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sotokoto interview

まずは五感で知ることから。外来魚を捕って、さばいて、食べる。 生物ライター 平坂 寛 Hiroshi Hirasaka 魚料理は好きですか? 「好き!」と答える人でも、外来魚の味を知っている人は少ないはず。ブラックバス、ブルーギル、アリゲーターガー、カミツキガメ……。そんな、在来の魚の生態系に悪影響を与えるとされる外来魚や生物を、自分の手で捕って、さばいて、食べる人がいる。生物ライターの平坂寛さんだ。外来魚はおいしいのか? なぜ、食べるのか? その理由を尋ねた。 photographs by Hiroshi Hirasaka & Yusuke Abe text by Kentaro Matsui

初めて釣ったブラックバスが、意外にうまかった。

この秋、ユニークな本が出版された。『外来魚のレシピ──捕って、さばいて、食ってみた』(地人書館)。著者の平坂寛さんが日本各地で捕まえた外来魚を、焼いたり、煮たり、揚げたりして食べる様子が、笑いを交えた快活な筆致で描かれている。人間本来の食への好奇心を掻き立て、グロテスクな魚を食べるシーンでも、興味深く読める。特定外来生物のカミツキガメの唐揚げは「☆☆☆(3ツ星)」のグルメな味わい。見たこともないが、食べてみたくなるのはなぜだろう?
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上/平坂さんが上梓した『外来魚のレシピ──捕って、さばいて、食ってみた』。真似して食べてみるのはいいが、「寄生虫にはくれぐれも気をつけて!」とのこと。下/ブラックバスを捕まえたことのある多摩川で網を入れてみたが、外来魚は捕まらず。

初めて捕まえた外来魚は何ですか?

二十数センチのブラックバスです。小学5、6年生の頃、祖父母宅近くの池で釣りました。きれいな魚だったので、食べたいなと思ってリリースしないでいたら、迎えに来た父親が「何、その魚?」と。「家に持って帰って食べたい」と言うと、しょうがなさそうに許してくれました。母親に嫌な顔をされながらさばいてもらい、フライにしてもらいました。兄も食卓に着き、家族4人で箸を付けたのですが、「おいしい!」と意外にも大好評で(笑)。次からは4人分を釣って持ち帰っていました。

魚や生き物が好きだったのですね?

物心ついた頃から生き物が大好きで、1歳の頃でも虫が近づくと異常なほどの反応を示したそうです。本棚には生物図鑑とジャングルの探検記ばかり並んでいました。ジェラルド・ダレルの『積みすぎた箱舟』とか。そういう本を書ける生物学者になって、ジャングルの奥地を駆け回るのが夢でした。

それで、琉球大学に進学を?

熱帯の生物の研究ができる琉球大学に入学しました。外来魚を本格的に食べることを始めたのは沖縄に行ってからです。それまでは外来魚について意識することはあまりありませんでした。ところが、沖縄本島の池や川には外来魚がうじゃうじゃいる。プレコ(マダラロリカリア)という鎧のような硬いウロコで身を覆った南米原産の魚は、地元の人が「沖縄の魚じゃなかったの?」と言うほど普通に泳いでいました。その頃から、外来魚はどんな環境に、どれくらいの密度で生息しているかを観察し、捕まえて食べるようになったのです。それまでも大学の仲間と海で釣った魚やカニ、森で捕まえたハブをバーベキューで食べたりしていたのですが、その関心が外来魚にも向いていったのです。

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左上/丸焼きにしたアリゲーターガー。右上/それをサルサ&ニンニクマヨネーズ添えで食べた。左下/「う〜ん。魚というより鶏肉だ」と平坂さん。右下/鶴見川に足しげく通い、1年越しで捕まえたアリゲーターガー。これでも小さいほうだとか。

生き物を五感で知る。好奇心を満たすのが、いちばんの目的です。

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上から/中国から食用などで持ち込まれたタウナギは奈良県に多く生息。/タウナギを捕まえ、俎板に目打ちをしてさばく。/青椒肉絲ならぬ青椒鱔魚をつくった。/刻んだタウナギをニンニク、ニンニクの芽、タマネギと炒め、オイスターソースで味付けしたウナギ餡を中華麺にかけて食べたが、「ウナギ不足解消の救世主には、ならんな」

琉球大学卒業後、筑波大学大学院で研究を深められましたが、外来魚を食べることを写真と文章で発信しはじめたのもその頃からですね?

生き物の本を出すのが夢だったのですが、学生のうちにどうすれば本を出せるのかわかりませんでした。インターネット上に文章を書いて発信できる媒体があることに気づき、ニフティの「デイリーポータルZ」でライターを募集していたので、試しに生物観察系の記事を書いて応募しました。以後3年間ほど連載していますが、中でも生き物を捕って食べる記事の評判が意外とよく、それをベースに、『外来魚のレシピ』という本を出版できることになったのです。

いろいろな外来魚を食べていますが、何がいちばんおいしかったですか?

魚以外も含めていいなら、千葉の印旛沼で釣ったカミツキガメですね。外来生物法による特定外来生物なので、生かしたままの移動は禁止されていますから、その場で甲羅や体の汚れをブラシで落としてから締めました。唐揚げと鍋にして食べましたが、めちゃくちゃおいしかったです! 中米のある地域ではこのカメを食べる文化があるのも納得しました。食べられる部分も多く、一匹でおなかいっぱいになりました。また、味はともかく、印象的だったのは神奈川県の鶴見川で捕まえたアリゲーターガー。丸焼きにしました。ただ、水分が飛んで肉がパサパサになってしまいました。魚ではなく鶏と考え、バンバンジーなんかに料理すればおいしいと思います。最初、普通の魚と同じようにさばこうとしたのですが、石畳のように隙間なくみっちりと並んだ「ガノイン鱗」が硬く、包丁で落とせませんでした。そんな発見も、外来魚を食べる楽しみの一つです。

逆に、おいしくなかった魚は?

いちばんまずかったのは、アフリカマイマイ。ただ、まずいなりに個性的な味だったので、臭みを取って、うまく料理すればおいしく食べられるようになるかもしれませんね。僕はおいしい外来魚を求めて捕まえているわけではなく、まずい魚に出会っても、「まずっ。なんだこれ!?」とテンションが上がって楽しめるので、それはそれでOKなのです。主にどんな魚なのか、どんな味がするのかという好奇心で捕って、食べているので、おいしいか、まずいかはそれほど重要ではありません。見て、触って、聞いて、匂いを嗅いで、食べる。生き物を「五感で知ること」がいちばんの目的なのです。

駆除すべきかどうか。子どもたち自身に考えてほしい。

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上から/千葉の印旛沼で捕まえたカミツキガメ。噛まれないように気をつけて。/こちらは若いカミツキガメ。まだ小さい。/唐揚げにして「いただきます!」。大きな爪が生々しい。/肉質は硬すぎず軟らかすぎず。/近所から大鍋を借りてつくったカミツキガメ鍋。/唐揚げにかぶりつく。「うまっ!」と思わず声が。鍋もスッポンより食べやすいとか。

日本の河川に外来魚が増えたのはなぜでしょう?

観賞用の魚が川や池に捨てられたり、スポーツフィッシングのために持ち込まれたり。ブルーギル、チャネルキャットフィッシュ、モザンビークティラピアといった食用に持ち込まれた魚が養殖場から逃げたり、洪水で流れ出て繁殖したケースも。また、工場の温排水や温泉が流れ込む川は水温が温かく、熱帯系の魚でも冬を越して定着してしまうことがあります。

増えた外来魚を駆除する目的もあって食べているのですか?

外来魚は在来の魚を食べたり、エサや棲み処を奪う存在なので、駆除されるべきだとは思いますが、僕個人は駆除を直接の目的に食べているわけではありません。食用として持ち込まれたソウギョは、草を食べる生態を活用し、生い茂った草を除去させるために池に放たれたりもしています。ただ、貴重な水草までも食べ尽くすため、一転して駆除。人間の都合で放流されたり、駆除されたりするのは、気分のいいことではありません。以前、池でブラックバスを釣っている親子がいました。父親が釣れたブラックバスを、「これは悪い魚だから殺さなければ」と、息子の前で地面に叩き付けていたのです。それはちょっと違うなと思いました。物事の善悪の判断もつかない子どもに「外来魚は悪い生き物だから殺せ」と教えるのは乱暴ではないでしょうか。なぜ、悪い魚と呼ばれているのか、本当に殺さなければいけないのか、子ども自身に考えてほしいのです。だから、本のなかでも「駆除しよう!」とは呼びかけていません。

去年、狩猟免許を取られましたね?

外来魚に限らず、捕って、食べるのが好きですから。ただ、鉄砲は使いません。罠で生け捕りにして観察したいので。特定外来生物のアライグマやハクビシンを捕まえて、毛並みに触れたり、嗅いだり。場合によっては、食べたり。

外来魚の次はどんな活動を?

捕ったものだけを食べて暮らす「狩猟ダイエット」や、田舎のコンビニの照明に集まる虫を捕るとか、エンターテインメントとしての生物学を実践していますが、力を入れたいのは深海魚です。深海魚は手の届かない存在と思われていますが、一般人でも自分で捕って、食べられることを示したいのです。子どもたちと船に乗って漁に出るイベントを開催し、深海にどんな生き物が生息しているのか、身近に感じてもらえればと思います。子どもたちの前でさばいて、一緒に食べたら楽しいでしょうね。

平坂 寛 Hiroshi Hirasaka

平坂 寛 Hiroshi Hirasaka
ひらさか・ひろし●1985年長崎県生まれ。生物ライター。2009年琉球大学理学部海洋自然科学科卒業。13年筑波大学大学院生命環境科学研究科環境科学専攻博士前期課程修了。琉球大学在学中から外来魚を捕って、食べる活動を開始。ニフティのウェブサイト「デイリーポータルZ」で連載し、この9月に『外来魚のレシピ──捕って、さばいて、食ってみた』(地人書館)として出版された。

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