロポリのプレスセンターで会見も許したあたり、一枚も二枚も上手だよ。
ロシアの黒海艦隊の拠点もあるウクライナ南部のクリミア半島はもともとロシア人が多く暮らしていた地域。自国民保護というロシアに大義名分がないわけではない。とはいえ、歴史的にはロシア人がウクライナ人を搾取してきた長い歴史があるわけで、しかも“緊張感”を高めるために異なる民族を移住させた旧ソビエト連邦時代の負の遺産が顕在化しているともいえる。例えばアゼルバイジャンでも、隣のアルメニア人をナゴルノ・カラバフ地区に移住させ、人種的にまだら模様をつくり出した。ソ連邦が崩壊する過程でアゼルバイジャンは混乱状態に陥るけど、今回もウクライナで露呈した。テロが続発する新疆ウイグル自治区に漢人が暮らして統治する中国とも似ている。
こうした中、即座にドイツのアンゲラ・メルケル首相がロシアのプーチン大統領に連絡会議設置を提案し、彼も同意した。機能すれば大きな成果になると思っていたけど、その後は膠着状態だ。 - 浅田
-
ウクライナ出身のフルシチョフがソ連の最高指導者だった1954年に、それまでロシア領だったクリミアをウクライナ領に移した。プーチンはそれを元に戻しただけだと思ってるんだろうね。
もうソ連はないんで、こういう強引な国境変更は国際法違反だけど、アメリカは強面 の反応を見せてるものの、実際は限定的な制裁くらいしか手がない。プーチンは一応ヤヌコヴィッチ政権の正統性を主張してるものの、クリミアが手に入ったことだし、あとは適当なところで妥協する用意があるんじゃないかな。
旧ソ連崩壊後、グルジアのロシアからの独立を西側が応援したけど、そのグルジアの覇権を恐れて南オセチアやアブハジアがロシアに頼るっていう複雑な構図が生まれた。今回もそれと似たところがあるね。 - 田中
-
多分にプーチンには強権的なところがあるけど、今回の問題もそういう両義性を把握しないと公正な判断はできない。
- 浅田
-
ところで、ウクライナ問題が緊迫する前から、ロシアの反同性愛政策を理由に西側首脳の多くがソチ・オリンピック開会式をボイコットする中、安倍晋三首相は出席して大歓迎されたけど、そういう複雑な状況を見据えてのことなのかどうか。親分の森喜朗と二人三脚で北方領土問題の解決を狙ってるんだろうけど、あの連中がプーチンと渡り合えるとはとても思えない。
- 田中
-
対ロ問題でも安倍政権は難しい局面だね。欧米と歩調を合わせれば、別荘にまで招いてくれたプーチンの機嫌を損ねる。といって、クリミア併合を黙認すれば、尖閣諸島や竹島の問題にも跳ね返ってくる。