ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

年越し派遣村から国際救助隊構想まで!

企業の“派遣切り”が社会問題となるなか、2008年の大晦日に東京・日比谷公園で“年越し派遣村”が開設され、500人近くの失業者が駆け込み、新年を迎えた。深刻さを増すばかりの労働問題や格差社会を打破する妙案はあるのだろうか?

田中:

年末年始、日比谷公園に“年越し派遣村”が設営された。村長を務めた湯浅誠から開村式で僕も挨拶を求められて、こうした場所が出現しない来年の大晦日にしよう、と述べた後、テントの設営を手伝ったんだけど、「違うだろ、梁はこうやって立てるんだよ」と、くわえタバコで僕たちに指図する一群がいてね。「日比谷公園へ行けば炊き出しの飯が食える、風呂の無料券も出るらしい」と聞き付けてやってきたプロ失業者の人たちだったんだ。多少は同情する余地もあるんだけど、台東区の日本堤と呼ばれる山谷で年末年始に長年、支援団体が炊き出しを行ってきたのは、この時期には工事現場の日雇い仕事がなくなるからで、「国と違って都は現場を知っているぞ」と石原慎太郎は大言壮語していたけど(苦笑)、その東京都の人権部長が天下っている城北労働・福祉センターもお役所仕事で年末年始はシェルター活動を閉鎖しちゃうから、寝泊まりする場所にも事欠くんだ。だけど、早く飯を食いたいから一緒に手伝おうかという気持ちがなくちゃ、彼らの自立も難しいでしょ。

友人でもある湯浅誠は、NPO法人『自立生活サポートセンターもやい』の事務局長として、実に頭の下がる活動を続けてきているのに、今回は一種の社会現象となってしまい、と同時に、背後で労働組合や政党が「政局」として利用する臭みを人々が感じてしまったから、反発も生まれた。だって、彼らは政府と企業が責任をとれの大合唱で、“かいより始めよ”の意識がないんだもの。手前味噌に聞こえるかもしれないけど、契約打ち切りや内定取り消しに直面した方々を対象に、新党日本は緊急雇用応援プログラムを立ち上げたら、数多くの応募をいただいて、近く数名を採用するんだけどね。1972年にトヨタの工場で季節工として働いた経験を『自動車絶望工場』で世に問うた鎌田慧が共同通信に、「どうして宗教団体も労働組合も政党も、寺院や総評会館や自治労や日教組、政党の建物を開放したり炊き出しをしないんだ」と看破していたのが印象的だった。

浅田:

原則論としては、EUのように、同一労働は同一待遇・同一賃金という原則でいくべきだと思う。そうすれば、同じ仕事でも臨時雇いの倍ぐらい給料を貰って、終身雇用も保障され、年金も保険も全部ある、という特権的に囲い込まれた組合労働者と、派遣労働者なんかとの分断も、自ずと解消されるわけだから。たとえばアメリカ自動車業界のビッグ3が経営危機に陥ったのも、確かにまずは経営者の責任だけど、労働者だって、あんなに恵まれた待遇を要求し続けたら、もっと安い賃金で働こうとする人が世界中に大勢いる時代に、会社全体としてやっていけるはずがない。そういう意味で、労働組合の特権の一部が見直されると同時に、アナーキズム系の「プロ活動家」みたいな人たちも居場所を失っていく、それが真っ当な流れだろうね。

今頃になって経営者側が「ワーク・シェアリング」なんて言いだしてるけど、あれだって労働組合側がイニシアティヴをとってやらなきゃ、結局はていのいい賃下げの口実になるだけ。残業なしで給与は減るけれど、首を切られないだけありがたいと思え、と。

田中:

支持率18%の麻生太郎内閣は有権者から不信任状態、と野党は言うけど、連合(日本労働組合総連合会)、日本共産党系の全労連(全国労働組合総連合)、旧日本社会党左派系の全労協(全国労働組合連絡協議会)、全部を足しても、労働組合への加入率は奇しくもわずか18%。勤労者から信任されているとは言えないんだよ(苦笑)。

つい最近、冷戦時代にイギリスで製作されたアニメ映画の『動物農場』が日本で公開されたけど、『1984年』でも知られる原作者のジョージ・オーウェルは社会主義の可能性を求めていた。だけど、労働貴族の組合幹部や“上から目線な”似非えせインテリ社会主義者に絶望して、左からの誘いを断り続けたでしょ。改めて思ったのは、採用されれば誰もが60歳まで解雇も倒産も無縁な公務員に象徴される、選ばれし労働者と、そうではない者との、労使対立ならぬ“労労対立”の状況が今や到来しているのに、野党も組合も、政府と企業の責任のみを声高に叫ぶだけでは、5割を超える無党派層は、世の中を変えなくちゃ、と思いつつもゲンナリしちゃうよね。

浅田:

雇用の柔軟性(フレキシビリティ)と生活の保障(セキュリティ)を合わせたフレキシキュリティ(flexicurity)って概念が、北欧から広がりつつある。企業は必要に応じて労働力をフレキシブルに増減できたほうがいい、それでも労働者の生活を保障するために、失業保険、そしてとくに職業(再)訓練といったセイフティネットを充実させよう、と。労働組合もそういう時代に合わせて変わっていかなきゃね。

ともかく、製造業や建設業で労働力が余ってる半面、医療や福祉は人手不足が深刻化する一方でしょ。むろんそういう領域で働く人の待遇をよくすることが大前提だけど、労働需給のミスマッチを解消するための再教育・再訓練はとくに重要だと思うな。

田中:

ところが、それに乗じて、役人組織は職業教育を口実に、新たな天下り先としての独立行政法人なんぞをつくりたがるから要注意。だったら、例の『私のしごと館』なんぞを自分探し職業訓練合宿所にすれば、少なくとも有効ハコモノ活用というもんでしょ。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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