ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか

会話の楽しさ

会話の展開がどうにも武骨だったり、あまりリズミカルではない人がいる。会話の途中で返答に詰まったかと思えば、突然“明後日あさって”の方向を向いたりする。僕の知人・友人の中にも、そういうタイプの人は意外と少なくない。しかし、必ずしもそれがコミュニケーション上のストレスになるかといえばそうでもないのが不思議だ。そういう人に限って、他人の話を聞いていないようでいて実はよく聞いていたり、話の流れを台無しにするようでいて熟考の揚げ句の“明後日”だったりするのだ。予定調和っぽさがないことも功を奏して、むしろ紆余曲折な会話を楽しめる。

どんなに会話上手な人だって、家族や友人とのいざこざや、恋愛で感極まった時などには、いつもの流暢さを欠くことはあるだろう。だが、かえってそれで相手に気持ちが伝わるものだ。思いや考えがあふれてしまい、簡潔な言葉でまとめることができなくなってしまうのは、それだけ真剣な証しでもあり、その真剣さこそが流暢さに勝る伝達力となる。

テクノロジー社会のひとつの産物に「チャットボット(chatbot)」というものがある。メッセージアプリなどを通じて、コンピュータと会話さながらに文字のやり取りをするもので、チャット(おしゃべり)をするロボットが名前の由来だ。人工知能の発展で、このおしゃべりが高度になり、様々なサービスに活用されるようになった。スマートフォンで「頭が痛い」「お腹が痛い」などと症状を伝えると、コンピュータが可能性のある病気を判断し、近隣の病院を紹介してくれる。会話形式なので、Web検索で探すよりも人肌(その実は人工知能だったりするのだが)を感じられる点が特徴だ。オンラインショピングの受発注、飲食店の予約、賃貸物件探しなど、用途はどんどん広がっている。単なる会話相手のボットもあり、心の隙間を埋めてくれる。とはいえ人工知能の成長途上においては、まだボットが完璧に対応できるわけではなく、人間がサポートしていることも多い。それどころか、ボットのフリをして人間が返信している場合すらある。

しかし、これは時間の問題で、テクノロジーの進化によりこのボットはやがて独り立ちし、オンラインで人と人、人と企業をつなぐ戦力となることだろう。毎日大量の問い合わせに電話で受け答えしているコールセンターもチャットボットに置き換えられ、人件費の削減に加えて、賢い人工知能がより顧客のニーズに適した応答をしてくれる。何しろ理知的な人工知能のことだから、人間のようにうっかり感情に振り回されることもなく、安定感のある会話で職務を全うすることだろう。チャットボットは至るところに進出し、経済活動における合理性を育む。そんな社会で暮らしていると、きっと今よりも感じるはずなのだ。「あー」とか「うー」とか言って言葉に詰まったり、思いもよらぬ返答をされる会話の楽しさを。

小川和也 おがわ・かずや

小川和也 おがわ・かずや
おがわ・かずや●アントレプレナー/フューチャリスト。慶應義塾大学法学部卒業後、アントレプレナーとしてテクノロジーを基軸としたベンチャービジネスを国内外で展開する一方で、フューチャリストとしてテクノロジーに多角的な考察を重ねて未来のあり方を提言している。これまでに、東京藝術大学非常勤講師、西武文理大学特命教授なども務め、著書、講演、メディア出演多数。人間とデジタルの未来を説いた『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は教科書をはじめとした多くの教材や入試問題にも採用され、テクノロジー教育を担う代表的論著となっている。J-WAVE「Futurism」(毎週日曜21時~)ナビゲーター。

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