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田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

小池都知事の都政、オプジーボの価格、政府の働き方改革から、トランプ後の日本まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

昨年の11月18日、『日本文化デザインフォーラム』が主催する「INTER-DESIGN FORUM TOKYO 2016」に招かれた田中・浅田両氏。すでに控室での待ち時間から始まっていた対談は、ステージへと持ち越され、「憂国呆談ライヴ」となって、東京・西麻布の『SuperDeluxe』に集まった満員の聴衆を沸かせた。公開対談後に、世の中の動きを踏まえて両氏が加筆・修正したバージョンでお届けします!

田中

今や非正規労働の割合が37パーセントを超えている。その賃金水準は正社員の6掛け程度。これを欧州と同じ8割程度にまで引き上げようと、働き方改革実現会議を政府は設置した。解決すべき大事な課題だけど、「同一賃金・同一労働」が実現すれば、正社員と非正規労働者の格差が解消し、女性や高齢者も就労可能な環境が醸成され、消費も出生率も増大して、経済に好循環を生んで、多くの世帯が豊かになると“魔法の杖”のごとくに語られているのは、どうなのかな。

その前に考えなければいけないのは、賃金には職務給と職能給があるってこと。同一賃金・同一労働「先進国」のヨーロッパは仕事内容に応じて採用され、賃金も決まる職務給だから、正社員やパートにかかわらず同一賃金・同一労働を適用しやすい。でも、終身雇用や年功序列を労働慣行としてきた日本では、もちろん、仕事ぶりへの的確な評価を上司や組織が行っているのが前提だけど、仕事内容だけでなく、責任の度合いや能力・成果も加味して賃金が決まる職能給だ。

すると、同一賃金・同一労働が保証されているから勤務時間さえやり過ごせば報酬をもらえるんだよね、的な事なかれ主義がはびこると、生産性は上がらず、仕事も終わらず、結局は正社員の残業が増大する皮肉な結果が生まれてしまう。

浅田

正規・不正規の差別を解消するのはいいんだけど、いまのやり方じゃ低いほうに合わせていくことになりかねないしね。

田中

知られていないけど、公務員の世界も2012年段階で年収200万円以下の非正規地方公務員が全国に70万人もいて、実に地方公務員の3人に1人。約5万6000人の非正規国家公務員も、その9割以上が任期1年契約。厚生労働省に至ってはハローワーク職員の3分の2が非正規だよ。しかも、驚いたことに「公務員」なので労働基準法も労働保護法も適用外。監督官庁がブラック企業そのものなのに、メディアも国会も問題視せずに、電通叩きにご執心とは、いやはや。

女性社員の自殺以来、夜10時に本社全館一斉消灯を始めたけど、少し冷静に考えてみれば変な話で、生放送中に放送事故が起きた深夜番組の電通側の担当者が、過労死等防止対策推進法に基づき対応は明日の朝にさせてください、と言えるわけもないでしょ。

EUでは1993年に、深夜2時まで働いたら翌日は13時以降といった具合に、労働の終了から労働の開始まで11時間の間隔を義務付ける「勤務間インターヴァル制度」が制定されている。でも、EUと違って日本は職住近接じゃないから、鎌倉と東京・港区在住では通勤時間の差も大きくて、睡眠時間に多寡が生じるし、そもそも「クリエイティヴ」な職種には非現実的な制度でしょ。テレビドラマやCMの撮影や編集だって、睡眠時間2時間で3日間、没頭する場合もあるだろうし。

浅田

そう、出版社だって、デザイン事務所だって、締め切り直前には、そりゃあ徹夜仕事になったりもするよ。徹夜してでも納得のいくものを仕上げたいって人も多い。そのかわり翌日はまるごと休みとかいうふうにすりゃいいわけよ。形式的につねに仕事と仕事の間に合間を置かせるインターヴァル規制じゃなくてね。

田中

人事・労働問題の専門家だのコンサルタントは、事細かな制度設計を提案しがちだけど、災い転じて福となすべく、電通はシンプルでインパクトのある働き方と休暇のあり方を世に打ち出すべきだと思うよ。間隔を11時間とすべきかどうかは議論の分かれるところだけど、少なくともインターヴァル条項に満たぬ時間数を合算し、通常の休日や有休とは別に翌月に休みを取得可能とする新しい発想を導入するのが第一歩。とはいえ、それだと翌月がほとんど「毎日が日曜日」になってしまって、同僚にも迷惑をかけてしまうと思い悩むのが日本の働き蜂だから、例えば最大2年間、超過労働時間数をポイントとして貯金し、長期間のヴァカンス取得を可能とする制度も創設するのはどうだろう。

まっ、いずれにせよ、職能給でやってきた日本では個々の働き方をどう的確に評価するのか、あるいはどういった仕事は職務給にするのか、こうした議論がないまま、かたちだけ同一賃金・同一労働を目指しても、必ずまた歪みが生まれてしまうよね。

浅田

それ以前に、日本人は働き過ぎで労働生産性が低いっていう根本問題がある。

田中

確かに。OECD(経済協力開発機構)に加盟している34か国の労働生産性は、ルクセンブルク、ノルウェーに続いて意外にもアメリカが3位。日本は21位で、国民1人当たり国内総生産を示すGDPも日本は18位。長期間のヴァカンスを満喫しているフランスは17位、低成長経済なイタリアだって19位。考えちゃうね。

浅田

日本全体として労働時間を短縮し、効率化する必要がある。そのうえで、田中さんが言うように、特殊な職業については集中的に働いた後は休みを貯めて取れるといったフレキシブルな働き方にするのがいいんじゃないのかな。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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