ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

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台所で人は笑顔になる。世界の台所を巡る旅から、おばあちゃんのレシピ集めへ。台所研究家 中村 優 Yu Nakamura 一緒にごはんを食べるという共通体験で人はぐっと仲良くなる。ならば、台所に立ってごはんを作ることから始めたら、より深い信頼関係が築けるのでは? そんな思いで始めた「料理」をめぐるプロジェクト。真ん中にあるのは、人を笑顔にしたいという思いでした。 photographs by Hiroshi Ikeda & Yu Nakamura text by Kaya Okada

料理はいかに笑顔を生むかの実験開始!

人を笑顔にするツールとして「料理」をとらえて、「おばあちゃんのレシピ」「YOU BOX」など、さまざまなプロジェクトを行っている中村優さん。「編集」と「料理」というふたつの経験を活かしながら、日本各地、世界各国をフットワーク軽く飛び回り、人々の物語を採取する。

自分がしていることは「料理」というよりも「調理」に近いと思っている。出会った生産者、レシピを教えてくれたおばあちゃんの思いをどのように活かしていくか。その人の物語を含めて、台所から伝えていきたい。そんな思いから、肩書は「台所研究家」に決めた。目の前にあるもの、向き合っている人を全力で大切にする中村さんの真ん中にあるものは「笑顔」。本人の笑顔も、今この一瞬を全力で楽しむかのように輝いている。
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ポルトガルのおばあちゃんに教えてもらった、細いパスタでつくるデザート。

中村さんの料理をツールにしたプロジェクトは、7年前、見ず知らずの人の家に行き、一緒に料理を作ることから始まりました。このプロジェクトを始めたきっかけは?

学生時代、アメリカとスペインの留学中に、同年代でいろいろな生き方をしている人に出会って衝撃を受けたんです。国際交流のイベントなどで社会起業家の人たちにたくさん出会って、そのコンセプトに共感してインタビューを始め、助成金で1か月間ニューヨークに行って、英語でインタビューするプロジェクトもやっていました。

最初は料理ではなかった。いずれは社会起業家になって、社会に貢献したいという思いがあった?

いつも助けられて生きてきたので、自分はなにができるだろうということをずっと考えていました。社会起業家になるという思いも少しはありましたが、決定的に違ったのは、強烈な原体験があるかないか。

私がインタビューした彼らは、なんらかの問題に直面して「自分がなんとかしないといけない」と問題解決に励んだ結果、たまたま社会起業家になっただけ。「社会起業家になりたい」といってなるものではないと気づいたんです。「私にそれはない」とわかり、一方でラオスやカンボジアの田舎などを旅して感じたのが、「かわいそう」よりも「笑顔がきれい」ということ。言語を超えていろいろな人に会うなかで、自分がいちばん大切にしたいことは「笑顔」だと気づいた。笑顔さえあれば争いが起きないだろうし、いろいろなことが解決するんじゃないかと思って行き着いたのが、「笑顔を生むツール」としての料理でした。

台所に入ると、人は心を許してくれる。

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スペインの代表的家庭料理コシード。「チャスカール」というスペインならではの包丁の使い方がある。

その頃、料理は得意だったんですか?

いえ、それほどでもなくて……(笑)。もしも私に音楽やスポーツの才能があったらそっちに進んでいましたが、自分にできそうなものが料理だった。料理を作って家に泊めてもらい、初対面の人とどれだけ早く仲良くなれるか。どのように笑顔が生まれていくかの実験をするため、3か月で5か国、スペイン、イタリア、フランス、ベルギー、ドイツを巡りました。企業からの協賛をいただき、資金はファンドレイジングで集めて。

一緒に料理をして、おいしいものを食べるときに笑顔にならない人はほとんどいません。同じ台所に立って作ったものを食べると、すぐに信頼関係が生まれました。だから、いろいろなことが聞ける。やってみてわかったのは、作りながらだと、心に隙間が生まれるということ。面と向かって話しづらいことでも、さらりと話してくれる。思っていることを引き出しやすいと気づいたんです。

その後、プロジェクトを終えて、大学を卒業して就職しました。そのときも「料理」を視野に入れていた?

いや、全然思ってなくて(笑)。コンサル系の会社に就職したのですが、2か月で辞めてしまいました。心の準備ができてなかったのでしょうね。そのあと、当時、フリーランスで編集をやっていた柿原優紀さん、恵比寿にあるレストラン『キッチン わたりがらす』のシェフ・村上秀貴さんに出会い、ふたりの人柄、働き方に惹かれて「お金はいらないので弟子にしてください」とお願いして、昼は編集、夜は料理という生活を3年続けました。

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フランスでべた惚れしたビオワインから造られるビネガーとその生産者。

最初は給料なしから始まった。そして経験を積み、旅先で見つけた食材を送る「YOU BOX」が生まれたんですね。

どうやって生きていたか覚えていないんですが、悲壮感なくやっていました。学ぶことがいっぱいあって楽しくて。この2人の力になれるようにがんばろうと決めていたので。「YOU BOX」が生まれたのは、1年半くらいの間、ホームレスをやっていたときのことです。

ホームレス!?

シンガポールで仕事に就く予定で家を引き払ったのですが、その話が立ち消えになってしまって、日本各地、世界各国の知り合いの家を2週間くらいずつ転々としていたんです。せっかくいろいろなところに行くのだから、その土地で出会った魅力的な生産者がつくるプロダクトを、旅先の空気感やストーリーと一緒に、友人たちにお届けするというコンセプトで始めました。

生産者に興味をもち始めたのは?

料理のことを考えていたら、生産者に行き着きました。『わたりがらす』で素材を見ていると、明らかにパワーのある素材というのがあって、おいしさが違うし、1週間経ってもしなびないものもある。そのことに気づき、興味を持ち始めて、おもしろい生産者を見つけてみようと。

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台湾の高雄で出会ったおばあちゃんには、台湾風卵焼きなどたくさんのレシピを教わった。

おばあちゃんはクリエイティブでロックな存在。

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岐阜県関市板取の葬式うどんは、ピーナッツベースのつゆで食べる。

「YOU BOX」に同封する冊子から「おばあちゃんのレシピ」が生まれています。

以前から興味をもっていたんです。女性の料理って、自分のためではなく、誰かのために作る。だから、レシピを聞くことって、大切にしている人との関係性を聞くことに等しいと気づいて、おもしろくなって。同時に、今聞いておかないとなくなってしまうという危機感もありました。地味な料理が多いので、おばあちゃんにしてみたら、こんなの教えても仕方ないって思っている。だから、ほとんどの場合、1回目で聞きたいレシピは出てこない。

特別な料理を教えたがる?

そう、ちらし寿司的なハレの日の料理とか。でも、保存食のレシピ、ケの日のレシピがすごい。岐阜県関市の板取という場所は山の中にあるので、冬場はなにもない。となると、困るのがお葬式。いつ起こるかわからないから、ピーナッツをすり潰した栄養価のある保存食をつくって家に常備しておく。だから葬式にはピーナッツをまぶした「葬式うどん」が食べられるようになったそうです。

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徳島県・神山町のバラ寿司。金時豆を入れる。

なるほど。理由がある。

おばあちゃんの料理というと、ほっこりしていると思われがちですが、すごくクリエイティブでロックなんです。とくに戦争を経験した75歳以上の人たちは、なにもないところから生み出してきたから、どうしてその素材を使うのかを知っている。無駄がないし知恵が詰まっている。この年代以下だと、化学調味料が入ってきます。

伝統的な料理を、中村さんは「保存」ではなく「進化」させるべきと言っています。

保存するだけだと廃れてしまう。時代に応じてどんどん進化してきたからこそ、その土地の歴史、人との関係性の歴史とともに受け継がれてきたのだから。止まってしまってはダメなんです。しかも、昔食べたものを、今の時代に再現してもおいしいと感じないかもしれないし。

おいしさの定義も変化していく?

おいしいからといって、例えば減少している種の魚を食べ続けるのは違うと思います。そこもひっくるめておいしさというものはある。あとは誰と、どのように食べたかという経験によっても変わってくる。おばあちゃんのレシピもおばあちゃん個人に属しているものだから、私が再現したところで同じ味にはなりません。だからこそ、背景にあるストーリーを聞きたいし、どのように生まれたかに興味がある。そこさえ押さえていれば、まったく同じにならなくても、思いや知恵の部分で引き継ぐことができるから。

今後はどんな展開を?

本として出すことも考えているのですが、海外に行っても、このプロジェクトに共感してくれる人が結構いるので、日本語だけで出版するのはもったいないかなと。おばあちゃんは弱い存在ではなく、自分より強くて学ぶべきことが多い存在ということをより多くの人に知ってほしい。知識の宝庫として見るきっかけをつくる、海外も含めたムーブメントにしていければと思っています。

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上段/香川県・小豆島では、庭のハッサクの実で創作デザートを作ってもらった。
下段/キリスト教を受け入れてきた歴史があり、昔から革新的な料理が多かったという香川県・豊島(てしま)では、スコッチエッグを作ってもらった。

中村 優 Yu Nakamura

中村 優 Yu Nakamura
なかむら・ゆう●1986年生まれ。台所研究家。編集事務所『taraxacum company』、恵比寿のレストラン『キッチン わたりがらす』にて編集と料理を学び、2012年にフリーランスに。自分の訪れた国の家庭料理を振る舞うケータリング「優の旅人キッチン」を主宰するほか、世界中のおいしいものを探し当て、ストーリーブックとともに届ける「YOU BOX」や、世界中の「おばあちゃんのレシピ」採取をしている。

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