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田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

鳩山首相の所信表明演説からドラマ「ザ・ホワイトハウス」、ベーシック・インカムまで! photographs by Yusuke Abe   text by Kentaro Matsui

日本航空、普天間基地移設、八ッ場ダム建設中止など、問題解決に向けて迷走を続ける日本政府。思えば、「チェンジ!」を合言葉にドラスティックな改革を期待した昨年9月の興奮は、じりじりと下がる内閣支持率とともに次第に冷めつつある今日この頃だが、田中氏と浅田氏が再び政府に火を付けるべく、それぞれの持論を展開した。

浅田:

鳩山由紀夫首相の所信表明演説は、中学校の学級会で優等生が綺麗事を並べてるような感じだったね。「命を守りたい」って、そんなことを政治理念として言われても困っちゃう(笑)。

田中:

情念とか、情緒という言葉をあてはめることすら、その言葉に申し訳ないほどの内容だったなぁ。あの演説原稿を担当して、閣僚の前で朗読している最中に自ら泣いたという内閣官房副長官の松井孝治や、本会議直前まで発声指導をしていた劇作家で内閣官房参与の平田オリザはナンジャラホイって感じ。助言したら軌道修正できるような、そういう次元ではない。まさにIt can not be helpedだよ。

浅田:

鳩山首相は昔から「政治は愛だ」とか言ってハート柄のネクタイなんか首に巻いてたような人だから、そういうことを言い出す素地はあったと思うけど、むしろそれを現実的な形にしていくのが補佐官やスピーチライターの役割なのに、そいつらのほうが浮ついちゃって、まるで夢物語みたいな所信表明になってた。一斉に拍手する民主党員も含めて中学校の学級会だよ。

日米を軸とした安全保障を再定義する好機なのに、沖縄の普天間基地移転問題でもめるだけで、大きなヴィジョンがない。景気対策も、短期的には財政政策のアクセルを踏まなきゃいけないと同時に、中長期的な成長・成熟戦略や財政再建戦略も打ち出さなきゃいけないのに、それがまるでできてない。

田中:

やはり去年の秋の臨時国会で補正予算案を出さなかったのが、つまずきのきっかけだなぁ。景気は気分なんだから、疲労困憊の全国の介護職員の時給を1月から30円上げると。それに伴う都道府県、市町村の負担増は22年度当初予算で補填するからご協力を、と宣言した上でね。あるいは、老朽化している全国のトンネルや橋を一斉点検して、危険箇所は前倒しで同じく1月から補強を開始すれば、彼らの言う「コンクリートから人へ」のコンセプトをとても分かりやすい形で国民に示せたのにね。地域の土木建設業者も大喜びで、熱烈な支持者となったのに。

彼らはストックホルム症候群ならぬ「スポットライト症候群」だと思う。戦略も戦術も持ち合わせていないのに、テレビカメラのライトを浴びると上気して、首相も官房長官も外務大臣も国交大臣も防衛大臣もみんな、その場の思いつきで喋ってしまう危うさがあるでしょ。善くも悪くも直前に会った他人の助言に左右されやすい鳩ちゃんの場合、その意見をすぐにそのまま喋っちゃう。まあ、そこが彼のお坊ちゃんたるゆえんかも知れないけど、定見というか覚悟はあるのか、と思われてしまうマイナス面も大きい。もちろん、自民党だって党内だけでなく閣内でも百家争鳴だったけど、少なくとも意見は収斂する方向に進んで、沈黙の孤独を保っていた宰相が最後に決断を下す形だった。ところが、現在の民主党は拡散していくだけ。

浅田:

そこが、民主党の学級会たるゆえんだよね。むろん、仮にも議員なんだから新人を一人前扱いしない小沢幹事長の独裁もよくないけど。

田中:

新聞には学級崩壊なんて書かれちゃう始末。自民党にお灸を据えようと民主党に一票を投じたウルトラ無党派層は、“げんなり”している。その学級会の一員で、考えがコロコロ変わるものだから『週刊文春』や『日経ビジネス』に「お子ちゃま大臣」と命名されてしまった新自由主義の前原誠司国土交通大臣は、実は「チンピラ大臣」だったという現場に立ち会っちゃったよ(苦笑)。衆議院の予算委員会で町村信孝が公共事業の在り方を語っている最中に、閣僚席から突然立ち上がって、「今の政権に文句を言うのは止めていただきたい」と不規則発言&仁王立ち。町村が「持ち時間が終わりましたので質問を終えますが、何かおっしゃりたいことがあるんなら、どうぞ」と大人の対応に出るや、「ここまで財政赤字を膨れ上がらせ、バラマキの公共事業をやってきたのはどこの政党ですか? 2890ものダムを造り、97の空港を造り、65のコンテナの港を造ったおかげで、我々はその維持修繕費用すら出せない」と一気呵成にまくし立てたのよ。で、喋り終えた後も前原は両手を腰に当て、居丈高な姿勢で町村を睨み続ける。いやぁ、まさに、チンピラ大臣。そりゃあ俺だって、全国最悪の財政状況に陥っていた山国の知事になったら、聞きしに勝るとんでもない伏魔殿で大変な思いをしたよ。でもね、選挙で選ばれたリーダーは、いや、会社だって社長になった人間は、すべてを背負っていかなければいけないんだ。そうした覚悟もなく、政権交代から半年近く経っても「自民党がひどかった」と自分たちの迷走振りを棚に上げて責任転嫁ばかり。まさしく“げんなり”だよ。

こうした発言をすると、お前だって与党の一員だろ、と言論封殺を強要する空気があるけど、あのね、粛軍演説や反軍演説を国会で行った斎藤隆夫は政権与党の議員だったんだよ。しかも感動したのは、2・26事件を批判して、軍部大臣に「粛軍」を求めた彼の演説が掲載された官報を、全国津々浦々の国民が奪い合って読んでいるんだよ。インターネットもテレビもない時代のほうが民度が高い。“げんなり”している側も覚悟の程が試されているんだなぁ、と痛感したよ。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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