ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

日本版グリーン・ニューディールから村上春樹の「壁と卵」まで!

バラク・オバマ大統領が進めるグリーン・ニューディール政策を受けて、日本でも、“日本版グリーン・ニューディール”が政府によって策定されようとしている。それに関して、田中康夫氏が参議院予算委員会で質疑を行った。田中・浅田両氏が思い描く日本の森林のあり方とはいかなるものか。

田中:

『ソトコト』5月号が発売される頃には、環境省による緑の経済と社会の変革の案、いわゆる“日本版グリーン・ニューディール”が取りまとめられているらしいけど、先月3月5日の参議院予算委員会でも、その件に関して質疑に立ったの。

日本の国土の70%は森林面積で、フィンランドに次いで世界第2位の割合。しかも、間伐が不可欠な針葉樹が45%。なのに、2列残して1列伐採する2残1伐列状間伐も行われずに放置されている森林が3分の2にも達するんだから、深刻でしょ。1ヘクタールあたりの間伐費用は約35万円。その6割以上を占める22万円が人件費なのだから、これぞ21世紀の労働集約型産業だ、と「『脱ダム』宣言」と共に「森林ニューディール」と銘打って、間伐面積と予算を3倍にして、土木建設業者やNPOの新規参入を促すと2001年に発表したら、林業で雇用が生まれるはずもないと冷笑されたのを思い出すよ。ところが、バラク・オバマがグリーン・ニューディールを掲げるや、永田町も霞が関も右へ倣えで追随。ホント、日本には自我がないねぇ(苦笑)。

浅田:

大恐慌の後、1930年代にルーズヴェルトのやったニューディールは、ダムや道路のようなインフラ整備が中心で、政府がイニシアティヴをとりやすかった。それに匹敵することを今やるとしたら、まずは環境分野しかない、確かにそれはそうなんだけど、それは本当は政府じゃなく民間のイノヴェーションから出発すべきもので、それを政府がどれぐらい支援できるかってことだよね。

田中:

年間3700億円でしかない林野庁予算の、その92%は林道建設や谷止工と呼ばれるコンクリートや鋼鉄を用いる公共事業。森林整備に投入されているのはわずか8%。信じられないでしょ。と、繰り返し警告を発していたら、洞爺湖サミット開催を大義名分に、間伐面積を今後6年間は従来の年間35万ヘクタールから57万ヘクタールへと引き上げた。だけど、蓋を開けてみたら、初年度から10%以上も未達成というありさま。「チーム・マイナス6%」なあんて豪語しているけど、元々が森林で3.8%を吸収する“取らぬ狸の皮算用”をしているんだから、大問題でしょ。

でね、笛吹けど踊らぬ理由を、森林所有者が判明しない面積が327万ヘクタールにも及ぶから、なあんて政府は責任転嫁しているけど、現行の間伐経費負担率は国からの補助が5割、自治体2割、所有者3割なの。なもの、山主が判明しなくとも、3割分も税金で賄ってガンガン進めるべきでしょ。なのに、どうしてできないかと言えば、実は森林組合が問題なんだ。

知事を務めていた山国でも、森林組合が最大の抵抗勢力だったよ。県内18森林組合は560人の作業員に対して、デスクワークの管理職員がニャンと240人も存在していたんだ。森林組合というのは、森林所有者である組合員から委託されて、山の管理を行うための組織。ところが、自治体や林業公社から委託された公共事業を優先して、山林所有者の依頼は後回しなの。なぜだか分かる? こうした公共事業の場合は、間伐作業費以外にも現場費だの仮設費だの一般管理費だの、様々な名目の“オマケ”予算がアドオンされて、おいしいのよ。

知り合いの山林所有者が、3ヘクタールの間伐を森林組合に依頼した。でも、1年経っても返事がなくて、樹木を伐採・搬出して丸太の素材生産を行う民間の素材生産業者に、赤字覚悟で泣きついた。ところがドッコイ、間伐したヒノキを売ったら、費用を差し引いても20万円の余剰金が出たと。

その意味では、今や全国25道府県で導入されている森林税も、その美名とは裏腹に補助金として森林組合に流れ込んで、人件費に化けている場合が大半。一方で、樹木も林地も荒廃するばかりだから深刻だよ。いずれにしても、森林こそは治水と治山を育む「公共」の財産なのだから、税金を投入すべきだよ。悪評紛々な群馬県の八ッ場ダムは1基で8000億円を優に超える事業費なのだから。

要はリーダーの決断次第なんだよね。軽井沢町の佐藤雅義町長と連名で、2001年12月に発した「マンション軽井沢メソッド宣言」と2005年12月の「軽井沢まちなみメソッド宣言」が、軽井沢の越後湯沢化を抑止する結果を生んだのはご存じのとおり。2階建て以下で1棟20戸未満、1戸当たり面積110平方メートル以上、敷地境界線から2.5メートル以上、残存木の計画的残置等を規定し、書類提出ずみの計画にも再考を求めた。仮に条例化を図ると皮肉にも、審議から施行までの間に駆け込み申請された案件は認めざるを得なくなる。その矛盾を乗り越えるために、宣言を出したんだ。厳密に言えば法的拘束力は皆無だけど、“企業市民”としての自覚を求めたことで、ご多分に漏れず、オリックスをはじめとする企業のマンション計画を中止に追い込むこととなった。

浅田:

東京駅の駅前では、逆に、東京中央郵便局を壊してて、鳩山邦夫総務大臣が突如、「子どもの頃、兄弟で切手を買いに行った思い出の郵便局を壊すな」なんてゴネてる。でも、あの程度の建物まで保存し始めたらきりがないんで、まあ第一生命ビルが残ってたらいいんじゃないかな。高層ビルの下に昔のビルの外観だけ貼り付ける「保存」ってのも異様なんで、あれなら優れたデザインの高層ビルを建てたほうがいいよ。

そもそも、小泉・竹中の郵政民営化でJPの資産が叩き売りされ、それがオリックスの宮内義彦みたいな政商の手に落ちようとしてたことが大問題なんだけど、その頃から政権与党にいたくせに今さらそれを暴こうっていう鳩山のようなやつがヒーローになっちゃうってのもおかしな話。

田中:

なんで丸ビルを壊す時には問題視しなかったのか、って話でもある。民間の建物ならマイペンライというのも変な話でね。景観こそ、公共の財産なんだという哲学が、日本には希薄なんだね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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