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田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

前原誠司外相の辞任から、統一地方選挙、中東動乱、「救国内閣」の行方、対談直後に発生の大震災まで! photographs by Masaya Tanaka text by Kentaro Matsui 撮影協力=エーデルワイス tel.06-6426-2561 http://www.edelweiss.co.jp/

尼崎市にある洋菓子メーカー・エーデルワイスの「エーデルワイスミュージアム」を見学した後、会議室のテーブルを挟んで向き合う田中、浅田の両氏。チョコレートをいただきながらの呆談だったが、政治を語るその言葉はけっして甘いものではなかった!

田中

ところで今回の「憂国呆談」は、尼崎市にある洋菓子メーカー「エーデルワイス」の本社工場の会議室を借りて行っているんだけど、創業者で現会長の比屋根毅さんは石垣島出身。戦後、15歳のときに無線通信士になろうと那覇へ出て、夜学で勉強しながら昼間はラジオ店で働いた苦労人。もっと広い世界を見たくなって17歳で神戸へ。洋菓子店で修業を重ね、菓子職人として1969年にエーデルワイスを尼崎の商店街の外れで開業。梅田の阪神百貨店の地下食品売り場にも出店した際にはガラス張りの工房でパティシエがケーキを作るスタイルを初めて導入したんだ。ガラス張り知事室の先駆けみたいなもの。彼は新ブランドのアンテノールを展開し、ヨーロッパでも研鑽を積み、ベルギーのチョコレート会社、ヴィタメールと提携するんだけど、その頃から収集されていたのが、先ほど見学した「エーデルワイスミュージアム」に展示されていた伝統的な菓子作りの道具ってわけだ。

浅田

自社の仕事に関連するミュージアムをつくるってのは素敵だね。大規模な生活文化博物館だと退屈するけど、ヨーロッパの菓子文化に絞ってるから面白く見られる。日本でも餅菓子が特別な祭りの食べ物だったように、クリスマスやイースターといったカトリックの祭りと関連して菓子が発展してきた様子がよくわかる。

田中

ヨーロッパの旅行ガイドには、国立美術館と歴史博物館の次に、こうした生活芸術=アプライド・アーツの美術館が掲載されているけど、日本は少ないからね。

浅田

日本は民藝に行っちゃって、本当の意味での生活文化を展示するミュージアムは少ないね。ところで、4月10日に統一地方選挙が行われるけど、東京都知事選は、得意の後出しジャンケンで、石原慎太郎がまた立候補することになった。

田中

対談直後に東日本太平洋沖地震が勃発したので加筆するけど、統一地方選を被災地に留まらず全国で半年間、延期すべき。それこそ自粛でなく支援だよ。なのに、すでに決定していた選挙だからと総務大臣の片山善博は難色を示した。こうした官僚体質を刷新するのが「政治主導」だったのにね。築地市場移転問題をはじめ、石原都政には負の遺産が数多い。でも、その他の候補者がねぇ。

浅田

群小ポピュリストが乱立しちゃって、石原がましに見える──と思ってたら、震災は我欲に走る日本人にバチが当たったようなものだ、なんて言っちゃうんだから、石原もすごいよ。

田中

理に叶った公約を掲げている小池晃が共産党を離党して、無所属で戦ったなら心情的にも支援するのに、とつぶやく国会議員は与野党問わず保守系にも少なくなかった。

とまれ、有権者は一向に機能しない議会制民主主義や政党政治に愛想を尽かし、閉塞感が漂い続ける社会をダイナミックに変革してくれる政治家を探し求めている。その先駆けは、石原が当選した1999年の都知事選であり、翌年の長野県知事選。最近で言えば、「大阪維新の会」を立ち上げた大阪府知事の橋下徹や、地域政党「減税日本」を率いる名古屋市長の河村たかし、あるいは前阿久根市長で鹿児島県議選に立候補の竹原信一。

ただ、河村はトリプルスコアで名古屋市長に再選されたけど、名古屋市議選で減税日本は全75議席の3分の1に留まった。1人を選ぶ、いわば小選挙区制と同じ首長選と違って、中選挙区制だからね。16の各選挙区で5議席前後を、自民、民主、公明、共産といった指定席を持った既存政党と取り合う選挙。40人もの候補者を立てるから過半数に届くと河村は豪語したけど、土台、無理。選挙翌日の新聞は、首長の暴走を牽制する議会構成を選択した住民の絶妙な「バランス感覚」と、したり顔で論評していたけど、これも既視感。山国・信州の歩みと同じで、首長と議会の“千日手”に陥っちゃうんだね。

それに、減税日本が掲げている市民税10%減税も、富裕層には多少の利があるだろうけど、年収400万円以下の大半の市民には年額1万円前後と「この程度か」の金額。そして、減税以外の具体的変革を河村は語ってないんだから。

浅田

政党政治が行き詰まってるのはすでに明白なんだけど、そこで何が問題かというと、政党政治をポピュリズムによって乗り越えると称する動きが出てくること。ドイツだってワイマール共和国の行き詰まりからナチスが出てきた。まあ、いまそんな危険なことが起こるとは思わないけれど、実際、ポピュリズムではこの閉塞は超えられない。確かにいま増税するのは愚だとして、じゃあ減税日本を国家全体でやったらどうなるのか。財政破綻が早まるだけだよ。もちろん、短期的には無駄の削減が急務で、河村のように政治家や公務員の人件費をカットするのはいいことだけど、長期的には全国民で痛みをシェアして財政再建の道すじをつけなきゃ。

田中

河村は前総務相の原口一博が地域主権推進を旗印に立ち上げた「日本維新の会」とも連携してるけど、大阪の橋下は微妙に距離を置いている。彼なりの嗅覚が働いたんだろうね。その橋下は、府内の中学校に学校給食を導入しようとしてる。中学校の給食の実施率は全国的には8割ほどだけど、大阪府はたったの1割程度。ところが、学校給食も、大阪都構想も、世論調査では府民は必ずしも高く評価していない。

教育や福祉の充実を有権者は求めるけど、不思議にも僕の経験上、具体的に実現しても評価や支持には結び付かない。長野での変革の成功と失敗を一つのプロトタイプとしていた橋下も、どうしてなのだろうと思っている。

浅田

橋下のポピュリズムには総じて反対だけど、個々の案件については、和泉市の槙尾川ダムの建設中止にせよ中学校への給食の導入にせよ、よくやってると思うんで、見直した。国政にまつわるヘンな動きと距離をとってるのも賢いね。

しかし、政党政治が行き詰まった末にポピュリズムから右傾化する動きは、日本だけじゃない。アメリカでもウィスコンシン州知事になった共和党のスコット・ウォーカーが、財政再建策の一環として州職員組合の団体交渉権を剥奪する法案を提出したことで、組合が州議会を占拠する騒ぎに。民主党の州議会議員が議事進行を遅らせるため州外に脱走したら、「けしからん、逮捕して連れ戻す」と。ウィスコンシンは最初に団体交渉権を認めた州だけに、象徴的な意味もあるんだろうな。むろん、日本でもアメリカでも地方議会や組合が改革の足を引っ張ることが多い。しかし、だからといって「茶会」的なポピュリズムでそれを押しつぶすとしたら、非常に危険だね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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