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下町の市で人と人をつなぐ。 『すみだ青空市ヤッチャバ』事務局長 松浦伸也 Shinya Matsuura 東京スカイツリーを間近に見上げる東京都墨田区の曳舟駅前。そこで毎週土曜日、主に関東近県の農家らが出店する「すみだ青空市ヤッチャバ」が開かれ、農家が一軒もない墨田区で、都会の住人と生産者を和やかにつなぐ場になっている。ヤッチャバ事務局長の松浦伸也さんらが目指すのは、「1000年続くヤッチャバ」。そのココロは? photographs by Masaya Tanaka text by Kentaro Matsui

お客と出店者の垣根を越えたつながり。

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曳舟の「すみだ青空市ヤッチャバ」。
週末、東京都墨田区で開催される「すみだ青空市ヤッチャバ」。やっちゃ場とは、青物市場のこと。「すみだ青空市ヤッチャバ」は、土曜は曳舟で、日曜は両国で開かれ、「いらっしゃい!」と元気な声がいつも飛び交う。

そのなかでもひときわ大きな体で忙しそうに立ち働いているのが、運営者であるヤッチャバ事務局長の松浦伸也さんだ。「お相撲さんと間違われることもあります」と笑顔で話す松浦さんに、来るお客さんが次々と声をかける。「痩せた?」「正月に3キロ、太っちゃった(笑)。お母さんの風邪は?」「よくなったよ」「寒いから気をつけて」といった会話が気軽に始まり、ヤッチャバの雰囲気を和やかなものにしている。
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上/新鮮な農産物が揃う。下/取材日は細田さん(中央)の誕生日だった。この後、誕生日ケーキのサプライズがあった。

出店者の皆さんが元気で、お客さんも気さくな方が多いですね。

ここに来る地元の方はいい方ばかりです。忙しいお店があれば店員になって手伝いを始める女性もいます(笑)。冬場はかなり冷えますが、使い捨てカイロをくださる年配の女性もいて、ありがたいです。買った白菜が「おいしかったから」と、それで白菜漬けをつくって持ってきてくれたり、買ったリンゴでアップルパイを焼いて「スタッフの皆さんで食べて」と差し入れしてくださる方もいます。そのお返しとして、先日、お客さんの包丁を無料で研がせてもらいました。

ヤッチャバは、お客さんと出店者、事務局の交流が盛んなのですね。

スタッフの本多秀行君はヤッチャバで結婚式を挙げたのですが、お嫁さんのウェディングドレスを出店者の『森田商店』の奥さんがつくったのです。信じられないでしょう?(笑)。出店農家さんのために前掛けをつくってくださったお客さんもいます。ご自身で営まれていた洋裁工場を閉鎖したためハギレがたくさん残っているそうで、それを使って。今はハギレで小物入れをつくり、ご自身も出店者となって両国のヤッチャバで販売しています。最近は服もつくり、「出店するときは電話して」とお客さんから言われるほどの人気です。

大雪の被害に遭った出店農家をクーポンで支援。

去年の2月、関東で記録的な大雪が降り、ヤッチャバに出店している関東近県の農家も甚大な被害を受けたと聞きましたが。

そうです。大きな被害を受け、ビニールハウスが雪に潰されてしまいました。それを知った墨田のお客さんが、「何か支援できないかしら」とおっしゃってくださり、事務局で考えた末に、クーポン券をつくることにしたのです。A4の紙に被害状況を書き、下側に被災した出店農家さんを支援する1000円のクーポン券をつけ、お客さんに配りました。それを見て支援金を出してくださったお客さんにはクーポン券に判子を押し、農家さんが復活されたときにそのクーポンで買い物ができるという仕組みにしました。

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支援はいくらに?

10万円ほど支援していただきました。もちろん、ビニールハウスを新しく建て直すにはとうてい足りる金額ではないのですが、墨田の人たちが応援している気持ちは伝わり、大きな励みになったと聞いています。クーポン券を自分の財布に入れておけば、雪害に遭った農家さんのことは忘れませんし。ビニールハウスの建て替えには1000万円もかかる場合もあり、高齢の被災農家は次々と離農してしまったようですが、ヤッチャバの出店農家は委託農家さんを含めると40軒ほどもあるのに、誰も離農しなかったのです。

買い支えるということですね。

そうです。僕は東京農業大学の学生だった頃から福島県・鮫川村に通い、農作業や山の仕事を手伝っていました。東日本大震災後は村の直売所の職員となって働き、放射性物質を厳しく測定して出荷可能な農作物だけを販売していましたが、話さえ聞いてくれない方が大勢おられました。でも、震災前から強いつながりがあった方は買い支えてくださいました。信頼関係が築けていたからでしょう。平常時からつながりを保っておけば、災害時には農家から農産物を提供してもらえるでしょうし、農家が災害に遭ったときも都会からエールを送ることができるのです。

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1月の取材日には『青春畑きくち農園』(茨城県)の焼き栗、『日光わさびセンター』(栃木県)のつぼ焼き芋、『内藤農園』(静岡県)のミカン、『たこまいらいふ 萩原農場』(千葉県)の多古米などが並んでいた。

東京のような大都市は流通がストップすると混乱に陥りますからね。

統計では墨田区に農家は一軒もありません。だから、生産者と消費者をつなげることをコンセプトにしてヤッチャバを始めたのですが、「つながる」とはどういうことか。それは、双方が当事者意識を持つことです。墨田のお客さんが群馬の農家を思い、山梨の農家が墨田を思う。群馬県の『かえるファーム』の古谷雅也さんは、カブづくり名人がつくるカブも委託されて販売しているのですが、その名人のおじいさんはテレビでスカイツリーを見ると嬉しくなって古谷さんに電話してくるそうです。「墨田区が出てるぞ」って。当事者意識とはそうして端々ににじみ出るものだと思います。

そして、子どもたちにも変化が生まれています。墨田区には農家さんがいないので、農地を見たことがない子どもも多い。そこで、山梨県の『山梨屋』の日原英明さんは朝採れのトウモロコシを茎ごと運んできて、ヤッチャバに集まった墨田児童館の子どもたちにもぎ取る体験会を開いてくださいました。すると、子どもたちが「山梨へ行ってみたい」と言い出し、夏休みに山梨を訪れるようになったのです。2泊3日で茅葺きの古民家に泊まり、囲炉裏の火を囲んだり。地元の子どもたちと友達になって、文通を交わしたりしているそうです。今度は山梨の子どもたちを墨田区に招こうと、計画を立てているんですよ。農産物を売買するだけでなく、そんな交流が生まれ、育っていく場になればと願っています。

事務局が消え、1000年続くヤッチャバに。

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2010年6月にスタートして4年半。現在、土曜は曳舟、日曜は両国でと、2か所で開催しているヤッチャバの運営に松浦さんは携わっておられます。集客は順調でしょうか?

おかげさまで、盛況です。出店料が手頃な割に売り上げも上がるので、農家さんからの出店の問い合わせもいただきます。ただ、出店要項はつくっていません。なぜなら、出店を希望される農家さんとは、直接お会いして話をしたいので。ヤッチャバの方針や雰囲気、墨田のお客さんたちやほかの出店者の方と「つながろう」という思いを持って商売をされたいかどうかを、じっくりお話しして確認したいですから。僕からは、ヤッチャバが始まり、今に至るまでの経緯を全部話します。3時間くらい話すこともあります(笑)。そのうえで相思相愛なら、出店をお願いします。ネット販売がメインで、単に余った商品を売りたいといったような目的の方はお断りしています。

これからヤッチャバをどう育てていきたいですか? 目標はありますか?

今いただいている出店料を、いつかはゼロにしていきたいですね。

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そうすると、事務局の運営費も出なくなりますが?

ええ、そうなります。というのは、僕たちにはこの市を1000年続くヤッチャバにしたいという思いがあるからです。農家さんと墨田のお客さんのあいだに僕たち事務局が入って、出店料をいただいたり、準備を整えたりしているうちは、本当の意味で両者がつながることができないのではと考えています。生産者と消費者が本当の意味でつながることができれば、事務局なんて必要なく、そうすれば、1000年続くヤッチャバになると思うのです。低コスト・高コミュニケーションを合い言葉に、事務局の機能がだんだん小さくなり、将来的にはなくなればいい。ヤッチャバの主体は僕たちではなく、この場に生まれるネットワークであり、コミュニケーションそのものですから。

墨田のみなさんの家の玄関脇に市で使うテントを置いておき、週末になれば市までガラガラと引いてきて、農家さんと一緒にテントを立て、「いらっしゃい!」と商売を始める。終われば、一緒に片付けて「また、来週」と帰っていく。それが、ヤッチャバの理想の姿なのです。

すみだ青空市ヤッチャバ
毎週土曜は曳舟(墨田区京島1-1-1)、日曜は両国(JR両国駅西口前)で午前9時から開催(売り切れ次第終了)。詳細はFacebookで。www.facebook.com/yacchaba

松浦伸也 Shinya Matsuura

松浦伸也 Shinya Matsuura
まつうら・しんや●1984年埼玉県生まれ。東京農業大学在学中に福島県・鮫川村で里山保全ボランティアに取り組む。卒業後、NPO『地球緑化センター』の「緑のふるさと協力隊」に参加。同大学院修了後は鮫川村の直売所職員に。現在、『すみだ食育goodネット』で活動し、「すみだ青空市ヤッチャバ」を開催。

ゴミ、捨てんなよ!

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