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田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

年越し派遣村から国際救助隊構想まで!

田中:

「留学生にも手渡します」と麻生太郎首相が大盤振る舞いした総額2兆円の定額給付金。当初から僕は、2兆円あるなら、全国に約3万4000校ある国公私立の小・中学校の校舎の耐震化工事に使ったほうがいいと言ってきたんだ。1校につき、平均6000万円ほどで耐震工事ができるんだから、2兆円あれば完全実施可能。

ところが、どこかで聞きつけたのか、山崎拓まで同じことを言い出したので(笑)、僕は最近は、高齢者医療に使ってこそ景気浮揚と述べているんだ。75歳以上の高齢者にかかる医療費は、全体で年間11兆円ぐらい。

その中で高齢者が窓口で払う自己負担が1.1兆円で、保険料負担が後期高齢者医療保険給付金の1割にあたる0.9兆円。合わせてちょうど2兆円。その個人負担分がゼロになれば、高齢者も近場の温泉へ出かけたり、孫におもちゃを買ってあげたり、内需拡大に貢献できるでしょ。タンスに1円も残ってない訳じゃないんだから、貯蓄を少し使ってみようと一人ひとりに思わせる、そうした気分の問題は大きいでしょ、景気って。

浅田:

学校の耐震化工事をするだけでも地元に仕事が発生するわけだし、みんなに配ってタンス預金になっちゃうよりはるかに効果的だね。大阪府知事の橋下徹も市町村会長との会合で言ってたよ。定額給付金の支給を年収400万円以下の人に限ると、大阪府で600億円浮くから、それで小学校の耐震化ができる、と。中央からは、当然、使途が違うからダメって言われちゃったみたいだけど。この件に関するかぎり、ぼくも橋下案に賛成だね。

田中:

まあ、彼は公明党の支持で当選したから、口先だけのパフォーマンスだろうけど。この間、野口悠紀雄に会ったら、“ビッグマック指標”というのを唱えていて、ビッグマックが日本では280円、アメリカでは3ドル40セントだから、換算すると1ドル=82円。それどころか70円台に突入するだろうと言ってた。日本の貿易黒字は毎月1兆円も減っている。年間12兆円の津波が来るというのに2兆円の堤防を築こうとする発想がそもそも間違っている。

浅田:

アメリカとドルの衰退は、大英帝国とポンドが衰退したときと似て、大きな流れとしては止めようがないんじゃないかな。日本は今まで効率的な生産に集中して製品をアメリカに輸出し、アメリカが赤字になった分までファイナンスしてやってきた――日本の次は中国も。その構造全体が限界にきたわけだよ。政府は円安を維持して輸出産業を保護し続けようとしてるけど、それは無駄な努力なんで、日本も内需中心に転換しなきゃ。それは、効率的な生産じゃなく、豊かな生活を中心に置くってことなんで、そのためには円が多少高くなって消費者の購買力が高くなるのはむしろいいことだと思うよ。

田中:

そのとおり。と同時に、iPodの中身を製造しているのは日本や韓国の企業だったりするんだけど、オンリーワンの頭脳部分はアップル。だから液晶やプラズマのTVと違って値崩れしない。消費者も納得したうえでの高い利益率(イールド)を維持している。携帯電話も含めて、どうも日本は自転車操業で、タコが足を食べる状態。

浅田:

携帯電話は日本も早くから中国に進出してたんだけど、すぐに撤退した。他方、フィンランドのノキアなんかはけっこう頑張ってきて、未だに中国で大きなシェアを持ってる。日本は中途半端に人口が多いから、日本内部の市場だけで食っていけて、だから日本でしか通用しないフォーマットとか、妙なものができちゃうんだろうね。今後は、たんにものをつくって安く輸出するだけじゃなく、世界的に通用するシステムをつくるってことが大事なんだけど。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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