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sotokoto interview

「生きづらさ」を抱える人たちの物語を紡ぎ出す。/演出家 ピン・チョン Ping Chong/「生きづらさ」を抱える人に話を聞き、そのエピソードを演劇的に再構築する“Undesirable Elements”。1992年から世界各国で行われてきたこの演劇が2019年1月、日本で上演される。制作を指揮するのは、演出家であるピン・チョンさん。制作にあたっての思いを聞いた。 photographs by Kazuteru Takamoto text by Sumika Hayakawa

生きづらさを、生身の声で届ける演劇。

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ニューヨークでの“Undesirable Elements”の一場面。日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS主催 Ping Chong'sドキュメンタリーシアター『生きづらさを抱える人たちの物語』は2019年1月18日〜20日『東京芸術劇場シアターイースト』、1月26日・27日『グランフロント大阪北館4F ナレッジシアター』で上演予定。
障害のある人、移民、戦争孤児、性的・社会的マイノリティなど、さまざまな「生きづらさ」を抱える人々にインタビュー、そのエピソードを演劇的に再構築し、彼ら自身に出演してもらう“Undesirable Elements”(アンデザイアブル・エレメンツ、以下UE)。1992年に米国・ニューヨークで初演されて以来、これまで世界各国で67作、その国ならではの生きづらさを舞台化して表現するプロジェクトとして実施された。日本でも95年、東京に住む外国人の生きづらさにスポットを当て、『東京芸術劇場』で『ガイジン〜もうひとつの東京物語』として上演されたことがある。

UEを生み出したのは、ニューヨークを拠点に活躍する演出家のピン・チョンさん。72年以来、国内外で多くの作品を制作してきたピンさんは、ドキュメンタリー演劇の先駆者でもある。

2018年初秋には『日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS』の招聘により、68作目になるUEの日本版オリジナル公演『生きづらさを抱える人たちの物語』を制作中。本作は19年1月に東京・大阪で上演される予定だ。

出演者オーディションのために来日したピンさんに、UEを通して伝えたいことや、日本版の制作にあたって現在、考えることなどを聞いた。
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UEとは、どのような演劇なのでしょうか。

私はよく「座って行うオペラ」だと言います。生きづらさを抱える人からヒアリングした、彼らの実体験やそこから感じたことをもとに私が台本をつくり、彼ら自身に出演してもらいます。朗読劇に近いですが、台本を暗記するような演劇ではなく、もっと自由です。また映像などの視覚芸術や音楽など、さまざまな実験的要素をその時々に応じて取り入れています。

ピンさんは長いキャリアをお持ちです。UE制作に至るまではどんなことをされてきたのですか。

私はアメリカ人ですが、中国にルーツを持ち、祖父と父が京劇のディレクター、母が歌手という京劇一家でした。私自身は視覚芸術や映像に興味があって、それらを学べる学校に進学したのですが、いろんな出会いもあって、1970年代前半にやはり演劇の世界に入りました。最初はパフォーマーと演出家、それにヴィジュアルアーティストとして活動していましたが、早い段階から演劇にマルチメディア的な要素を組み込もうとしていて、「舞台芸術にテクノロジーを持ち込んだパイオニア」という見方をされるようになりました。

他文化の課題に耳を傾ける作品づくりを。

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その頃はどんなテーマで制作を?

「他者性」、つまりその社会における、「他者」的な人たちや疎外された人たちとどう向き合うかということが、常に根源にあったと思います。

活動の中で、転機となるようなことはありましたか。

長い間、ヨーロッパのアートシーンに認められようとして、コンプレックスを感じることさえあったのが、1986年に日本、88年に香港へ公演に行って、自分がアジアにルーツを持つこと、アジアにはとても豊かな文化があることを深く見つめ直すようになりました。その変化が作品として結実したのが、91年に発表した『DESHIMA』です。日本の長崎県・出島を舞台に、文化の違いや置かれた状況、軍事力の強弱などが東洋と西洋の人々の間に引き起こす対立や差別を描きました。『DESHIMA』を機に、それまではシュール・レアリスティックなフィクションをつくっていたのが、ドキュメンタリースタイルのノンフィクションを志向するようになりました。

そして、92年に初演したUEに行き着くのですね。

今あるUEのような形にしようとはすぐには思いつかなかったのですが、この時期に「私はアメリカ人のアーティストであり、いろんな移民で成立している多文化の国であるアメリカというものを表現したい」という、自分のアートの源泉となる思いが生まれました。そのうえで振り返ってみると、自分自身がヨーロッパ文化に対してずっと「仲間入りしたいけれど、できない」という他者性を感じていて、昔からそれを無意識に表現しようとしていたと気づいたんです。

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UE制作につながる直接のきっかけは何かあったのですか?

オランダで舞台美術の講師としてさまざまな国の学生に短期集中講義を行った時に、授業後にみんなでお酒を飲んだのですが、酔ってくるといろんな言語が飛び交うのがおもしろくて、こんな空間を表現できる演劇をつくりたいと思ったことです。同じタイミングで、ニューヨークのアーティストスペースでインスタレーションを制作してほしいと依頼されたのですが、ちょうどその頃から、アメリカが現在に続く不寛容な社会に変わり始めていたこともあり、「他文化との共存」をテーマに、作品の中で行う演劇としてUEをつくりました。

UEのテーマは、その時から一貫して変わっていない?

はい。いろんな文化=コミュニティが分断されず結ばれて、お互いの課題に耳を傾け合える場をつくりたいという思いはずっと同じです。今回の『生きづらさを抱える人たちの物語』に関してはとくに、インクルージョン(包括)とエクスクルージョン(排除)という2つの概念を念頭に置いています。障害のある方を中心に出演してもらう予定なのですが、彼らに生きづらさを表現してもらい、鑑賞者がそれに初めて「気づく」ことで、障害のある人を排除せず共生できる社会をどうやったらつくっていけるのか、みんなで考えられる内容にしたいです。できるだけ多くの方に不自由を感じずに観てもらえるよう、新しいテクノロジーを使った演出も取り入れる予定で、日本のスタッフと打ち合わせをしています。

生きづらさを共有する、心の準備とは。

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日本版の共同企画・制作・演出家の阪本洋三さん(右)と。「演劇には世の中を変える民主主義の演劇と、楽しむことを目的にした資本主義の演劇があります。前者の演劇としてすぐれたものをつくっていきたい」と阪本さん。

『生きづらさを抱える人たちの物語』は、生きづらさを感じている人の中から、プロ・アマ問わず「自分自身を表現したい」という出演希望者を公募し、書類選考を経て、二次選考中(面接によるオーディション)だそうですね。

61名にご応募いただき、20名が二次選考に残りました。ここから最終的に6名を選ぶことになります。

どんな基準で採用を?

生きづらさをパブリックな場で表現するというのは、とても勇気のいることです。それでもなお観客と話を共有して、芸術的なカタルシスをつくり上げたいという、「心の準備」ができているかどうか。また生きづらさが個人的すぎず、その人を通して根にある大きな社会問題に気づけるような、ある程度の普遍性があることも、演劇という表現上どうしても必要になってきます。どちらもとてもデリケートで、難しい基準ですが……。

これまでの選考から、日本ならではと感じる「生きづらさ」はありましたか。

「障害者の家族を隠しておきたい」というような「恥」の感覚があるのは日本ならではだと感じました。また女性が辛い目に遭っても声に出さず、自分の内側にしまい込む傾向もあるように思います。障害者の権利は法的にもシステム的にも整備されていると思います。一方で社会の人たちの、障害のある人への理解はまだまだ改善の余地があるのではないでしょうか。

世界的な視野でいうと、人々の「生きづらさ」は変化しているのでしょうか。

「蛇口をひねればすむのに、電化したばかりにいざという時に水道から水が出ない」というように、発達しすぎたテクノロジーが生き方をかえって複雑にしているとは感じますが、人々の人権に対する意識は高まっているように思います。その半面、どこにいてもテクノロジー上では同じ経験ができるだけに、生き方が誰も似たような均質化したものにもなっています。そんな社会の中でいつもどおりに生きていては気づけない、「生きづらさを抱える人たち」のいるコミュニティに光を当てて、彼ら自身の声で直接社会に問いかけをしていくような作品は、やはり必要ではないかと思います。アメリカでも、まだまだ白人がメインストリームにいる社会で、そうではない人々の声がメディアに載らないことが多くあります。これからも、放っておいたら気づかれない「生きづらさを抱える人たち」に寄り添って、その声を届けていきたいです。

ピン・チョン Ping Chong

ピン・チョン Ping Chong
ピン・チョン●演出家、振付家、映像アーティスト。「Ping Chong + Company」創設者。1972年以降、人形劇やダンス、ドキュメンタリー劇、メディアなど実験的な演劇手法を取り入れた作品を多数制作する。アメリカ最高位の芸術賞「National Medal of Arts」や「オフ・ブロードウェイ演劇賞」などを受賞。

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