ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

年越し派遣村から国際救助隊構想まで!

田中:

バラク・オバマもメディアも含めてイスラエル建国に関与した米英両国の動きが鈍い中、多数の子どもや女性が犠牲となったパレスチナ自治区ガザ侵攻を停戦に持ち込もうと、フランスのニコラ・サルコジ大統領がいち早く仲裁に入ったね。この不況下にセシリア夫人と共にブラジルのリゾートまでクリスマスに出かけたと国内では叩かれているけど、EU(欧州連合)が主導権を握ろうとした仲裁自体は評価されるべきだと思うよ。

浅田:

アメリカの政治的空白期間の隙をぬって、フランスが世界の盟主みたいに前面に出ようとする、それは見えすいたスタンドプレーだけど、やってることは悪くない。

田中:

二極体制でも一極体制でもない多極体制へと世界は進むのだから、金融経済面でも脱ブレトンウッズ体制を画策する彼のような動きこそ、政治だよ。なのに、旧体制下のIMF(国際通貨基金)に10兆円も追加拠出してしまう日本の外交音痴ぶり。旧体制を維持したいアメリカにすら、そんな拠出は織り込み済みだと、感謝すらされないKYなミツグ君。おっと、表現までバブル時代に逆戻り(笑)。

浅田:

サルコジは、国内政治でも社会党の重鎮をうまく一本釣りしている。中東問題でも活躍してる現・外相のベルナール・クシュネールもそうなの。彼はヨーロッパの68年世代の典型で、新左翼の活動家だったんだけど、71年に“国境なき医師団”を創設して、ヴェトナムのボートピープルの救援とか、いろいろ実践的にやってるうちに、「人権を守るためには軍事介入も辞さない」と考えるようになる。ドイツの緑の党からシュレーダー社会党政権に参加したジョシュカ・フィッシャー元外相とも似た立場だね。68年世代がそういうリアル・ポリティクスに帰着する流れに、ぼく個人としては批判もあるんだけど、それなりの仕事をしてるのは確かなんだよね。

ちなみに、サルコジは社会党政権で蔵相も務めたドミニク・ストロース=カーンも一本釣りしてIMF専務理事に押し込んだんだけど、こっちはすぐさま女性問題でスキャンダルになる始末。それでも、一応やり手ではあるからね。

田中:

そういうタクティクスのある政治家が、日本にはいないんだよなぁ。社会党のフランソワ・ミッテラン政権が1981年に発足すると、38歳で大統領補佐官に起用されたジャック・アタリを、保守派のサルコジもあえて起用して、地中海にとどまらぬ盟主をフランスが21世紀に目指すうえでの戦略を立案するアタリ政策委員会を設けたからね。同じく国民の支持率は低いけど、彼我の違いは大きいよ。

その意味では、ソマリア問題にしても、1991年以来、中央政府が存在しない無政府状態なのだから、まずは国連主導で暫定統治を行うべき。だって、獨協大学の竹田いさみも疑問を呈しているけど、GPS(衛星利用測位システム)や自動小銃を駆使して500キロも沖合の海上でタンカーや貨物船を襲って、1年で110億円も身代金を得た連中が、内戦で仕事を失った単なる漁民な訳もない。アフガニスタン・パキスタンからアラビア半島・アフリカ大陸を経て、欧米へと至る麻薬や武器の密輸ルートの中継地点がソマリアなんだ。世界第2位の国連分担金を負担する日本は、軍事鎮圧の前に治安維持の警察的使命で富の偏在を変えるべし、と主張すべきなんだよ。

なのに、遅ればせながら、海上自衛隊の艦隊を派遣せねば、なあんて想像力の欠如した議論をしている。一体、どういう基準で対処するの? 日本以外の外国船籍が襲われた場合は? ベリーズ船籍でも日本人船員が1人だけ乗っていた場合は? そうした判断を現場の自衛官に委ねるだなんて、それこそ政治の責任回避の丸投げ。

浅田:

ソマリアのような失敗国家には、国連による信託統治というのをもう一度考えたほうがいい。アフガニスタンなんかも含めてね。アメリカが傀儡政権を立ててごまかそうとしても、長くはもたないでしょう。

田中:

国連をね、世界の警察と称していたアメリカ軍に代わる、真の意味での新しい警察・消防力を行使する組織に変容させないと。無論、強盗や火災同様に殉職の可能性はあるけど、そのシステムの構築をこそ日本は具体的に提唱し、実現すべきなんだ。

浅田:

その場合、軍と警察、戦争と犯罪を基本的に区別することが大事だと思う。「テロとの戦い」とか「海賊との戦い」とか言ってるけど、テロも海賊も、いかに大規模なものであっても、あくまで犯罪であって、決して戦争ではない。ところが、ブッシュが「戦争だ」と言っちゃった途端、アメリカ国家は何でもやり放題になったわけだ。専門家と称する連中さえ、「21世紀の戦争は、国家と国家の対称的な戦争じゃなく、国家とテロ組織等との非対称的な戦争になった」とか言って、アメリカの戦略にまんまと乗せられてる。

田中:

国対国の戦争というのはいつかは勝ち負けが決まるし、敗戦国は従うしかない。でも、テロや犯罪というのは国家ではなく集団のやることだから、インフルエンザウィルス同様にアフガニスタンでもソマリアでも変幻自在に拡大していく。終わりがないんだ。だからこそ、警察や消防の発想で取り締まるべきで、軍隊ではない。

浅田:

そう、21世紀の問題はグローバルな法治を確立することで、世界中で、警察活動、あるいは災害救助活動や医療活動がますます必要になってるだけなんだ。厳密にいえば、派遣すべきは海軍や海上自衛隊じゃなく、海上保安庁なんだよね。そういう意味では、田中さんが以前から言っているように、自衛隊を“国際救助隊”的なものにつくり替え、国連の下で海外に派遣する構想はいいと思うよ。

田中:

うん。21世紀のサンダーバード隊ね。憲法9条に第3項を設けて、地震や津波等の天変地異、内戦や飢餓等に直面する地域での救助活動や医療支援、住宅再建に駆け付ける国際救助隊を日本が創設する。

それこそは、「ショー・ザ・フラッグ」や「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」の後追いとは違う、オンリーワン・ファーストワンの顔が見える日本でしょ。なのに、そういうパラダイムチェンジを、与党も野党も示せないのが日本の政治の貧困だね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

ゴミ、捨てんなよ!

Copyright © KIRAKUSHA, Inc. ALL rights reserved.