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テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

「Sweet」の存在

「Sweet」。日本語のカタカナ表記で、スイートやスウィート。甘い、甘美な、気持ちよい、優しい、かわいらしい。聞くだけで「Sweet」になる意味を持っている言葉。これを味わうと身体は思わず弛緩し、発する対象を好意的にとらえる。なぜ、人間には「Sweet」が与えられたのだろうか。

イギリスの自然科学者であるチャールズ・ロバート・ダーウィンが提唱した「適者生存」は、共感や同情こそが人間の有能な資質であるという考えに基づく。

「同情できる人が一番多くいる地域社会が、最も繁栄し、多くの子孫を残すだろう」

ダーウィンが残したこの言葉が示すとおり、社会は脆弱な赤ちゃんを守るように進化してきた。いや、脆弱さに同情しているというより、赤ちゃんのかわいらしさが守られるようにできている。

同情よりもプロアクティブな感情がそこにはある。甘美さや優しさにあふれている社会において、人と人が強く結びつき、子孫繁栄をもたらす構造は想像にたやすい。

アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローの欲求段階説において、生理的欲求と安全欲求が十分に満たされると表れる「社会的欲求と愛の欲求」がある。愛、情緒的な人間関係を求め、他者に受け入れられている感覚。どこかに所属しているという安心感。

そのうえで、自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める承認欲求や、自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して自分がなり得るものになりたいという自己実現の欲求へと昇華する。

これら欲求の階段をのぼるプロセスにおいても「Sweet」の存在を感じる。いずれの欲求においても、多かれ少なかれ他者との関係性が鍵となっており、「Sweet」はそれを良好にするエッセンスとなるからだ。

いずれにせよ、人間は一人では生きていけない。愛し合うために必要な優しさを持ち寄り、共感や同情をしながら助け合って生存してきた。

周囲と良好な関係を築く性質に欠如していたならば、人間はすでに絶滅していたかもしれない。人間性の核に優しさが据えられているお陰で、私たちはいまここにいる。

経済的な成功者でも幸福度が低く、成功していなくても幸福度の高い人がいる。それを裏づけるように、恋人、夫婦、家族、友人などと素敵なつながりを持てている人ほど、経済的成功とは無関係に幸福度が高い傾向を示すという分析もある。

誰かと素敵な関係を長期にわたり保つためには、人間性がものをいうわけで、自分のエゴありきで生きていると築けない。他者との「Sweet」なつながりなき成功は、人間を、本当の意味で幸福にしないのだろう。

こう考えてみると、「Sweet」は共感や愛情、そして人間性を形づくるための力なのだ。

人と人が強く結びつくために「Sweet」があり、「Sweet」こそが私たちを未来へと運ぶ。

僕は思うのだ。人間とテクノロジーが共に繁栄するためには、その二者間にも「Sweet」がなければと。そう、テクノロジーにも「Sweet」を。ロボットだって、かわいげがあったほうが仲よくなれるに決まっている。

小川和也 おがわ・かずや

小川和也 おがわ・かずや
おがわ・かずや●アントレプレナー/フューチャリスト。慶應義塾大学法学部卒業後、アントレプレナーとしてテクノロジーを基軸としたベンチャービジネスを国内外で展開する一方で、フューチャリストとしてテクノロジーに多角的な考察を重ねて未来のあり方を提言している。これまでに、東京藝術大学非常勤講師、西武文理大学特命教授なども務め、著書、講演、メディア出演多数。人間とデジタルの未来を説いた『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は教科書をはじめとした多くの教材や入試問題にも採用され、テクノロジー教育を担う代表的論著となっている。J-WAVE「Futurism」(毎週日曜21時~)ナビゲーター。

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