ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

東日本大震災の復興支援から、田中氏の南相馬市への訪問、新しいエネルギー体系のあり方、統一地方選挙の実施まで! photographs by Kitchen Minoru text by Kentaro Matsui

まさに未曾有の大災害と呼べる、東日本大震災の発生から早くも2か月が経とうとする。被災地では仮設住宅の建設も遅々として進まず、復興への道筋すら明確には見えてこない中、統一地方選挙も含め、日本の未来のあり方を語った。

浅田

東日本大震災が発生して2か月が経とうとするけど、マグニチュード9.0という世界の地震観測史上4番目に大きな地震だっただけに、東北や関東の沿岸部の被災地は深刻な状況が続いてる。とくに、東京電力の福島第一原子力発電所の危機的状況はいまだに予断を許さない。地震発生時に稼働してたすべての原子炉が自動停止したのは見事で、チェルノブイリのような爆発が起きる確率は低くなった、それは評価すべきだし、政府も内外にそのことをもっと強調すべきだとさえ思うよ。ただ、津波に燃料タンクをさらわれ、自家発電装置がダウンして、電力会社なのに電力供給が絶たれた結果、そのあとの冷却がうまくいかず、複数の原子炉がスリーマイル島のような状況になっちゃった。ガルシア=マルケスの『予告された殺人の記録』にならっていえば、まさに予告された惨事だよ。津波の想定が甘いことから、津波で自家発電装置がやられたら緊急冷却装置がダウンしかねないことまで、みんな原発反対派が口をすっぱくして言ってきたことでしょう。タテマエでは「原発は絶対に安全です」と言いながらも、陰でいざというときの準備くらいしとけっての。東電幹部が自分で外向けのタテマエを信じてどうするんだ? 下手に準備をすると「やっぱり危険なんじゃないか」って反対派に言われかねない、それで準備をしなかったって説もあるけど、ひどい話だよ。とにかく、マグニチュードの速報値を聞き、燃料タンクが流れていったのを見た段階で、絶体絶命の状況なのはわかったはずだから、その段階で東電は企業の論理を捨て、技術の論理だけで最善の安全策をとるべきだったし、政府もそれを後押しすべきだった。廃炉を覚悟で直ちに海水を入れて冷却し、できるだけ早く真水に切り替えればよかったんだ。非常事態なんだから1兆円でも2兆円でもどぶに捨てりゃいいじゃない? その決断ができなかったために、いつまで続くとも知れぬ泥沼になり、十兆円単位の損害を出しちゃった。とくに、現場で命がけで事態の収拾に努力してる東京電力や下請け会社の作業員たち、そして消防や警察や自衛隊の隊員たちは、本当に気の毒だと思う。

田中

今は批判でなく、決死の作業員を日本国民全員で激励し後押しすることだ、と奇妙な“一億総懺悔”論が展開されたけど、太平洋戦争時も今回も、最前線の人々は純粋で一所懸命。それ自体は否定しない。でも、だからって、東電や政府の危機管理能力の欠如が免罪されるわけじゃないよ。まずもって、耐用年数30年の原発が、建設後40年を過ぎた今も1か所に6基も並んで建っていること自体、リスク分散になっていない。さらに7基、8基と増設しようとしていたんだから恐ろしいよね。政府は、4月4日の各党・政府震災対策合同会議で全政党から汚染水処理についての質問が相次いでも具体的方針を何ら語らなかったのに、そのわずか2時間後の会見で官房長官の枝野幸男は、「建屋内に溜まっている高濃度の放射性物質を含む汚染水が海に流れないことを優先」する上では、「法定濃度100倍の汚染水は低濃度放射性物質なので、安全確保のために了承した」と述べたんだから、これこそ、国民への情報公開と説明責任の放棄。この問題に限らず、「今のところ」「念のため」と責任逃れな“こだま問答”に終始している。

浅田

社会学者のウルリッヒ・ベックが「リスク社会論」を提唱したのはチェルノブイリ原発事故の後なんだよね。近代の技術進歩と経済成長が原発のような段階まで達すると、富の分配にもましてリスクの分配が問題になるんだけど、富と違ってリスクは万人がシェアせざるをえない。ひとたび原発が事故を起こせば、その被害は国境を越えて広がり、万年単位で続きかねない。確率計算に収まらないし、一企業ではとても補償できない。現に今回だって最後は国が補償するほかないだろうね。だからベックは成長一本槍の近代から再帰的(反省的)近代への転換を唱えた。そのベックのいるドイツは、緑の党によって脱原発に向かいながら、最近は地球温暖化問題で原発推進派が巻き返しつつあった、それが今回の事故でまた反転しかけてるわけだけど。

田中

太陽電池=太陽光発電の技術開発力と市場占有率は1970年代、日本がダントツだったんだ。でも、政府が後押しせず、今や中国やドイツの後塵を拝している。ならば既存、新築のビルも家屋も太陽光パネルの設置を建築基準法で義務付けて、シャープや三洋電機の事業所展開を被災地で政府が全面支援して、地域雇用を確保すべき。東電の安易な国営化は責任の所在を曖昧にし、血税を投入して、官僚の天下り先としてモンスター化しかねない。通信、航空などの競争導入経験が豊富な分野を包含した公益事業省を創設して、競争原理が働きにくかった電力会社の抜本的態勢刷新を、と経済ジャーナリストの町田徹が述べているのはアリだと思う。

浅田

本当は、原発推進派の経済産業省に属する原子力安全・保安院じゃなく、アメリカの原子力規制委員会みたいな機関が、現場を掌握すべきだった。枝野の言ってるような細かいことは、そこの報道官が言うべきことで、官房長官の言うべきことじゃない。しかし、その枝野がいちばんましに見えるんだから、いやはや……。菅が原発の現状さえなかなか報告しない東電幹部に怒鳴った気持ちはわかるけど、首相の持つべき大局的な見通しはぜんぜん持ってないし……。

田中

震災当日、僕は人工股関節を左脚にはめ込む手術を受けて県立尼崎病院に入院中だったんだけど、国民新党幹事長の下地幹郎幹事長に連絡を取って2つの初動対応を官邸に提言した。「災害対策基本法」に基づいて、NHKラジオ第2は被災した福島、宮城、岩手、青森の県域ごとに飲料や医療等のライフライン情報を24時間3日間提供せよ。そして、自衛隊のヘリコプターを低空飛行させて中山間地の家が2、3軒しかないような集落にも水と食料、毛布、防寒着、手動式充電ラジオ、充電済み携帯電話を梱包した袋を投下せよと。なのに、上空からの物資投下は法律上できないなんて「手続き民主主義」な返答を繰り返すだけ。2日後の13日には国民新党代表の亀井静香が首相に再度、4項目を提言。災害対策本部に日本共産党を含む全党3役クラスを参画させ、即断即決で対応しよう。陸上自衛隊東北方面隊の総監が指示するのでなく、救援にあたる自衛隊の陸海空3隊を機動的に動かすために統合幕僚長を現地に常駐させる。仮設住宅と用地を10万戸単位で確保すること。そして、阪神・淡路大震災と違って東北の被災者の大半は家族や住居だけでなく職場も失っているんだから、国や自治体に加えて、経団連や経済同友会、連合などの傘下企業、組合に1社10人ずつ緊急雇用を求めること。そういう提案をしたものの、首相官邸は何一つ実行しない。最悪の事態を最悪の首相で迎えてしまい、最大の被害国は今や、放射能で最大の加害国だと世界から見られている。

浅田

それにしても、震災直後に東浩紀がニューヨーク・タイムズに寄せた投稿の能天気ぶりには驚いたな。自分が家まで歩いて帰宅難民と連帯意識を持っただけで、震災によって日本人が連帯感を取り戻し、「日本人であることを誇りに感じ始めている。自分たちの国家と政府を支えたいと感じている」って(苦笑)。国家や資本を批判するのは古い左翼だ、そういう批判をするんじゃなく、積極的な提案をネットで広げていくのが新しいんだっていうんだろうけど、あの政府や東電のていたらくを批判せずしてどうするの? だいたい、悪いけど東京以西じゃ地震があったとも知らずに飲めや歌えで盛り上がってる連中がいっぱいいたし、今もいる。ホリエモン的に言えば、被害を受けなかったところはそうやって消費して経済を支えるのが資本主義的に正しいわけ。シンディ・ローパーが震災後、日本で大きなコンサートを開いたのも、結構なことだと思うよ。もちろん寄付もするわけだしね。被災を免れたところでは、そうやって普通の生活を維持しながら、できるだけのサポートをすればいいんだよ。東浩紀に言わせればそういうのは「非国民」になるのかもしれない。それじゃあ関東大震災のときのナショナリズムの吹き上がりを批判できないな。

それに比べれば、同じニューヨーク・タイムズでも「日本政府は哀れだった。そして日本の人々は偉大であり、ありえないほどの苦難を威厳と雅量をもって耐えてきた」とエールを送るニコラス・クリストフのコラムのほうがまともだった。ちなみに、レベッカ・ソルニットの『災害ユートピア』によれば、アメリカでもどこでも基本的には同じだって言うんだね。大災害で無政府状態になると暴力が横行して大変なことになるとか言うけど、実際は同じ被災者となった市民たちは公がダウンしてもけっこう自主的に助け合うんだ、ハリケーン・カトリーナで大打撃を受けたニューオーリンズでさえ最初はそうだったのに、一方で黒人が銃をもって略奪に走ってるって噂が流れ、他方でそこへ武装した警察や州兵が投入される、その結果として暴力の悪循環が始まったんだ、と。今回の日本はそういう市民レべルの助け合いの好例ってことじゃないかな。

ともあれ、市民として阪神・淡路大震災の救援活動をした経験が政治家としての原点といってもいい田中さんも、政府の対応に業を煮やして南相馬市に向かったわけだ。

田中

そう。医師の許可を得て退院を早めて、3月19日から21日に、その後も4月に3回。福島県南相馬市は、東電関係の原発交付金(原子力発電施設等立地地域特別交付金)という「飴」を1円も受け取っていない自治体。実は市長の桜井勝延とは、大手電機メーカーが広域暴力団系の企業を用いて計画していた違法な産業廃棄物処分場建設に、彼が一市民として反対していた10年前からの知り合いなんだ。地震発生から1週間、南相馬市には「東京電力からも政府からも1本の電話もなかった」。市内の一部が30キロ圏内に入っている南相馬市は「屋内退避」を求められる。「屋内に留まれ。食料・物資は自己調達せよ」という矛盾に満ちた「鞭」を打たれ、運送会社も被曝を恐れて何も届かない「平成の棄民」状態に留め置かれたんだ。被災地の自治体が自前で物資を調達できるわけがないんだから、自衛隊や輸送会社の車両で“兵站=ロジスティックス”を確保・実施するのが政府の責務。そのために災害対策基本法で各種機関や企業に命令できるんだ。

3月25日に住民は政府から「自主避難」を「要請」される。「勧告」や「命令」でなかったのは、避難指示だと国が費用を出さなければならなくなるから。自主避難なら国庫支出が少なくて済むと“事業仕分け”。「国民の生活が第一」の正体見たりと民主党支持者も呆れたんじゃないの。初回に現地へ一緒に向かった下地幹郎は、沖縄からコンテナで運ばせたミネラルウォーターや黒糖飴を、僕は阪神・淡路大震災のボランティアの経験から、水の要らないドライシャンプーを資生堂の池田守男相談役に頼んで調達した。それらを、営業所2か所が水没して200台あるトラックの70台が流された仙台市の運送会社の協力を得て、金融機関が支店を閉める中、各地で営業している郵便局や避難所に運んで被災者支援したんだ。普段は大手町や表参道で昼休みに無添加弁当を販売するアジアンランチとも連携して、旧相馬女子高の避難所で南相馬市民に2000食の炊き出しもやった。ヴェトナムの米麺フォーを茹でて、エスニック味の料理6種類から2種類をその上に盛り付ける炊き出しね。ツイッターでメニューを流したら、贅沢だと間抜けなツイートがあったけど、お仕着せの支援でなく、自分で、それも温かい料理を選び、味わう喜びを分かち合ってこそ明日への活力が得られると考えたから。少し辛めだから心配したけど、お年寄りも子どもも食べてくれたよ。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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