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駒崎弘樹の日本の第三の道 教育界を震撼させる、「エビデンス」っていったい?

駒崎弘樹 こまざき・ひろき × 中室牧子 なかむろ・まきこ

駒崎: 中室先生は教育経済学者のお立場から、日本の教育界に対して「統計的なエビデンス(証拠・根拠)のある手法を取らないと世の中は良くならない」とおっしゃっていて、僕はそれを聞くたびに「もっともだ!」と、いつも激しく同意しています。

「私の経験上、ふくらはぎを揉んでいたら健康なんです」と、喜ぶくらいならいいんです。それを公式の場で広く勧めようとすると問題ですよね。教育の審議会ですら、「私の経験では……」と言っている状況が今のデフォルトです。

中室: 根底には「経験至上主義」がありますよね。

駒崎: 先生の著書『「学力」の経済学』は掛け値なしにおもしろかった。エビデンスなき言説がそれっぽく跋扈ばっこする教育界に「それって科学的根拠あんの?」と叩き付けたられた挑戦状でした。

  • ゲームが子どもに悪影響って、そんな証拠ないんだけど。
  • 「良い先生」超重要。だから優秀な人材が先生になれるよう、教員免許をやめようよ。
  • 「全国学力調査で秋田県がトップ。だから秋田の学校を学ぼう!」とか意味はない。だって公立だけの調査で私立を入れたらトップ東京だもん。


など、刺激的な内容でしたね。日本の教育にエビデンスがこれほど欠けているのかと思い知りました。保育もですが。

中室: 国会などにおける日本の教育政策で多くの時間を割かれているのが、「国歌・国旗」などイデオロギーに関するものです。健全な愛国心を持つことは必要だと思いますが、そうした特定の問題に議論が集中することで、「教育を通じた貧困の世代間連鎖」「教員の指導力の低下」「就学前教育への投資や資源の不足」という、本来議論されるべき政策課題が十分に話し合われていないように感じます。

駒崎: 保育の世界の審議会で驚くのが、みんなが「保育の質を高める」とことあるごとに言うんですけど、そもそも一度も「保育の質」とは何か? を定義していない。

中室: それは「教員の質」を話し合うときも同じですね。

駒崎: 「前提」について議論しないんです。保育の質を高めるために「保育士を増やそう」と言う人がいるかと思えば、「保育士を減らそう」と、真逆のことを言う人がいる。毎回、審議会に出るたびに、すごく不毛だなと思っていました。「やっぱ、保育は特殊だからかな……」と思っていたら、中室先生の『「学力」の経済学』を読んでも同じで、「ああ教育もそう思うんだ、やっぱり……」って、ちょっと安心しました。……いや、安心したら駄目なんだけど(笑)。

中室: 驚くべきことに「ドグマ(固定された堅固な信条)」は、本当にあるんです。例えば「三歳児神話」のように、10年以上も前に政府の報告書の中で「科学的な合理性がない」と否定されているようなものですら、自分の考えの裏付けとして、有識者会議で述べる方がおられるのには本当に驚きを禁じ得ません。

駒崎: 厳しい言い方をすれば、国益を損ねるレベルですよね。先日、少子化対策の審議会に出たのですが、子どもを10人産んだという女性が来ていました。素晴らしいことです。だけど、政治家の人たちが、「10人も産める人の話をしっかりと聞かなきゃいかん」と、言って彼女に少子化対策への意見を求めたんです。すると、その人曰く、「やっぱり大人たちが太陽を浴びていないからです」と。

中室: あはは。

駒崎: だから、草食系男子は性欲が湧かないとトンデモ持論をぶちまけたんです。政治家たちは真剣に話を聞いているんですよ。そこで、審議会に参加している産婦人科の先生に「先生ちょっと言ってください!」と裏でメールして「出生率と太陽の日照関係にはなんらの相関関係もございません」と、打ち消さなきゃいけなかった。もし、打ち消さなかったら、「男性は日光浴しよう」という話になっていたかもしれない。……もう恐怖体験ですよ。

中室: 私はなぜ、有識者会議で「私の意見」「私の経験」を述べる人が後を絶たないのか、そこに強い問題意識を持っています。税金を投入する政策には、当然その効果についての科学的根拠(エビデンス)を求められるはず。この意味では、教育や保育はある種「聖域化」しているところがあったのかもしれませんね。

駒崎: 教育分野は「経験に基づく話」が多いですよね。

中室: 「個人の経験」が説得力を持つ世界ではありますよね。物事の真贋を見極められない自治体や政府が、「自分の経験を主張する人」を「専門家」として専門家会合に呼んできてしまっている。

教育経済学
「教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的とする応用経済学の一分野」(『「学力」の経済学』)。教育の費用対効果などの分析を統計的に行う学問。
『「学力」の経済学』
中室牧子さんが6月に上梓したベストセラー『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)。エビデンスベースト(統計データなどの科学的根拠に基づいた)で得られた教育分野の知見は、「教育評論家」や「子育ての専門家」の話ばかりを聞いてきた日本人には衝撃的!
三歳児神話
3歳になるまでの間、子どもは母親のもとで育てなければ成長に悪影響を及ぼすという言説。「厚生白書(1998年版)」で、合理的根拠がないと記載された。

ゴミ、捨てんなよ!

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