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「つくる、つなげる、つづける」ことを大切に、会話と出会いをつくるブックカフェ、はじめました。/『Social Book Cafe ハチドリ舎』店主 安彦恵里香 Erika Abiko/同じ時代を生きていて、ある場所では市民が紛争に巻き込まれ命を落としている。なぜ、そんなことが起きるのか。「平和や命の大切さを見直し、社会ごとを自分ごとにする」ためのカフェ、『Social Book Cafe ハチドリ舎』を、広島市の平和記念公園近くにオープンした安彦恵里香さんの思いとは。 phographs by Tom Miyagawa Coulton  text by Sumika Hayakawa

平和について語り合える場を、広島につくる。

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ハチドリ舎はこのビルの2階にある。
『Social Book Cafe ハチドリ舎』は、広島市にある平和記念公園から徒歩2分ほどの雑居ビル2階にある。オーナー店主は安彦恵里香さん。NGO『ピースボート』のスタッフとしてや、核廃絶キャンペーンなどの社会活動に関わるなかで、「広島には平和記念資料館があり、世界中から大勢の人がやって来るのに、そこで感じたことを他者と共有できる場がない」と感じ、「平和についてまじめに語り合うことができ、社会事を自分事にできる場所をつくりたい」と、クラウドファンディングも活用し、2017年7月にオープンさせた。

『ハチドリ』の名前は南米・アンデス地方に伝わる寓話「ハチドリのひとしずく」から取った。燃えている森にくちばしでひとしずくずつ水を運び、火を消そうとするハチドリの物語だ。「私は、私にできることをしているだけ」とハチドリは言う。このハチドリのように、一人の力は小さくてもみんなができることを繰り返して、いずれ森の火を消したい──社会問題を解決したい。そんな願いを名前に込めたという。

どうして『ハチドリ舎』をつくろうと思ったのですか。

もとを辿れば、高校生のときにテレビのニュースを観て受けた衝撃から始まっています。パレスチナ人の親子がイスラエル軍に銃撃され、殺される映像でした。その後も社会の不条理や不公平に疑問を感じていましたが、どうすることもできずに考えすぎないようにしていました。そんな価値観が、24歳のとき、『ピースボート』が主宰する船旅に参加して変わりました。パレスチナのガザ地区からやって来て現状を語ってくれた男性との出会いで、「イスラエル・パレスチナ問題のような社会問題や紛争が解決しないのは、自分のような一人の人間が関心を持たずに放っておくからだ」と気づいたんです。みんなが気にしないから問題視されず、解決しない。何もしないことで加害の一翼を担っているのだとわかったんです。

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上/壁に貼られたイベント情報。昨年のオープンから、月ごとのイベント開催数は増加傾向。今はほぼ毎日、イベントがある状態に。下/ハチドリ舎のイベントをみんなで考える「企画会議」。

その後はどんな活動を?

ピースボートのスタッフとして、課題解決に取り組む「有識者」や「当事者」と、以前の自分のような「知らない人」をつなげるようになりました。広島にはピースボートのオフィスができたことで配属され、住み始めました。ピースボートのスタッフ職は2009年に辞めましたが、その後も手伝いつつ、広島や東京、アメリカなどを行き来して、環境問題や非核化などに関する社会活動に参加しました。その活動の中でメンバーと語り合うことが多く、「広島にこそ、こういう対話の場所が必要なのでは」と考えました。初めはゲストハウスの運営を検討しましたが、昨年、「カフェという形でもいいのでは?」と発想を転換した途端、平和記念公園近くのちょうどいい物件と出合い、オープンに至りました。

「6」のつく日は、語り部さんから話を聞ける日。

ただのカフェではなく、毎日のようにものづくりのワークショップや当事者や有識者を招いてのトークイベントが開催されていますね。

ハチドリ舎では「つくること」「つなげること」を大切にしています。どちらも生きていくうえでとても大切なこと。私たちは「つくる」ことを他人に委ねすぎて、本来、単なるツールだったはずのお金を命よりも優先するような事態に陥っています。誰かと、もしくは何かと「つながる」ことは、さまざまな気づきを与えてくれて、他人の命や生き方に無関心でいては社会問題が解決しないことを教えてくれます。「つくる」「つなげる」、そしてそれを一過性のものにせず「つづける」ことは、命の価値を取り戻すことに近いと考え、そのことを感じてもらえるイベントを企画しています。

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上/「『6』のつく日 語り部さんとお話ししよう」では、被爆者の「語り部」さんのお話が聞ける。中/英語で語ってくれる語り部さんもいる。下/シリア問題についての映画上映とトークイベント。大勢の人が訪れた。

とくに力を入れているイベントはありますか。

「『6』のつく日 語り部さんとお話ししよう!」は、広島への原爆投下の8月6日にちなんで行っているイベントです。被爆者である語り部の方にお越しいただき、大勢に対する証言会ではなく、身近なおじいちゃん、おばあちゃんと語り合うような場所にしたいと、午前11時から午後5時の間、語り部さんにカフェにいてもらっています。海外の方の関心も高いので、英語ができる語り部さんには英語で語ってもらったり、通訳のできるスタッフがそばにつくようにしています。語り部さんも直に「伝わった」感触を得られるようで、喜んでいただけることが多く、うれしいです。

また、店内のインテリアやメニューもハチドリ舎のコンセプトを表しています。「つながって」いることに気づけるよう、地産地消を意識し、近所の金物屋さんで買った道具を使い、廃材や広島県産木材をDIYで家具にして、広島県産のオーガニックな食べ物を提供しています。食事の提供でも「つくる」ことを感じてもらいたいと、セルフサービスにしたり、内容を自分でカスタマイズできるようにしたり、コーヒーの豆を自分で挽いてもらったりしています。

新しい発見や驚きにつながったイベントはありましたか?

たくさんありますが、最近のものに絞ると、内戦状態にあるシリアの若者を追うドキュメンタリー映画『それでも僕は帰る』の上映会とシリア出身者のトークショーに大勢のお客さんが来てくれたことです。このイベントに限らず、ニュースで大まかなことは知っているけれど、「当事者」の声を聞く機会があるなら、それを聞いてきちんと知りたいという方が多いのだと感じます。

すべては地続き。自分にできることは?

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地域と交流を深めることができた子ども食堂「特製ごはん無料DAY♪」

今後、ハチドリ舎で目指したいことや、活動の幅を広げていきたいことはありますか。

広島にいながら、「平和」を問うことが形骸化していることを感じます。平和は絶対的にいいものだと肯定され、だから深く考えることがない。平和とはそもそも何なのか、さまざまな対話、表現、ものづくりなどを通して常に問いかけていきたいです。

このゴールデンウィークには、子ども向けスペシャル企画として「特製ごはん無料DAY♪」という「子ども食堂」を企画して、近所の子どもたちに遊びに来てもらいました。地域に開かれた場所にして、地域の人とつながりを深められるイベントも増やしていきたいです。

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上/本棚を「つくる」ワークショップ。廃材を使い、店内で使用する本棚をつくった。下/コーヒーのカップも、ワークショップで焼いて作った。

それはどうしてですか?

『もう高齢社会だヤバイよシリーズ』という、超高齢化社会を考えるイベントを開催してわかったのですが、私たちが高齢になる頃には、支えてくれる若者が圧倒的に少なくなります。となると、同じコミュニティの中で支え合うことが必要です。問題を共有し、コミュニティにつながりや支え合いの意識を育てていきたいと考えました。

ただ、なにより大事なのは「つづける」ことです。「まじめに平和を語り合う」、「生きることの価値を再確認する」場であるハチドリ舎のような場所が続いていくことは、誰かの希望にもなるだろうと自負しているんです。

多くの人に、語り合うことの大切さを感じてもらいたいです。ノウハウをシェアするので、こういうカフェがいろんな場所に増えてほしいです。

ハチドリ舎に対する期待も大きくなっているのでは?

軍隊を持たず、社会福祉に力を入れる中米・コスタリカの実像に迫っていくドキュメンタリー映画『コスタリカの奇跡〜積極的平和国家のつくり方〜』の上映イベントをして、感想をシェアし合ったとき、「自分は社会に対して何もできていない。できることを探さなければ」と言っていた方がいました。そのときに私は、「わざわざ探さなくても大丈夫だと思いますよ」と自分の意見を述べました。すべての問題は地続きでつながっていて、遠くの戦争も近くの日常も、社会の障害も高齢化も貧困も、すべてつながっています。がんばって社会の大きな問題をいきなり解決しようとするよりは、日々の気づきを重ね、知識を増やして、「この選択が、誰かに苦しみを与えることになるもしれない」ことに敏感になる。それだけでも世界を少しずつよくしていけると思います。ハチドリ舎でそのための第一歩を踏み出してもらえたらうれしいです。

安彦恵里香 Erika Abiko

安彦恵里香 Erika Abiko
あびこ・えりか●茨城県・谷和原村(現・つくばみらい市)出身。2004年、『ピースボート』主宰の船旅に参加したことをきっかけに、環境、非核化などの社会問題解決に取り組むように。17年7月、『Social Book Cafe ハチドリ舎』をオープン。同年、「ディスラプター・アウォード・ヒロシマ」「ソーシャルビジネスプランコンテスト」「ヒロシマ平和創造基金国際交流奨励賞」を受賞。www.hachidorisha.com

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