伝説の流転企画「憂国呆談」がなんと『ソトコト』で上げ潮進行中! 希代の舌鋒ふたりによる、ロハスな社会のためのクロストーク。 鋭く、ときにゆるく、ときにトリッキーにお届けいたします。

なぜ『ソトコト』か  築地移転は日本の象徴  クリスマスケーキはどうなる?  葉を見て木すら見えない  ウィルスはテロと同じだ!  1億総懺悔?の薬害肝炎訴訟  メタボ撲滅のトンデモ対策  時代が逆行しちゃったアメリカ  東京崩壊に気をつけよ!  3種類になったミシュランガイド  グローバル資本主義の危険性?  日本の農業こそ、危ういぞ 

憂いゴト

狂牛病と地球温暖化問題

2007年11月1日
スペシャルゲスト:福岡伸一
at カフェ・ド・シンラン

ウィルスはテロと同じだ!

福岡:

2005年ですが、田中さんたちと集まって、アメリカ産の牛肉の輸入が再開される前に狂牛病(BSE)の問題について話をしたことがありましたよね。田中さんはまだ長野県知事で、「牛の全頭検査を長野県では維持する。羊も同様。」と言われていて、それはすごく評価できると思っていたんです。でも国は2008年の夏まで、国は全頭検査に対して金を付けると言っているんですが、それ以降は付けない。やるかやらないかの判断はそれぞれの都道府県に委ねられることになる。私の見解では、全頭検査を止めて、特定危険部位の除去だけに頼った狂牛病対策というのは不完全だと思いますし、もうひとつは、全頭検査を止めたら、疫学上の情報が一切入ってこなくなるので、日本の狂牛病がどうして起こったかという、原因解明が不可能になってしまう。狂牛病はまだ終わっていないので、全頭検査はぜひするべきだと私は思うんです。







田中:

無論、全頭検査を行ったとしても、発症確率を絶対的なゼロにはできない。科学が不得手な僕の頭の中の整理としては……バクテリアは抗生物質を使って治癒可能でも、ウィルスやプリオンは向こうのほうがお利口というか、どんどん進化して、変化していくものであって、その意味では、プリオンやウィルスとどうやって向き合っていくのかが大切。これは戦争にも言えることで、国と国の戦争は、いずれどちらかが降参するんですよ。テロとの戦いは、相手が国ではない。目の前のテロリストを処刑しても、貧困がある限り、同じような考えを持った人たちが出てくる。テロはウィルスと同じ存在だと思うんです。完璧に治癒もできないし、除去もできない。だから厄介。でも、だからこそ、貧困を減らして憎悪の連鎖を食い止めると同時に、どんなにか言葉を尽くしても100%理解し合えるなんて、恋人だって親子だってありえないからこそ、私たちは対話を続ける必要も価値もあるわけでね。なのに、「ステルス戦闘機という抗生物質を使えばテロというウィルスだって全部治癒できますよ」とか、「20メートルも土を盛れば、豊洲でも平気だから、築地から移転させちゃえ」などと言っている単細胞な人々は、弱った存在だよ。その土地には水銀が環境基準値の24倍、青酸カリのシアンが490倍も含まれていて、どちらも常温で気化する物質だから、土盛りをしようがアスファルトを敷き詰めようが、その隙間から蒸発して、市場で扱う魚介類や働く人々の人体が汚染されてしまう。なのに、海を愛する東京都知事の慎チャンは恩を仇で返すのかぁ、と(苦笑)。地方選出の国会議員には住居手当を支給すれば済む話で、議員宿舎の建設なんて無駄だけど、その予定地の木は一本たりとも切らせない、と会見で胸を張ってる石原慎太郎チェンチェイは、市場の魚は一匹たりとも生かしておかない、とでも居直るのかな。そりゃ、その翌日にはお腹の中に入るとしても、いや、だからこそ、移転しちゃいけないんだよ。


浅田:

補足すると、ウィルスっていうのは核酸、つまりDNAやRNAで、それがどうやって病気を起こすか一応分かってる。ところが、プリオンっていうのはたんぱく質なんで、変な形のたんぱく質が入ってくると他のたんぱく質に影響を与えて変な形にしてしまうらしいとか言うけれど、そのメカニズムはよく分からない。むしろ分からないということを認識するのが重要なんですね。分からない、だから用心するに越したことはない、と。


福岡:

これは科学の問題というより、科学の限界の問題なんです。いろいろやったけどこれから先は分からないので、その後、どれくらい安全率を見越して考えようかということ。食の安全を考えるときに出てくるのがリスク論でして、この世に100%安全なものはないから、冷静にリスクの量を見極めて、ヒステリックに騒ぐのはやめましょうという考え方なんです。リスク論者の言うリスクっていうのは、結局死者の数なんです。狂牛病で死ぬ人の数っていうのは、どれだけ高く見積もっても今後1年に0・8人くらい。でも、毎年交通事故で6000人くらい死んでいて、3万人の人が自殺で死ぬから、自ずと政治的優先順位からすると低いというのがリスク論の考え方なんですけど、0・8人死ぬっていうそのリスクの質や由来っていうのが、そこでは全く漂白されてしまっていますよね。それと狂牛病というのは、牛が狂った病気というより、人が牛を狂わせた病気であって、人災的な側面が非常に高くて、それを売りさばいて儲けた人がいることを考えると、そのリスクの量の議論だけでは見えなくなってしまいますね。


浅田:

地球温暖化問題についても同じようなことが言えますね。どうやら人間の活動が地球を温暖化させているらしい。しかし、それに懐疑的な人もいる。地球の長い歴史からみるとほんのちょっとした揺らぎによってたまたま暑くなっているだけかもしれない、と。たしかに、人間の活動が、こういう仕組みで、これくらい地球の温度を上げている、だからこうすればこれくらい温度が下がる、そういうことはまだ確実には言えないんですね。本当のところは分からない。大切なのは、しかし、分からないということを認めることです。そして、分からないから何もしないっていうんじゃなく、分からないからこそできるだけの手は打っとこうと考えることですよ。今やってることが無駄だとわかる後悔よりも、今やらずに手遅れになる後悔のほうが大きいんだから。それと同じ意味で、全頭検査だって、それほど巨額な予算も手間もかからないんだから、やっとけばいいんですよ。分からないからこそ、ね。



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