ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

米朝首脳会談から、日本の対北朝鮮外交、サッカーワールドカップ、安倍政権の行方まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

6月12日、アメリカと北朝鮮による史上初の首脳会談がシンガポールで開催された。その道のりは紆余曲折あったものの、無事終了。田中・浅田両氏は、東京・千代田区にある在日本朝鮮人総聯合会のある通りを歩きながら、本当に「無事」と言えるのかを語り合った。

浅田

6月12日にドナルド・トランプ米大統領と金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長がシンガポールで会談、朝鮮半島の非核化に向かう合意に署名した。空疎な政治ショーと批判する声が強いけど、とりあえず軍事的緊張が緩和されただけでも良しとすべきだよ。

田中

2003年8月から北京の釣魚台ちょうぎょだい国賓館で行われてきた日米韓中露北の6か国協議は、2007年3月の第6回を最後に丸11年間も開かれていなかった。その間に金正日キム・ジョンイルが死去し、2011年12月には金正恩が第3代の最高指導者に就任している。

浅田

金は去年の11月に核とミサイルが完成したと宣言(実は未完成だろうけど)、トランプは金を「リトル・ロケットマン」と罵倒し国連で「北朝鮮の全面破壊」に言及するなど、一気に緊張が高まった。ところが、金は今年になると一転して対話路線を打ち出し、「朝鮮半島の非核化」を目指して韓国や中国と矢継ぎ早に首脳会談を開催、そして史上初の米朝首脳会談に至った。軍事と経済の「併進路線」から経済発展路線に転換することも宣言した。5月末に朝鮮人民軍総政治局長、6月に入って人民武力相と第一次官、軍総参謀長の3トップを更迭したのを見ても、強い反対を押し切っての方針転換と推測される。鮮やかな手並みと言わざるをえない。

他方、トランプは韓国が仲介した金との首脳会談にただちに同意、結果として北が非核化を進める見返りに「安全保障」(「体制保証」と訳されている)を認め、米韓軍事演習の中止を発表した。彼の「アメリカ・ファースト」政策からすると、在韓米軍の撤退まで行ってもおかしくない。米政府・軍は何とか止めたかったはずで、いちど会談中止が発表された件にもそれが反映されてる(たんに北の譲歩を迫るブラフじゃなかった)気がする。

たしかに、中間選挙を前にしたトランプが、歴史的和解を成し遂げたと称して大見得を切るために、不用意な妥協をしたと言えなくはない。他方、北と非核化交渉を始める前に、バラク・オバマ前大統領の遺産を潰したいだけの理由でイラン核合意から抜けるっていう、いつもながら支離滅裂な迷走を見せてるのは大問題。だけど、オバマのもらったノーベル平和賞を自分ももらいたいって名誉欲から戦争が避けられるのなら結構な話で、ノーベル賞くらいやればいいと思うよ。まあ、去年、自分たちで緊張を高めといて、それを緩和したら褒められるってのも、どうかと思うけどね(笑)。

田中

朝令暮改で撤回したとは言え、「不法移民」の親子を別々の施設に拘束する政策をはじめとして、彼に関して批判すべき点は多々ある。しかし、今回のシンガポール会談は大きなパラダイム転換。記者クラブメディアをはじめとする日米の「意識高い系」は一様に、抽象的で具体性がないと批判しているけど、大間違いだよ。頭でっかちな優等生諸君は「ローマは一日にして成らず」と習ったのを忘れている(苦笑)。

戦争は、終結した日から鉄砲も飛んでこないし爆弾も落ちてこない。食うや食わずの状態は翌日も同じでも、「半分、青い。」どころか「全部、青い。」と実感できる。でも、フクイチ=東京電力福島第一原子力発電所を観てご覧よ。5月号でも話したけど毎日6000人もの作業員が働いて、廃炉の想定費用は現時点でも8兆円。30~40年かけても完了するかわからない。「過酷事故」を免れて廃炉が先日決定した福島第二原発だって、気の遠くなるような工程表はこれから作成するんだよ。

トランプと金のパフォーマンスだったとわめいていた報道陣やコメンテーターは、相思相愛になりたい積年の願いを抱いて初めて出会った二人は食事・宿泊・懐妊という全工程を一夜で果たすべきだと強要している訳でね、それこそ「#MeToo」の弾劾対象だぜ(爆)。

それにしても「主権国家」の日本は「拉致問題、お願いします」とアメリカに“伝言ゲーム”を頼むばかりでお恥ずかしい。「地球儀俯瞰外交」が今や「地球儀傍観外交」に陥っている。

浅田

拉致問題が膠着したのも、被害者5人の一時帰国の約束を破って永住帰国させようと当時官房副長官だった安倍晋三が言い張ったせい。被害者の気持ちに寄りそうと称するポピュリスティックな言動によって交渉を膠着させた張本人なんだ。

田中

小泉純一郎元首相が訪朝して金正日総書記と会談した2002年9月17日、「拉致について謝罪させなければダメだ、被害者を日本に帰さなければダメだ」と同行した安倍は休憩時間に控え室で話した。その遣り取りを盗聴器で聞いていたのか金正日は午後、「一部の跳ねっ返りが悪いことをした、申し訳ない」と謝罪して、生存者5名の一時帰国も約束した。そこまではよかったのに……。

浅田

そう、永住帰国強行でそこまでの外交努力が無に帰しちゃったわけ。

田中

「3.11」追悼式の1時間前に卑猥な印象を与える真っ黄色な唇みたいなオムレツ・マンの恰好した動画をツイッター上に投稿して不謹慎だと呆れられた河野太郎外相も相変わらず「圧力至上主義」で困ったものだ。

浅田

河野が去年9月に国連総会に行ったときは、コロンビア大学での講演で世界の国々に北朝鮮との断交を求めたんだからね。つまり、日本がアメリカのジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官なみの最強硬派として宥和に反対してることになっちゃったわけだよ。

ボルトンは、北がリビアと同じく「完全で検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」に直ちに応じなきゃ交渉はしない、リビアの独裁者カダフィはそうやって核を放棄したあげく反乱で殺されたが、そういう体制変革はむしろ歓迎すべきだって立場。北がそれに怒り、一時は会談が中止されかけた。拉致問題も抱えて、最も交渉を必要としてる日本が、そんなやつと同調するなんて。そもそも「CVID」には15年はかかるってアメリカの専門家も言ってるし、それは交渉の出口であって入口じゃない。

田中

その意味ではジェームズ・マティス国防長官とマイク・ポンペオ国務長官がキー・パーソン。5月22日の米韓首脳会談でトランプが「迅速な非核化のロードマップがあれば、その中である程度の『段階』が生まれるのはやむを得ない」と述べたのを受けて、5月30日に金英哲キム・ヨンチョル党統一戦線部長とニューヨークで会談した後にポンペオは、「我々は強くて連結した安全で繁栄した北朝鮮を想像する」と話している。つまり、「一括妥結」という当初方針は、シンガポール首脳会談前に既に、北朝鮮側が主張していた「段階的・同時的措置」へと歩み寄っていたんだ。なのに、その段階で気付かず、シンガポール後に難癖を付け始めたメディアは、日本だけでなく欧米も似たり寄ったりの「鈍感力」だと露呈してしまった。

ちなみに、安倍首相は5月にロシア・サンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムに出席したついでに、平昌五輪のフィギュアスケートで金メダルを獲ったアリーナ・ザギトワ選手に秋田犬保存会が秋田犬のまさるを贈る席に夫妻で同席していたけど、実はフォーラムの前日、中国の王岐山副主席とウラジミール・プーチン大統領がサシで会談をしている。アメリカ、韓国、北朝鮮が会談を行うなかで置いてきぼり感のある両国が、実は共同戦略を張っているわけ。マティス、ポンペオ、金英哲と並んで王も、朝鮮半島問題のキー・パーソンだと思う。

浅田

王は腐敗一掃と称して習近平の敵対勢力を排除してきた懐刀で、共産党政治局常務委員を定年引退したあとも国家副主席にとどまった。確かに気になる人物だ。

ただ、金正恩が米に対抗して中国の後ろ盾を得ようとしたのは事実だけど、これまで中国には挨拶さえしてこなかったわけだし、中国に接近した叔父の張成沢チャン・ソンテクを粛清し兄の金正男キム・ジョンナムを暗殺したのをみると、中国への警戒感は強いんじゃないか。もう冷戦の時代じゃないからね。

田中

日韓、日中だけでなく中朝にも、朝鮮半島北部から満州南部を支配した高句麗は果たして朝鮮史なのか中国史なのかを巡って「教科書問題」があるらしい。698年に建国した渤海の支配層は高句麗人で、だから北の渤海、南の新羅、百済の鼎立ていりつから高麗の統一を経て李氏朝鮮に至る歴史は、まさしく朝鮮史だというのが韓国・北朝鮮の研究者の見解。その意味で、金正恩は中国へのアンビヴァレントな気持を抱いているし、同様に日本の側も、1910年8月の「韓国併合ニ関スル条約」で大韓帝国という朝鮮民族の国家は消滅したという史実を冷静冷徹に踏まえておかないとね。

米朝両国は、両国の「ノーメンクラトゥーラ」を溶かしていく「ペレストロイカ」をやろうとしているのだと思う。若い読者に説明しておくと、ノーメンクラトゥーラとは、赤い貴族とも呼ばれた旧・ソビエト社会主義共和国連邦のエリート層や支配階級。ソ連邦最後の指導者だったミハイル・ゴルバチョフは、汚職と腐敗にまみれた体制を再構築(ロシア語でペレは再び、ストロイカは構築)しようと大改革を行った。

核開発と経済建設の並進路線を終了し、先軍政治から先党政治へと方針転換した金正恩は、軍部上層部の意識を変えようと内部で死闘を繰り広げている。トランプもまた、巨大製薬会社や軍需産業、金融機関のロビイストが暗躍するワシントンの既得権益を排除していこうと考えている。

そうしてフィナンシャル・タイムズ紙とニューヨーク・タイムズ紙がスクープしたように娘イヴァンカの夫であるジャレド・クシュナー上級顧問が、中国の6倍もの埋蔵量のレアアースと軍需産業に必須なタングステンとウランについて世界の半分が眠る、北朝鮮の地下資源開発への投資を企む鉱山企業の御曹司を通じて北朝鮮側と接触して、世紀の首脳会談へと繋がった。

スイスに留学し、朝鮮語だけでなく英仏露独の5か国語を理解すると言われている金正恩は地下資源外交をテコに、スキー場やカジノを整備して地政学的観点からも北朝鮮を東アジアの永世中立国スイス的な存在に、そうしてリー一族の開発独裁国家として「明るい北朝鮮」と呼ばれてきたシンガポールにも倣って、「小春日和のスイス」くらいに持っていきたいのだと思うなぁ。

浅田

金はシンガポールの象徴となったマリーナベイ・サンズを見に行ってたけど、あれをつくったカジノ王シェルドン・アデルソンはトランプの大口後援者だからね。

ともかく、急に統合されてしまったら南北ともに困るし、当面ゆるやかな連合でいくほかない。北が「赤化統一」を目指してるとか、南の文在寅ムン・ジェイン政権はそれにくみする売国奴だとか、右翼の冷戦思考は時代錯誤も甚だしいよ。

ただ、米側で今後の交渉をポンペオとともにボルトンが担うことになったのは微妙だね。ポンペオも超タカ派だったけど、CIA長官時代から北との交渉を進め、今回も国務長官として首脳会談を成功させた。善かれ悪しかれオポチュニストだと思う。でも、ボルトンは確信犯だからねえ。

とにかく、「良識」ある官僚たちに任せた結果、米朝関係は長年膠着状態が続いてたんだから、無責任なトランプのせいで事態が少しでも平和に近づくなら、善しとしなきゃ。在韓米軍撤退なんて問題外だっていうけど、いざとなりゃそれこそ米本土や潜水艦からの核ミサイルで北を壊滅させられるし、それ自体問題とはいえ在日米軍もいるんだからね。

冷戦時代は、38度線を最前線として、米をバックとする韓日と、ソ連・中国をバックとする北が向かい合ってた。いよいよそれが終わって、南北朝鮮がゆるやかな連合になるとしたら、相対的に中国寄りになるのは地政学的宿命。日本は前線の韓国とバックの米にもたれっぱなしじゃいられなくなるにせよ、それこそ主権国家としてはこれまでのそういうあり方こそ無責任すぎたんだから。

それにしても、文在寅に対する日本の反発は異常。韓国の大統領として平和を求めるのは当然だし、トランプをおだてながらうまくやってきたと思うよ。自分の支持層の反発を覚悟で、強制徴用工像を釜山の日本総領事館の前から撤去した件だって、日本はもっと感謝すべきでしょう。日本の世論が金大中元大統領なんかに好意的だった時代と比べて、嫌韓意識の広がりは恐ろしい。そうやって蚊帳の外ならぬ蚊帳の中にこもるってことなのかな。

田中

重要な指摘だね。二人とも「独裁者」だからトランプと金はケミストリーが合うんだ、と浅薄な見方をする「意識高い系」は、他方で文は「リベラル」だから頼りないとディスるけど、とんでもない。日本時間で5月24日夜にトランプが米朝会談なんて「や~めよ」って言った時にも北朝鮮の金桂冠キム・ゲグァン第一外務次官が再考を求める談話を25日早朝に出すや、すかさず翌26日に板門店で金正恩と会談し、米国との連絡ルートがない北朝鮮とホワイトハウスの同時通訳として動いた訳でしょ。決して出しゃばらず、常に両者を立てながら。戦略も戦術もない日本の「リベラル」とは大違いだ。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

ゴミ、捨てんなよ!

Copyright © sotokoto online, Inc. ALL rights reserved.