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sotokoto interview

つながりを持つことの強さ。 哲学者 内山 節 うちやま・たかし 東日本大震災を経て、私たちの暮らしのありようが大きく変わろうとしている。震災前からも、日本では終身雇用制度が崩壊し、高齢化社会を迎え、大きな曲がり角に立っていた。私たちはこれからどこへ向かい、どう生きていけばよいのか。共同体のあり方について思考を重ねる、哲学者の内山節さんに話を聞いた。 photos : Hiroshi Takaoka text : Mari Kubota

隣の家が「コンビニ」。

村の面積の94%が森林で占められる群馬県・上野村。自然と共に暮らす精神が今も根づき、日本古来の山岳信仰である修験道の行事が江戸時代から続く。毎年5月3日に行われる火渡り護摩には、この村で約40年暮らす内山節さんも欠かさず参加し、自然の力を体に受けている。
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火渡り護摩に参加する山伏と一般の人たち。

この村で暮らすようになったきっかけを教えてください。

10代のころから釣りが趣味でした。人が自然界を壊し始めていた頃で、自然の釣り場を求め、だんだんと山奥へ出かけるようになりました。上野村を訪れたのは40年ほど前。人と自然が共生して美しい景色をつくり出していることに驚かされ、村と東京を往復する生活が始まりました。

記録上では大化の改新後の律令制のころから存続する、由緒ある場所です。村づくりに対する意識が強く、村を壊してまで発展することは望んでいません。村は1000年、2000年と長い時間で考える世界で、今だけ儲けても仕方がないと考えるからです。ここの人たちは、お金はないけれど自信満々(笑)。自然の恵みが抜群で、困った時は山に行けばいいという安心感が、長い間、村人を支えてきました。今では人工林が増えましたが、それでもまだまだ豊か。春先なら山菜を採って食べれば、何とかなります。

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[上] 火をつける前の儀式。 [中] たちまち上がった火から力をもらう。 [下] 灰の上を走り抜き、汚れを落とす。

村の人々は、どのような暮らしをしているのですか。

お年寄りはよく、1年間で30万円稼げることを10個持てと言います。きのこや切り花の栽培などで、30万円を稼ぐことは割と簡単です。それを10個持てば年収300万円になるし、たとえ1つ失敗しても270万円は稼げます。村ではお金がなくても暮らせる対策を積極的にとり、全戸に光ファイバーを導入してプロバイダーも開設。併せて1500円払えば、テレビや村内の電話、ネット、水道使い放題で、多くは1万円台で村営住宅を借りられます。ここで年収300万円あれば、東京で600万円以上あるような暮らしができるでしょう。

人とのつながりも強く、一緒に自給自足している感覚です。しかし、それぞれが交換できるものを持つ必要があり、その点では厳しい社会といえるかもしれません。例えば肉を分けてくれた専業農家に(私が作った)野菜でお礼をしても仕方ないので、私の場合、ここでは手に入らないものが知人から送られてきた時にお裾分けします。自分で作ったものではありませんが、私のネットワークから手に入れたもの。ただ、専門的な能力がない場合は、村で草を刈る時やお祭りの準備の時に、一番に出て行って一生懸命やるということでもよいのです。

村の人はよく、「どこの家もコンビニみたいなものだから心配いらないよ」と言います。隣に行けばたいていのものはストックされています。でも、隣の家とのつき合いが悪い場合は、往復1時間以上かけて本物のコンビニに行かなくてはいけません(笑)。

巨大なシステムからの脱却。

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火の周りを回っている時から力をもらっている気がすると、内山さんは話す。

東日本大震災を機に、私たちの暮らしに対する意識が変わり始めたように思いますが。

実は震災前から雇用制度も、人々の気持ちも変わり始め、日本のシステムは壊れかけていました。上野村で暮らし始めた約40年前は、村は遅れたところという印象が強く、都会の人に「土を耕すのはいいよ」と言っても理解されませんでした。今は実際に移住するかどうかは別として、こんな暮らしを受け入れる気持ちが人々の心の中にあります。ここにきて、大きなシステムに依存してもあまりよいことがないと気づき、どんな生き方をしたらよいか探し始めているのです。そんな中で地震が発生し、巨大なシステムではないものを求める気持ちがこれから広がっていくと思います。

また生きるための根本をしっかり持とうとする動きも見られます。この村の皆さんは自分で何でもできて、生きるための能力が非常に高いです。その半面、都会では時間と場所が制限されて、さまざまな能力を開発することが難しく、だんだんと生きる能力が失われています。例えば、東京のワンルームマンションでは、機織り機を入れることすら大変じゃないですか(笑)。

震災後、結婚相談所への登録数が急増したということですが、生き方を見直す気持ちが強くなっている。少しずつでしょうけれど、東京から脱出する人が次第に増えるのではないでしょうか。

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元・教え子が遊びに来ていた。「彼らは明日、私の畑を耕してくれる大事な労働力です(笑)」

事情があって都会での暮らしを余儀なくされる場合、生きやすくする方法はあるのでしょうか。

田舎とのつながりをつくることでしょう。田舎に知り合いがいて、時々訪れるくらいのつき合いがあるだけでも、自然とつながっている安心感を得られます。

結婚したい人が増えたのは、何かあったら不安だからという理由ではなく、大事なものを持ちたいという気持ちの表れだと私は思っています。今まで強い不満はなかったけれど、ふと気づくと大切なものが何もない。一番大事なものがアクセサリーだなんて寂しい話です(笑)。震災を経験し、他人のために生きる人は強いことが分かりました。その他人とは赤の他人でなく、自分の子どもでも夫や妻でもいいし、地域のための復興をやりたい、そういう「他人」でもいい。若いうちは自分のために生きることができますが、ある程度の年齢になってしまうと、頑張って20年もかけて何になるんだという気持ちになり、頑張る根拠がなくなってしまうのです。

今の若い人たちには、他者を思いやる気持ちが定着し始めています。戦後、築かれてきた日本の今のシステムには依存できないことが分かり、自分たちの力で生きるために、支え合うことに熱心なのでしょう。

自分が住む世界を、自分で豊かに。

高齢者に関するさまざまな問題が起きていますが、高齢者は巨大なシステムに依存せずに生きていけるのでしょうか。

高齢者問題こそ、つながりが大切です。複数のチャンネルでつながりを持っている人もいますが、現役時代の仕事でのつながりは退職後にはなくなる可能性が大いにあります。つながりがあると、何かしらその中に自分の役割があります。

高齢者に役割がなくなると本当に大変なことになります。一家に3世代が暮らしていた時代は、孫の世話をするなど自然に役割がありました。また、犬を飼うことでも、散歩に行かせるなど役割ができます。この犬が死ぬまでは自分も死ぬわけにはいかないと思うと、役割があることは生きるうえで大事なことだと分かります。

都会の人たちは、田舎に住む人たちに比べて、お金を持っている。この有利な点を生かして、住む世界を自分たちで豊かにしていけばよいのです。自己資金だけをみて、老後は大丈夫かと心配するのではなく、例えば皆でお金を出し合ってコミュニティカフェをつくり、そこを拠点にいろいろなことをするのも一つの方法です。自分たちで行動するしかありませんが、高度経済成長期にサラリーマンを経験した人たちには、このような発想があまりないですね。

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自然と人が調和して、美しい自然が残されている上野村の自宅。

震災で被災した地域も、つながりを軸に復興していけばよいのでしょうか。

つながり方を工夫しないといけないと思います。集落によっては数百人もいなくなってしまったところもあり、皆が住めば元のコミュニティが戻るわけではありません。地域には農協や漁協、森林組合や生協などがあり、一緒に復興協同組合をつくって再建できないかと考えています。生協などを通じて都会の人たちともつながっている場合があるので、地域外の人たちとも関わりながら、国の資金を使って主体は協同組合的に復興する。そうしないと建物はできても、町は戻らなかったという可能性が出てくると思われます。

そして大切なのは、復興計画を立てる時に、文化的、文学的、思想的な計画を立てること。例えば永遠を感じる町、一日中海を見て満足できる町、高齢者の笑い声が聞こえる町など、自分たちの町をどのようにしたいかを考え、それを実現させるためにハード面を含めて具体的な行動に移します。

上野村でも、「本物を作る」という方向性を決め、さまざまな木工製品作りに取り組んでもいます。すべて上野村でできたもので揃えるとなると金銭的に大変ですが、できるだけ村のものを使って、何が本物なのかを見極めていく。こうして村に関わっていくことがとても大切だと思っています。

内山 節 うちやま・たかし

内山 節 うちやま・たかし
1950年東京都生まれ。1970年代から東京と群馬県・上野村を往復して暮らしながら、存在論、労働存在論、自然哲学、時間存在論を軸に哲学の研究をすすめる。立教大学大学院教授、NPO法人「森づくりフォーラム」代表理事。『共同体の基礎理論』(農文協)、『怯えの時代』(新潮選書)、『清浄なる精神』(信濃毎日新聞社)など著書多数。

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