ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

築地移転問題と賞味期限切れ

田中:

で、初回の今日は「築地市場」をテーマに縦横無尽に語ってしまおうと。築地市場は、正式名称が東京都中央卸売市場。これを、来るか来ないか判りもしない、というか来る訳もないのに税金をつぎ込んで大告知して、利害関係者じゃなかった(笑)利権関係者だけが盛り上がってるオリンピックの選手村予定地に隣接する豊洲に移す計画を東京都が強行しようとしています。もともと東京ガスのガス製造工場が30年間も存在していた場所。最近は専用船で冷却したLNG(液化天然ガス)を圧縮して持ってくるのが都市ガスですが、以前は石炭から都市ガスを造っていたんですね。それを30年やった土地に市場を移すという無謀な移転計画です。

2001年の売却時に東京ガスが東京都に出した資料があるんですが、これが現在の環境基準値でいうと、水俣病の悲劇を生んだ水銀が環境基準値を24倍も上回っていて、同じくヒ素ミルク事件のヒ素も49倍。それからシアンという青酸カリの一種ですが、これが490倍。それとですね、発がん性物質のベンゼンが1500倍。最近、東京都が再調査した数値でも環境基準値の1000倍。だから、最初に購入を持ち掛けられた芝浦工業大学は、とんでもないと断って、豊洲の別の場所に決めてしまった曰く付きの土地。

そこで焦った東京都は青島幸男都政時代に、今の築地市場は、狭くて古くて汚いという理由で、豊洲移転計画を唐突に打ち出した。当然、関係者は猛反対だよ。それに対して東京都は、盛り土をしてコンクリートを張れば問題はありませんと言い張ってる。だけど、水銀やベンゼンは気化しますから、夏場にはコンクリートの隙間から、魚や青果を扱う市場に有害物質が蒸発してくる。考えられないでしょ。

浅田:

築地市場のような生鮮食品の市場を、わざわざそんな危ない場所にもって行くべきじゃない、これは誰が考えてもわかることです。また見方を変えれば、都会のど真ん中に生ものを扱う魚市場があるってことも、面白いんじゃないか。テオドル・ベスターの『築地』(木楽舎刊)というのは、人類学・民俗学の視点から築地市場を研究した大著だけど、副題が「世界の真ん中にある魚市場」なんですね。

考えてみたら、いろんな人がいろんなものを持ち寄って交換する場所としての市場こそは、都市というものの原形でありコアでもある。その典型とも言える魚市場が依然として東京という大都市のど真ん中の築地にあるということが、文化的に見ても面白いと思うんです。

田中:

築地の問題は、現在の病んでいる混迷ニッポンを反映していて、単に解決という言葉を超えて、もっと良い空間へと築地市場を昇華していかなければならないんだと思うね。築地の市場って外国のトウキョウ案内本にも載っているでしょ。今や食道楽ニッポンの観光名所のひとつである築地を、なんで目先の経済効率だけで移設するのかということですよ。日本はアメリカの3倍、スウェーデンの2倍も魚介類を食べていて、しかも生活習慣病に悩む世界中で日本食がブームになっている。その日本食の本家本元とも言える築地の市場を汚染地帯に移すとはナンジャラホイって話です。今の築地の土地を売れば2兆円近いらしいけど、それで捨て去るものがどれだけ大きいか。海を愛する東京都知事は、恩を仇で返すなぁ、と声を大にしたいね。

浅田:

市場を郊外に移して機能的にする、跡地をきれいに整備するっていうのは、分からないでもない。でも食や食をめぐる活動は文化の一部なんで、たんに機能的に割り切ることはできないんですね。パリのレ・アルにあった市場を郊外に移した、だけど、跡地からは昔のような風情が消えて、巨大な地下のショッピング・センターがブラック・ホールのように口を開けている。ああいう過ちを東京で繰り返しちゃいけない。

田中:

築地市場の古い建物はアスベストを使っているから危険だと東京都は言い張るけど、だったら、食の文化の原点として、フィッシャーマンズ・ワーフみたいな形で再生するのが賢明だと僕は提案しているんです。それとね、銀座の高い寿司屋向けの食材しか築地市場では扱っていないと思っている人も多いだろうけど、実は都内各地のスーパーや鮮魚店で扱っている魚介類の51%は築地市場経由なの。青果だって築地で扱っている。

埋立地に移りたくないのは、市場の人たちの我が儘だと批判する人がいるけど、築地の土地を売れば巨額の収益だと胸を張ってる石原&猪瀬コンビの方が消費者の健康を無視するエゴだろうよ(笑)。そして、自分の就任以前に前の知事が決めたことだから、なあんて言い訳してるけど、そんなこと言ったら、前の首相が起こした戦争は永遠に止められないのかという話でしょ。一体、何のためにリーダーに給料払ってるんだっていう話だぜ。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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