ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

APECの開催からアメリカの中間選挙、子宮頸がん予防ワクチン、障害者自立支援法まで! photographs by Kitchen Minoru text by Kentaro Matsui

APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が横浜で開催。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加も迷走状態、日本の農業の行く末がますます懸念されるところだ。子宮頸がん予防ワクチンに150億円の概算要求しかり、中間選挙で大敗を喫したバラク・オバマ政権しかり……。

浅田

アメリカの中間選挙で民主党が大敗を喫して、上院はなんとか過半数を維持したものの、下院は大差で共和党が勝利した。結果、ねじれ国会となってしまい、バラク・オバマ大統領は今後ますます政策を進めにくくなっちゃった。共和党前政権の尻拭いで、金融危機を一応封じ込め、GMをはじめとする自動車産業を救済し、さらには歴史的とも言える医療制度改革を実現したのに、それが裏目に出て、重税を課して政府がばらまく「大きな政府」論者だと思われちゃったんだから、気の毒な気もするね。

理想主義を捨てた現実路線で彼なりに頑張ってはいたけど、それが民主党の左派や若者を失望させる一方、共和党はそれを評価するどころか声高な悪宣伝でオバマの業績を押し隠しちゃった。大統領選挙のときの若者たちの草の根リベラリズム運動に対し、ティーパーティが草の根保守主義の反乱を引き起こしちゃったわけだ。共和党が多数を占める議会になって何も進まないから、オバマ政権も立ち往生だね。また、共和党もティーパーティに突き上げられて民主党との妥協が難しくなり、富裕層への減税と緊縮財政を求めるとすれば経済はますます失速して、その結果、次の大統領選挙では逆にオバマが有利になるって説もある。クリントン政権のときと同じようにね。まさかサラ・ペイリンを大統領候補にするわけにもいかないだろうし。

田中

両親がナチ党員だったイェルク・ハイダーが、オーストリア自由党の党首として国民党との連立政権を組んだ1999年には、ナチズム礼賛の彼にEU諸国が猛反発して、翌年に党首を辞任したけど、それから10年、今や欧州全体で、移民に対する露骨な排他的姿勢を示す勢力が規模を拡大して、ベルギーやフランスではイスラム教徒の女性のブルカ禁止令も制定された。どうも、世界的にイントレランス=不寛容な空気が蔓延している。同時に、ティーパーティに象徴される動きは、小さな政府論の共和党ですら、たじろぐほどの単純矮小化した主張。既存政党への落胆が世界中で共通している。

かたや日本では弱肉強食ならぬ「若肉老食」という言葉が聞こえてくるように、年金制度をはじめとして団塊世代以上が“逃げ切る”一方で、バブルな日本を知らない20代、30代の喪失世代は、就職だけでなく展望が見えない。若者と高齢者の世代間闘争的な淀んだ空気が漂ってきてる。

浅田

明らかに世代間闘争になってるんだけど、若者がそれを政治的に表出してないのが不安な気もするね。このまま若者の不満が鬱積した状態が続けば、いつか爆発しかねない。フランスでは、ニコラ・サルコジ大統領が財政再建のためもあって年金受給年齢を引き上げようとし、それに対して大規模なデモが頻発した。デモには高校生を含めて大勢の10代の若者が同調してて、さすがフランスって感じ。まあ、中国の地方の若者が格差社会への鬱憤を反日デモにすり替えて暴れてるのと似て、高校生が本心から上の世代のためを思いやってデモ行進しているわけじゃないだろうし、結局、サルコジの法案は議会を通っちゃったけど、あんなふうに街頭へ出て意思表示するのは、政治的な対立がはっきりと見えるから、健全と言えば健全だと思うよ。

田中

アラブ系、イスラム系の移民が増えるパリ郊外でトラブルが頻発する中で、全国的に溜まったガスが年金問題で爆発しちゃったんだろうね。フランスは革命の国で、道路の道幅一杯に広がって歩くフレンチ・デモという言葉もあるくらいだからね。日本の若者はデモさえしない。

デモで思い出したけど、10月に日比谷公園の野外音楽堂で開催された障害者の地域生活確立の実現を求める全国集会で挨拶した時にね、内閣府の村木厚子待機児童ゼロ特命チーム事務局長には、羊頭狗肉な現在の障害者自立支援法を真っ当な内容に作り替える仕事こそ特命で担当してもらいましょうよ、と述べたら、自分で言うのも何だけど万雷の拍手(苦笑)。だって、彼女は厚生労働省時代、悪名高い障害者自立支援法を成立させた立役者だったんだから。だから今回、そうしたミッションを彼女に与えてこそ、冷酷とは異なる冷徹な政治主導なのにね。

その前日に障害者の人たちと意見交換したんだけど、そのなかに呼吸器を着けて一人暮らしをしている車椅子の男性の自宅へと通って介助の仕事をしている軽度の知的発達障害の青年がいたんだ。彼が言うには僕らのようなハンディキャップを持った人間にも社会の中でできることはさせてほしい、自分も人のために役立てると実感してこそ生きる意欲が湧くんだ、と。これは大事な指摘。社会福祉には税金がかかって仕方がないという風潮が強まると、今度は一転、アルゴリズムな数値主義で切り捨てる障害者自立支援法が作られてしまった。だけど、その2人の青年が、隣近所で醤油を貸し借りするみたいに支え合うのを支援してこそ「自律」。

たとえば、公的支援を受けて厨房も調えて障害者が食堂を開設しても、スタッフ不足も理由で週に3日くらい、それも昼食の時間帯しか営業できなかったりする。それでも、補助があるから閉店には至らない。厳しいことを言うようだけど、開く以上はプロとしての覚悟を周囲が持ってやらないとね。

浅田

農業保護の話と同じことで、生半可な温情主義は決して弱者のためにならない。アルチザンになって質で勝負しなきゃ。他所にない品質の商品を作るのが無理なら、他所では見られない笑顔が見られるとか、その店があることで付近の雰囲気が和むとか、そういうことでもいいんだよ。いわゆるアウトサイダー・アートの領域で障害者がアーティストとして評価されるように、障害者がアルチザンになることだってできるはずなんだ。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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