ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

sotokoto interview

個性的な人が住まい、こだわりをもった店が集まる東京の人気スポット、西荻窪に案内所ができたのは今年の3月。突如できたこの場所にやってくるのは西荻の街を散策したい来訪者のみならず、街に住まう老若男女。これまで出会うことがなかった人と人のつながりが、都市の暮らしをさらにおもしろくする。photos : Yusuke Abe text : Kaya Okada

日々の物語を集積して伝える口コミコミュニティ。

情報があふれる世の中である。知りたいことはいつでもどこでもピンポイントで調べられる。今年3月に、東京・西荻窪に突如できた西荻案内所とは、いったい何を案内してくれるのだろう?

運営しているのは、西荻に住まい、西荻を愛する5人の有志。彼らが案内するのは、単なる情報だけじゃない。あまりにも多くの人のなかで埋没してしまっている小さな物語。日々の暮らしのなかで生まれる愛おしい出来事をすくい上げるかのように、おもしろおかしく紹介してくれる。それはまさに西荻劇場。そんな楽しい街の寄り合い所に集うと、いつの間にか人の輪が広がり、街で挨拶する回数も自然と増える。街に対する愛着も増える。

私設案内所ならではのユルさと愛情を併せ持つメンバーに話を聞いた。そこには、都市暮らしがもっと楽しくなるヒントがちりばめられていた。
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西荻案内所正面のカレンダーでは、なにかとイベントが多い街の催事が一目でわかる。営業時間は朝7時~夕方。木曜休。杉並区西荻北3-18-10。

どのような経緯で、この案内所はできたのですか?

もともとは駅前にある『茶舗あすか』というお茶屋の店主、渡邉恵子さん(以下あすかさん)が、5年以上前から「駅前案内所」を名乗っていたんです。というのも、あすかさんたちが作っていた「西荻まち歩きマップ」にも店が「駅前案内所」として紹介されていて、あすかさんとしては、いつか専門の案内所をつくりたいという野望があったらしいのです。

どうして駅前案内所を名乗っていたのでしょう?

奥秋圭: あすかさんは、昔から口コミのコミュニティの中心人物だったようで。西荻における口コミの最大の関心事はご飯(飲食店)のことなのだけど、あすかさんは食べることがすごく好きで、新しくお店ができたらみんなが聞きに来る。あすかさんは「(あの店は)ちょっと塩っぱい」とか判定をくだす。みんな彼女の感覚を信じているのと、西荻に生まれて60年住んでいる人だから、街のいろいろな情報に精通していたんですね。西荻ってガイドブックよりも口コミ的な情報で人が動くので。

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8月10日、西荻夕市で披露された「西荻案内音頭」は、街の人も参加して大盛り上がり。今後どんな発展をするか? 夢は地元の小学生に踊ってもらうこと。

みなさんはいつから手伝いを?

奥秋圭: 5年間改訂版が出てなかった「西荻まち歩きマップ」を作り直す作業を引き受けたんです。その作業をしていた今年1月、新しく案内所をつくるための場所を仮押さえしたって聞いて(笑)。

奥秋亜矢: 「借りたから」と言われたので、「ああ、本当にやるんだなー」って感じでした。

なるほど。巻き込まれていったんですね(笑)。チャンキーさんは?

チャンキー松本(以下チャンキー): 昨年の夏、「西荻夕市」(西荻に23ある商店街をひとつに結ぶ賑わいイベント)をやりたいから、ポスターを描いてほしいっていう話を、あすかさんから聞いて軽いノリでやったのが始まり。あのときはまだ5店舗くらいでやっていた。

奥秋亜矢: それを街全体でやりたいということになって、「あんたたち、何かアイデア出して」って言われて、気付いたら企画書を書いていました。

町を徘徊する“フラヌール”で、町を愛する“モナムール”だからこそ。

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上/話していてすぐに案内できるよう、ショップカードが壁に取り付けられている。下/街の噂話を集めた『西荻こみみ新聞』。

案内所がオープンして半年以上経ちました。周りの反応はどうですか?

奥秋圭: 『西荻丼』(西荻の街情報を載せているフリーペーパー。奥秋さんは前・編集長)や、ツイッターなどのSNSで情報発信をしているときはそれを見る世代が限られてしまうんですよね。20代、30~40代、せいぜいが50代まで。ところが、案内所という「場所」ができると、守備範囲外の人が現れる。この前も街のことを一生懸命考えているお年寄りがやって来て、「西荻はもうダメだ」って言うんです。「どうしてダメなんですか?」って尋ねると、「町内会には誰も入ってくれないし、御輿の担ぎ手もいない。どうしたらいいんだろう?」と。西荻って、今すごく人気があって、ここ半年くらいで店が20店舗以上増えているっていうくらい異常な事態になっているのですが、そのお年寄りにはその情報が届いてないんですね。こういう場所があると、渡せる情報が80代、90代にまで広がったという感じはあります。

この案内所も裏通りにありますよね。その方はどうやってたどり着いた?

奥秋圭: 西荻案内所というのがあるから行ってみなさいと勧められたらしい。

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西荻のおもしろい人や店を案内する「西荻観光案内」で街歩き。

また口コミ!(笑) ところで、みなさんはそうした「人と人をつなげたい」とか、「街を元気にしたい」といった使命感や目的がある?

チャンキー: 使命感! そんなの持っていない。

奥秋亜矢: 案内所的なものがあるといいなというのは思っていました。いろいろな店の人と話していて、おもしろい人がこれだけいて、毎日おもしろいことが起きているのに、意外と取りこぼしているな、と。この人にあれを勧めたかったというのがたくさんあって、それをとりまとめる人が誰かいないかなあということはずっと言っていました。

チャンキー: みんな案内好きなのかも?

奥秋亜矢: 都市建築史の観点から「西荻はパリだ」という方がいるので、案内所で学習会を開催したんです。

チャンキー: そのなかでかつてベンヤミンという哲学者が「フラヌール」という言葉を使ったことが紹介された。フラヌールは街をフラフラする人という意味。

奥秋亜矢: 都市をちょっと外から引いて見ているという意味合いもある。異邦人でよそ者のユダヤ人のベンヤミンが、パリの街を徘徊する人をフラヌールと言っている。異邦人の要素も持ちつつ、あそこいいよ、ここいいよって、あちこち言ってまわる「西荻愛」を持つ私たちはまさに「フラヌール」で「西荻モナムール」(モナムールは“私の愛する人”の意味)です。そんな私たちが案内所を始めるのは自然ななりゆきかもしれません。

観光地でもなんでもない場所を「観光案内」する。

最初は5店舗だった「西荻夕市」、今では55店舗が参加しているとか。

奥秋圭: 夕市のひとつの柱に「西荻観光案内」という企画があります。パロディなんですけどね。西荻って観光地でもなんでもないただの街。いわゆる観光地的に案内する名所・旧跡のたぐいは公園や神社くらい。だけど、おもしろい人がたくさん住んでいる。ただの店かと思って話を聞いていると、実はものすごく個性を持っていたり、世界と繋がっていたりというのがあまりにもよくあるものですから。

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自分たちの街の祭りがほしいと「西荻案内音頭」を制作。街の人と一緒に踊った。

「西荻案内音頭」の発表会も行いました。

奥秋亜矢: 沿線にはいろいろお祭りがあるけれど、自分たちの祭りという感じがしない。だったらつくってしまおうと。

チャンキー: せっかくミュージシャンも多いからね。街の人に踊ってもらいたいから、踊りのおばちゃんたちの練習場にアピールしに行ったり。

奥秋圭: 既存の盆踊りに参加できる感じはまだないけれども、これからどうなっていくのかが楽しみです。

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住人さえ迷う入り組んだ地形は、壁一面の黒板にマスキングテープで描かれた地図で案内。

活動の幅が広がっていきます。

奥秋圭: 来年の頭には「西荻コンシェルジュ養成講座」というのも予定。いわゆる流行のご当地検定なんですが、ここまで範囲が狭いのはないでしょう。商店会連合会が主催で、企画運営を我々がやる。その流れで西荻ガイドブックも作ります。

奥秋亜矢: リソグラフという印刷機を使った講習会をする計画もあります。デザイナーやイラストレーターも多いので、いろいろな街の仕事と繋がるようにもしていきたいですね。

チャンキー: いろいろな要素を出して整理して、ピックアップしていく状態がいいんじゃないかと。

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西荻窪ならではのディープゾーンをめぐる「西荻観光案内」。

最後はこれからのことを聞くのが定石なのですが、ここでは何が起こるかわからない……。

奥秋亜矢: おもしろいほうへ、おもしろいほうへ。そこでいろいろな人といかに遊べるかですね。

チャンキー: 実験。未知の領域です。案内所って本当は公のところがやるものだしね。

奥秋亜矢: 行政が動き出すのを待っていたらいつまでもこういうことはできないでしょうね。

奥秋圭: 依怙贔屓もできない。おいしいところ教えてと聞かれてもみんな平等じゃないといけないから。ここは依怙贔屓だらけ(笑)。

チャンキー: 基本しゃべりたい人がやってきて、いろいろ言う井戸端会議だから。

犬ん子: 毎日、リアルドラマを見ている感じ。

チャンキー: 劇場みたいでしょ。こうして畳を敷いた内装にしたのも、ホームドラマみたいにしたかったから。奥秋さんたちはずっとお芝居の裏方をやっていたから、小さい物語を育んだり、集めたりすることをずっとしてきた。僕らも作家活動的なことで、似たようなことをしている。好きなんだろうね。小さな物語とか、日常をいかにおもしろくするかということが。

西荻案内所 Nishiogi Information Center SAM

西荻案内所 Nishiogi Information Center
奥秋圭・亜矢●西荻在住歴7年の夫婦。圭はデザイナー・編集者で、フリーペーパー『西荻丼』の3代目編集長、西荻案内所所長。和裁が達者な亜矢の通称は「オハリコ」。案内所ではモーニング担当。
チャンキー松本・犬ん子●西荻在住歴2年2か月、及び3年の夫婦。チャンキーはイラストレーター・切り絵師・パフォーマーなど様々な顔を持つアーティスト。イラストレーターの犬ん子とともに「青空亭」として活動している。

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