ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

sotokoto interview

『成長の限界』から40年。この先の40年を新たに予測する。BIノルウェービジネススクール教授ヨルゲン・ランダース Jorgen Randers.40年後の2052年、あなたは何歳になっていますか?そのとき、どんな地球であることを望みますか?地球温暖化、エネルギー、世界経済、人口問題……。『成長の限界』の著者の一人でもあったヨルゲン・ランダース教授が、『2052 今後40年のグローバル予測』で予測する40年後は、私たちが望むほど明るい未来ではなさそうだ。けれども予測を回避する方法はある。それを尋ねた。 photos : Masaya Tanaka text : Kentaro Matsui

2パーセント、投資の流れを変えればいい。

1972年、地球環境と人類の危機をレポートし、世界に衝撃を与えた一冊の書籍『成長の限界』が出版された。著者は、今回インタビューに答えてくれたヨルゲン・ランダース教授ら4人で、この本はスイスに本部を置く世界的な民間シンクタンク「ローマ・クラブ」への報告書としてまとめられた。

2100年までの地球と人類の未来のシナリオを提示した『成長の限界』では、次のようなメッセージを発信した。人類は今後もどん欲に成長を追い求め、地球の許容量を超えたエコロジカル・フットプリント(人間活動が地球環境や生態系に与える負荷)を残す。地球はオーバーシュート(需要超過)と呼ばれる状態に陥るが、持続不可能な状態は長くは続かず、どこかのタイミングで「崩壊」し、持続可能な状態に戻る──。ところが、出版後の社会の反応は敵対的とも言えるほどの激しい拒絶で、社会が「崩壊」するなど見当外れだと批判された。

あれから40年。地球社会は「崩壊」の危機に直面する事態は免れてはいるものの、日本人である私たちも地球温暖化や、それが原因とされる自然災害に遭遇し、未来に対する不安を抱きながら日々の生活や経済活動をつづけている。ただ、地球温暖化に対して何も対策を講じないでいいとは考えていない。個人、NPO、企業、政府レベルでさまざまな取り組みや活動が進められている。そのため、ランダース教授が「ローマ・クラブ」への報告書として書き上げた『2052 今後40年のグローバル予測』を読んでも、『成長の限界』出版時のような敵対的な拒絶感は覚えない。むしろ、40年後の未来への“イエローカード”として心に留めておきたいと思う。

40年後も、100年後も、この星で豊かに暮らしつづけていくために、私たちは何を考え、どんなライフスタイルを実践すべきか? ランダース教授に伺った。
photo
2013年から52年までの40年間で地球社会がどう変貌するかを大胆に予測した話題の著書『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社)。

『成長の限界』出版後40年の間、地球社会が講じてきた環境対策をどう評価されていますか?

COP(条約締約国会議)で地球規模での温室効果ガス削減の合意を各国から取りつけ、再生可能エネルギーへの転換もようやくスタートしていますが、1972年当時と比べると、世界の人口は2倍の70億人を超え、GDPはほぼ4倍に成長しました。CO2排出量は増えつづけ、森や海が吸収できる量のおよそ2倍の量が排出されつづけ、地球温暖化による気温上昇や自然災害を招く結果となっています。対策を講じてはいるものの、十分だと言えるものではありません。

どんな対策を講じるべきでしょう?

投資の流れを変えること。現在、世界のGDPの約25パーセントがインフラ整備や資源開発といった投資に使われています。40年後の未来へ向けて、そのうちの2パーセントを資源枯渇、環境汚染、生態系破壊、気候変動を避けるための予防的な投資に変えていけば、ほとんどの問題は解決することができます。別の言葉で言えば、現在の労働人口と資本の2パーセントを気候にやさしい生産とサービスに移行するということです。

大切なのは、長期的視野による意思決定。

photo
地球温暖化、経済、エネルギー、資源、食料、人口など多岐にわたる問題をグローバルな視点から語るランダース教授。

教授は、2052年までに地球の平均気温は何度上昇すると予測されていますか?

(産業革命以前に比べ)2度です。2度上昇することで、干魃と洪水が増え、強風、集中豪雨、酷暑といった異常気象が頻発します。害虫が繁殖し、生物多様性が失われ、海面は36センチ上昇して太平洋の島々に海が押し寄せ、大きな被害を及ぼします。北極の夏の氷は消え去り、解けていく凍土から排出されたメタンガスが気温をさらに上昇させ、より多くの凍土を解かします。生態系は極地へ向かって数百キロメートルほど移動するか、丘の斜面を数百メートルほど上るでしょう。挙げると切りがありません。私はスキーが趣味ですが、以前はオスロで4か月あったスキーシーズンが、今や2か月だけに。些細なことかもしれませんが、これも地球温暖化の影響です。

2度以内に抑えるために、2パーセントの投資を。可能な数字のように思えるのですが、なぜ、地球社会は方向転換できないのでしょうか?

正しい意思決定がなされていないからです。個人レベルでも、企業や国家レベルでも。資本主義経済のもとでは、企業は利益を得るために安価な解決策を選ぶ傾向があります。個人の社員にしても、なるべく短い労働時間で高い給料が得られる仕事を選びたがります。政府も、年金を株式に投資して短期で利益を得ようとする傾向があります。つまり、長期的な視野を持った投資が行われていないわけです。

長期的な投資の代表として挙げられるのは、再生可能エネルギーでしょう。原子力発電所を新たに更新するために投資するのではなく、ランニングコストが安く、将来的に安価なエネルギーを得られることになる太陽光発電や洋上風力発電にもっと投資するべきです。大勢の人々がそれをわかっていながらも、短期的な利益に目がくらみ、移行できないままでいるのが現状でしょう。

また、意思決定のスピードも重要です。資本主義や民主主義の国では、政府の意思決定はどうしても遅くなりがちです。政治家が有権者のご機嫌を取ろうと、環境保全のための税金や初期費用のかかる環境分野への投資に踏み込もうとしないからです。その点、中国やシンガポールのような中央集権国家では、意思決定のスピードは速くなります。短期的な利益を追求しつつも、長期的な視野に立った意思決定をすることもできます。

『2052』のなかで、今後、成長が止まるアメリカを抜いて中国が世界一の経済大国になると書かれています。「20の個人的なアドバイス」という章では、「子どもたちに北京語を習うよう勧めなさい」とも。経済発展とともに中国のCO2排出量も増えると予測されていますが、それを止めることはできますか?

中国経済は2052年には現在の4倍になり、それに伴って、エネルギー使用量も増えるでしょう。中国や、その他の途上国のCO2排出量の増加を止めることはできません。途上国の国々は、かつての日本のように工業化を進め、経済を発展させようと必死に働いているわけですから。ただ、その一方で、中国は5か年計画のなかにエネルギー効率の課題をしっかりと盛り込み、CO2排出量を削減するための国家的な取り組みを始めています。内陸国ゆえに、日本やノルウェーよりも地球温暖化による打撃をいっそう厳しく被ることを知っているからです。ただ、中国がCO2排出量を抑えるように仕向けることは可能です。日本はすでに富裕国なのですから、CO2の排出を抑えながらも豊かな暮らしができることを他国にお手本として示すべき。例えば、エネルギー効率のよい小さな家に住む、ハイブリッドカーや電気自動車に乗るなど、世界に率先して環境に良い、しかも豊かなライフスタイルを選べば、中国など他の途上国も日本のライフスタイルを真似るようになるはずです。

願うのは、私の予測が当たらないこと。

今後40年、日本はGDPも給料もほとんど向上しないと予測されています。経済的な豊かさはすでに限界に来ているのでしょうか?

新しい幸福の基準を定めることで限界は避けられます。より高い給料を求めて視野の狭い競争をつづけるよりも、主観的な幸福の追求を新たな目標にすることは十分に可能なことですから。

子どもを産み、育てることも幸福の一つだと思いますが、教授は世界の人口が減少しても問題はないと発言されています。その理由は?

世界の総人口は2040年代初めに約81億人でピークを迎え、減少します。女性1人当たりの子どもの出産数が減りつづけるからです。この傾向はすでに統計に表れています。過去40年間で、女性1人当たりの子どもの数は4.5人から2.5人に減少し、21世紀半ばには1人になります。先進国の共働き夫婦は、1人の子どもに十分な教育を受けさせたほうが投資としては確実だと考え、新興国の都市部に暮らす貧しい家族も、貧困から逃れるために同じ選択をするようになるでしょう。

『2052』の末尾に、「私の予測が当たらないよう、力を貸してほしい」と呼びかけていますが、教授はなぜ、当たらないための未来を予測するのですか?

私は世界のリーダーたちをイライラさせたり、怖がらせたいという思いもあり、この本を書きました(笑)。「子どもの数を増やしてはいけない」といった異常とも思える予測に彼らが怒り、私の予測が当たらないための行動を取ることに期待しているのです。私は、未来をあきらめてはいません。地球社会ができることはまだたくさんあります。今すぐ行動を起こせば、私の予測よりも豊かな2052年を迎えられるはずです。

ヨルゲン・ランダース Jorgen Randers

ヨルゲン・ランダース Jorgen Randers
ヨルゲン・ランダース●BIノルウェービジネススクール教授。気候問題への戦略や対策、持続可能な発展、シナリオ分析などが専門。WWFインターナショナル副事務局長などを歴任。多くの企業で持続可能性についてのアドバイスを行う。著書に『成長の限界』(共著、ダイヤモンド社)、『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社)など。

ゴミ、捨てんなよ!

Copyright © KIRAKUSHA, Inc. ALL rights reserved.