ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

サッカーW杯から、大阪府北部地震、西日本豪雨被害、記録的猛暑まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

東京・大田区にあるカフェ&レンタルスペース『蓮月』で、中庭で採れた梅からつくった梅ソーダを飲みながら、2階の畳の間で対談を始めた田中、浅田両氏。サッカーワールドカップの話題に花(?)を咲かせ、間違いだらけな日本の治水・治山が生んだ西日本豪雨の被害についても語り合った。

浅田

今回は池上本門寺門前の『蓮月』にお邪魔してる。昔の蕎麦屋の建物を受け継いだ古民家カフェだけど、いい感じだね。

本門寺は日蓮の終焉の地で、江戸有数の大伽藍だったのが、五重塔なんかを除いて戦災で焼け、戦後に復興された。経営者の輪島基史さんの話では、屋号が大田垣蓮月から来てるかは確認できてないらしいけど、この幕末の尼僧の送った「あだ味方 勝つも負くるも哀れなり 同じ御国の人と思へば」って歌が西郷隆盛を動かし、勝海舟との会談で江戸城無血開城が決まったとも言われる、その会談の場も本門寺だった。

ちなみに、明治維新の主役は、安倍晋太郎が故郷の英雄と仰ぐ吉田松陰のような草莽の志士だったって言われるけど、松陰ってのは、欧米の帝国主義を恐れるあまり、それに対抗するには日本もどんどんアジアを侵略せねばって発想なんだよね。そういう過激派に対し、幕府方にも勝海舟のような国際的視野をもったやつがいたし、冷戦終結時のソ連・東欧の共産党のように自らの歴史的使命が終わったことを自覚して無駄に争うことなく大政奉還に応じた、それが蓮月を悲しませた内戦をまだ小規模で終わらせたってのが、最近強調されるようになった見方。ぼくもそれが正しいと思う。

田中

「笑っていいとも!」を生み出した横澤彪さんの葬儀で訪れたのを想い出した。この一帯は馬込文士村と呼ばれて、三島由紀夫も白亜の洋館に暮らしていたね。

浅田

あと、近くにはボストン美術館で東洋美術に目覚めたっていう日本画家・川端龍子りゅうしの旧宅と記念館があり、迫力のある作品が見られるし、本門寺大堂にも絶筆となった天井画がある。ついでにぜひ。

田中

ところで、サッカーのワールドカップはフランスの優勝で幕を閉じたけど、人口約440万人のクロアチアが決勝戦まで進んだのはある意味、快挙だ。同国では初の女性大統領コリンダ・グラバル=キタロヴィッチがサポーターたちと一緒の便に、自費で乗り込んでいた話も話題となった。

他方、クロアチアの隣国ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のヴァヒド・ハリルホジッチ監督を突然に解任し、下手したら予選で3連敗かと言われていた日本は決勝トーナメントに進出して喝采を浴びたけど、川淵三郎JTL(日本トップリーグ連携機構)会長と田嶋幸三JFA(日本サッカー協会)会長の二人が引き続き君臨する体制を温存する「成果」にも繋がってしまったのは痛し痒し。実際、同様の懸念を述べるSNS上の投稿が目立った。全国の各地域に根ざした活動で若い世代を育成するという大義名分を掲げて設立されたはずのJリーグ(日本プロサッカーリーグ)が、いつの間にか中央の上部団体に上納するネズミ講のように変質したピラミッド体制を刷新する機会を逸してしまったからね。若年層の人口が減少する一方なのに、J1リーグだけでも18チームが存在する。J2が22。J3が14。U-23が3。そして「Jリーグ100年構想クラブ」という奇妙な人参をぶら下げられた6チームも加えると日本プロサッカーリーグに計63ものチームが群雄割拠。その下のレイヤーのアマチュアサッカーリーグとしての日本フットボールリーグJFLにも16チーム。川淵が打ち出したJリーグの拡大路線は、矢継ぎ早に店舗展開する本部が現場との意思疎通を図れずに問題山積に陥っていく新興のフランチャイズチェーンみたいだね。

「ハリルホジッチ監督の時、ほとんど勝てる可能性がないので、オランダ、イタリア、アメリカのサッカーファンのことを考えれば出場できるだけラッキーと考えてW杯を楽しんでくださいと講演などで話していた。西野監督に変わった今は何か起きるかも知れないというドキドキ感が今朝になっ自分に出てきた(原文まま)」と6月18日にツイートして、その言い草がスポーツマンシップかよと大ブーイングを川淵は受けた(涙)。

浅田

0対1で負けてた対ポーランド戦の終盤、決勝トーナメント進出を争うセネガルがどうなるかもわからないのに、日本は無意味なパス回しに徹する戦術を取り、結果、フェアプレー・ポイントでセネガルを抑えて決勝トーナメントに進出した。ルールに即して合理的な戦術に徹したのは成熟だとか言うやつもいるけど、国際サッカー連盟(FIFA)の行動規範第一条に「どんな試合をプレーするときも勝つことが目的だ。……勝つためにプレーしないのなら、相手を騙し、観客を欺き、自分に嘘をつくことになる。……全力でプレーしないのは相手への侮辱だ。試合終了の笛が鳴るまで勝つためにプレーせよ」とあるんだからね。「フェア/ファウル」ってのは「きれい/きたない」なんで、世界の観客はあれを「ファウル」と感じてうんざりしたんじゃないか。

田中

フェアプレーでないのに「フェアプレー・ポイント」で決勝トーナメントに進むという(笑)。なのに田嶋は「逆にああいうサッカーをできるようになったのは凄いことだ」と現地で絶賛し、川淵も「覚悟を持っての決断は誰にもできるものではない。西野監督は本当に腹が据わっている。名監督誕生!」とツイート。

「車椅子ラグビーでも昔は試合時間残り2分を切ったら勝ってるほうが時間稼ぎでパス回ししてたんだけど、9年くらい前にボールを持ってから40秒以内に相手コートに行かないといけない。24秒以内にゴールしに行かないといけないってルールが追加された」と呟いた、車椅子で事務職を務めている青年のほうが遙かに人間的に大人だよ。2期目に突入の田嶋は3月の会長選で「育成日本復活」を掲げたけど、いっそ「勝利至上主義」に変えた方が二枚舌と言われずに済む、と「日刊スポーツ」に諫められる始末。

浅田

対して、前日にドイツを破った韓国は見事だった。確かにファウルの多いチームではあるけど、前回優勝したドイツに全力で競り勝った。両チームとも決勝トーナメントに進めなかったにもかかわらず、日本・ポーランド戦なんかよりはるかに見応えがあったね。

田中

実は1998年大会まではFIFAに入るテレビ放映権料は100億円ぐらいだったのが2002年大会で一気に10倍に跳ね上がり、今大会は3000億円以上。日本のメディアは600億円近く負担している。世界人口は70億人以上で、発展途上国でも衛星放送で試合を同時視聴可能なのに、日本語放送だけの日本は不平も言わずにミツグ君状態。

その一方でピッチを囲む電光掲示の看板に今回、日本企業は1社もなかった。FIFAパートナーズと名乗った7社はコカ・コーラ、VISAカード、ドイツのアディダス、韓国の現代ヒュンダイ起亜キア自動車グループ、次回のW杯開催国カタールのカタール航空、そしてウラジミール・プーチンが首相に一旦退いた2008年から大統領を4年間務めて現在は首相のドミトリー・メドヴェージェフが会長だった世界最大の天然ガス会社ガスプロム。もう1社が不動産・ホテル経営や映画製作も手掛ける中国のコングロマリット大連万達ワンダグループ。1ランク下のFIFAワールドカップ スポンサーはバドワイザー、マクドナルドの米国勢に加えて、いずれも中国企業で家電メーカーの海信ハイセンス、会場内外でヨーグルトを無料配布した蒙牛乳業、国内1位・世界2位のシェアを誇る携帯電話会社のVIVOの計5社。

『東芝 原子力敗戦』の力作で知られる日本経済新聞の記者だった大西康之によれば、W杯前哨戦のFIFAコンフェデレーションズカップとW杯ロシア大会のスポンサーになったハイセンスは総額100億円を支払った。対ベルギー戦の時に液晶TVレグザと日本語が初めて電光掲示されたけど、それは東芝映像ソリューションの株式を95パーセント取得して傘下に収めたハイセンスの、ハイセンスな計らいだったと(苦笑)。とまれ、スポンサーの3分の1が中国系企業。20世紀には富士フイルム、日本ビクター、キヤノン、セイコーといった企業が、日韓共同開催の2002年には東芝、富士ゼロックス、NTTも加わって、2007年にはソニーが8年間で330億円の大盤振舞でFIFAパートナーとなったのは今や追憶の彼方なんだよ。

浅田

オリンピックは1984年のロサンゼルス大会から異常に商業主義化したわけだけど、FIFAの金まみれ体質はそれ以上だからね。2015年にはミシェル・プラティニUEFA(欧州サッカー連盟)会長がゼップ・ブラッター前FIFA会長に数億円の裏金を渡したとして資格停止処分を受けた。今大会で活躍したクリスティアーノ・ロナウドだって19億円の脱税容疑で税務当局と係争中でしょ。それに、オリンピックはドーピングに厳しくなってきたけど、FIFAは「Don't ask, don't tell(聞かざる、言わざる)」のままだって言われてるし……。

田中

現FIFA会長のジャンニ・インファンティーノはスイス人の弁護士で、ブラッター辞任で登板するまではUEFA事務局長だった48歳。その彼が今回のW杯でヴィデオ副審判定(VAR)を導入した。より公正にチェックするとの口実と共に、より青天井へとスポンサー契約金額は近付いた。丼勘定だった旧時代のブラッターより冷徹で狡猾な「経営者」だね。

浅田

ヴィデオ副審判定は必要だったと思うけど、そのままいけば、ピッチの周囲や上から無数のカメラで監視してAIが判定するってことになる恐れもある。人間の審判には盲点もあって誤審もするけど、フェアな人格と認められる審判なら誤審も含めてその判断に従うってのは、人間社会にとって必要なフィクションなんだけどね。

ともあれ、日本は決勝トーナメントの初戦でベルギーに敗退。結局、世界から認められたのは、試合後の掃除だけ。ロッカールームは塵ひとつなかったし、観客席でも日本人応援団がゴミを拾って帰った、と。まあ素晴らしいことだとは思うけど(笑)。ついでに言うと、タイ北部チェンライでサッカーチームの12人の少年とコーチが大雨で部分的に水没した洞窟の奥深くに取り残された事件は、タイ海軍と各国のダイバーたちの協力で、奇蹟的な発見と救出に成功した──タイのダイバーが一人亡くなる悲劇はあったものの。彼らを支えた1000人とも言われるボランティアの力も大きかったらしい。ともかく、6月23日に洞窟に入った少年たちは18日目となる7月10日に全員救出された。

7月2日の発見時のニュースを見てたら、子どもたちが英語で受け答えしててさ。「いま何日?」「月曜。10日も閉じ込められていたわけだ。君たちは強い。」「ありがとう。どこから来たの?」「イギリス」「へえ、すごい」とか、すごくしっかりしてるんで感心。絶望的状況のなか、元僧侶の25歳のコーチがみんなに瞑想させたりしてチームの士気を保ったのがよかったとも、救出チームや病院スタッフが言ってた。サッカーがうまくならずとも、十分に価値があると思うよ。

田中

そのコーチと3人の少年が実は「無国籍」だった。200年以上前に中国から南下してタイ北部に定住した山岳民族は約93万人と全人口の1.5パーセントを占めていて、1974年に国籍を付与すると政府が決めたものの今でも4分の1が無国籍らしい。身分証明書がないのでチェンライ県外に遠征試合に出かけるのも難しいと救出後にサッカーチームの創設者が訴えて、善処される方向らしいけど。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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