ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

東日本大震災の復興案から、「公益事業省」創設の提言、公共広告機構のあり方、ビン・ラディン殺害まで! photographs by Kitchen Minoru text by Kentaro Matsui

東日本大震災の発生からもうすぐ3か月。世界へ向けた「復興計画」が待ち望まれるが、政府からはヴィジョンが示されないまま時が過ぎる今、被災地に何度も足を運んで支援を続ける田中氏と、声を大にして提言する浅田氏の復興案を傾聴したい。

浅田

菅直人首相が中部電力に浜岡原子力発電所の全面停止を要請した。東海地震の発生確率が高いとされてる以上、東日本大震災での福島原子力発電所の事故から考えても、当然の措置でしょう。菅政権は震災対応にせよ何にせよ支持できないものの、この要請は正しいんで、根回し不足とかいうけれど、正しいことは早くやったほうがいい。前も言ったように、長期的には脱原発を目指し、中期的には浜岡も含め安全基準を格段に厳格化する、他方、短期的には、今回のような大津波の可能性が低く安全性も向上した柏崎刈羽原発は必要なら再稼動の準備を始める、っていうようなパースペクティヴをもった対策を打ち出せば、もっと現実的だったろうけどね。

田中

浜岡は防潮堤ができるまでの期間限定でしょ。つまり2年後には再稼働が可能だと言質を中電に与えたのと同じ。しかもほかの既存の原発は現状維持だと菅は会見で言明してるんだから、安全性の向上、自然再生エネルギーへの転換等、どこまでグランドデザインを持ち合わせているのか、怪しいよ。廃炉だって立派な公共事業。太陽光、風力、地熱、波力、マイクロ水力、バイオマスと自然再生エネルギーへの転換工程表も同時に具体的に示さないと。単なる支持率浮揚のパフォーマンスと言われるのも無理はない。

浅田

他方、福島原子力発電所の後始末が予断を許さないなか、放射能防護の専門家として内閣官房参与を務めてた小佐古敏荘が辞任したね。福島県の小学校の校庭利用に関する放射線量の基準値が年間20ミリシーベルトに決められたのに対し、彼は「それだけの被曝は原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少なく、まして小学生にかかわる基準値としてはとても受け入れがたい」と涙ながらに抗議、さらに「官邸や行政機関の場当たり的な対応が事態の収束を遅らせている」と痛烈に批判した。

ぼくは一方で放射能の危険性を煽りすぎるのはよくないと思う。広島や長崎で生きてきた被爆者の大多数がガンになったわけじゃないし、我々が子どもの頃には米ソをはじめとする各国が大気圏内で核実験をやりまくってて日本の放射線量は今よりずっと高かったけど、それで大勢がガンになったわけでもない。ただ、悩ましいのは、低線量の放射線でも影響がある可能性があり、研究も十分じゃない以上、小佐古の指摘通り「低線量なら安全だ」と公に言い切ることはできないってこと。とくに、子どもや、子どもを持つ可能性のある若者に関しては、厳しすぎるほどの基準のほうがいいだろう。ホントに合理的な判断が難しいところではあるんだけど。

田中

厄介なのは、放射能は目に見えないウィルス=病原体のような存在だってこと。その範囲も濃度も蓄積も、いずれも変幻自在。ドイツの社会学者のウルリッヒ・ベックも述べているけど、被害が一定の場所、時間、社会グループに留まる航空事故や工場事故と違って、放射能事故は社会的にも地理的にも時間的にも際限ない。しかも地上だけでなく海中、空中、地下とあらゆる場所へ入り込む。いつかは勝ち負けが決まる戦争というバクテリア=細菌と違って、終わりなきテロリズムとの闘いと似ているんだ。なのに、官房長官の枝野幸男は、小佐古が3月に、1キログラム当たりの放射性ヨウ素が300ベクレルとされていた飲料水や牛乳の暫定基準値を10倍の3000ベクレルに引き上げるように提言していたと意趣返しで暴露。その小佐古提言を受け入れずに300ベクレルの暫定基準値を維持したのが政府だ、と胸を張る始末。学芸会内閣とバカにされるのも無理はない。「現時点では大丈夫」と会見で繰り返すのに、実際に福島県に出かけた時には、宇宙服のような防護服に入って、滞在時間はわずか5分。幹事長の岡田克也も、普段着で懇願する地元民の前で防護服を着たまま。考えられない。ノブレス・オブリージュの欠落した政府与党だ、と新聞は批判すべきなのに、写真入りで報じたのは産経新聞だけだった。

文科大臣の高木義明も、福島県内の小・中学校の校庭の表土に関して、その都度、放射線量を計測して、基準以下であれば取り除く必要はないと言い張る始末。文部省に科学技術庁を合体した文部科学省は経済産業省より業界寄りで、子どもたちの安全よりも原発を守ろうとしている困った存在だよ。しかも民主党は、電力総連という労働組合の集票マシンに遠慮して、東京電力という組織をいかに守るか、という枠内から抜け出せない。電力総連出身の参院議員たちは東電を守るスキームを記した紙を持って民主党議員の事務所を回ってるらしい(苦笑)。実は航空会社や通信会社と違って電力会社は地域独占企業体なのだから震災後も毎月数千億円のキャッシュフローが保証されているでしょ。だから、デューデリジェンス=資産再評価を行って、河野太郎の言葉を借りれば、逆立ちしても鼻血が出ないくらいに資産を供出するのが先決でしょ。日の丸を掲げていた「ナショナルフラッグキャリア」の日本航空も上場廃止したんだから、100%減資すれば数兆円の「補償財源」が生まれる。

東電の安易な国営化は責任の所在を曖昧にし、血税投入を正当化してしまうから、資産を吐き出させた上で抜本的な体制刷新を行い、JRやNTTみたいに競争させればいい。そのための「公益事業省」を創設すべきだと思うね。

浅田

「東日本大震災復興構想会議」の検討部会専門委員の竹村真一が『Voice』5月号に発表した新たな国土構想は、わりとよくまとまってた。たとえば、原発のような集中的な大規模発電に頼るんじゃなく、個々の建物に太陽光パネルの設置を義務化するなど、自立分散型の社会を構築すべきだ、基礎的な部分は電力会社が担うとしても、できるだけ自立したユニットがスマート・グリッドで相補ってやっていくほうがいい、と。この構想は、日本だけじゃなく、とくに「ベース・オブ・プラネット」と呼ばれる途上国にも広め得るもので、普遍性もあるし、ビジネスとしてもいいんじゃないか、と。ちなみに、それこそベーシック・インカムも、それとの関連で有効になるかもしれない。

田中

例えば、100軒ほどの地域ごとに太陽光発電した電力を1か所に集めて、そこから各家やビルに分配する。電力会社はその分配会社になればいいんだね。サプライサイドから電力を分けてやるという姿勢じゃなく、コンシューマーサイドに立って、サービス業に徹するという発想に変えていくのが「公益事業省」の仕事。福島だけでなく順次、原発を廃炉にするのも立派な公共事業なんだから、こうした工程表を示すべき。

浅田

フランスの原発企業アレヴァなんて、それで儲ける気なんだから。CEOのアンヌ・ローヴェルジョンは、社会党のミッテランに引き抜かれてシェルパ(首脳会議個人代表)まで務めながら、保守党のサルコジの下でもアレヴァCEOの続投を決めた凄腕だけど、「今回の対策にいくらかかるか?」と日本で記者に問われて、「緊急事態のいま、そんな些細な交渉をしている暇はない」と(笑)。いやはや、請求書がおそろしい。ともかく、原発事故が起こるとアメリカ軍とフランスの原子力産業が手ぐすね引いて乗り込んでくるってのが、世界の現実を象徴してるね。

田中

アレヴァの言い値で数兆円も支払う羽目に陥る日本は、東芝や日立が廃炉技術や汚染水処理に進出するビジネス戦力こそ支援すべきでしょ。4月29日の衆議院予算委員会で、「オーランチオキトリウム」研究を国全体で取り組むように提言したんだ。オーランチオキトリウムは筑波大学大学院の渡邊信教授が去年、沖縄で発見した藻で、1ヘクタールあたり年間1万トンという高能率で炭化水素をつくり出せる「石油を産み出す藻」。今回の津波で塩を被った農地が2万ヘクタールだから、そこで培養すれば日本の年間石油消費量を賄える計算。塩田となった場所はラムサール条約に認められるような湿地帯として再生しつつ、新エネルギーとなるオーランチオキトリウムを培養する。光合成は必要ないから、上に太陽光パネルを張り巡らせた培養槽の中でも育つんだから、一石二鳥でしょ。これこそ、オンリーワン、ファーストワンのものづくり産業で世界から評価、信頼されてきた日本が、震災の悲劇を乗り越えるために取るべき方策の一つなんじゃないかな。既にアメリカの石油メジャーはこの開発に食指を伸ばしている。東電を守ろうという紙を配って回る暇があるんだったら、新しいエネルギービジネスに向けた大転換を図ることに時間と金を使えって話。

なのに、連休前、津波で塩田となった2万ヘクタールの水田から塩分を除く土地改良を3年ですべて行うという法律案を閣議決定しちゃった。計上した予算は、補正予算だけでも689億円! しかも全額国庫負担。今までの水田で稲作を再開したい農家の思いはわかるけど、平安前期の貞観地震以来の古文書が示すように、数十年、数百年後には再び津波に見舞われる土地なんだ。減反政策で同じ自治体に膨大な休耕田や荒廃農地が存在するんだから、そこを整備して換地して、米を作ってもらうほうが、利権の匂いが漂う土地改良に大金を費やすよりよほど、真っ当な政治主導だと思うんだけどね。自民党は離党しても全国土地改良事業団体連合会の会長の座は手放さない野中広務と近頃、仲が良い仙谷由人は怒り狂うだろうけどね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

ゴミ、捨てんなよ!

Copyright © KIRAKUSHA, Inc. ALL rights reserved.