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田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

『ラ コリーナ近江八幡』から、豊洲移転と築地の再開発、東京都議会選挙から、加計学園の問題追及まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

滋賀県近江八幡市にある『たねや』の施設、『ラ コリーナ近江八幡』を訪れた田中・浅田両氏。藤森照信設計のユニークな建物を見学した後、本社が入る建物のテーブルで対談開始。藤森建築のおもしろさを語り合いながら、豊洲市場への移転と築地の再開発の矛盾や、加計学園の追及の甘さについて厳しく論じた。

浅田

今日は滋賀県にある『たねや』の『ラ コリーナ近江八幡』に来た。いわばお菓子のフードパークだけど、藤森照信の設計で建物の屋根にも植物を植えた緑の丘になってる。屋根に植物を植える芝棟の伝統を復活したわけだけど、通路の屋根に一定間隔でキキョウが咲いてるところなんてなかなかいいね。

田中

藤森は1990年代に赤瀬川原平の家を設計し、そこでは屋根にニラを植えた。国分寺の自邸にはタンポポを植えるという変わった建物で知られている。

浅田

もともと建築史家で、丹下健三の本なんかも出してるんだけど、いわば歴史の根源に突き抜けるようにして、自然と一体の建築を設計し始めた。アヴァンギャルド(前衛)ならぬ“ヤバンギャルド”ってわけ。

ただ、構造は鉄骨やコンクリートを使ってるんで、この春、水戸芸術館で開かれた藤森照信展に寄せた文章で磯崎新が言うように、「つくりもの」に過ぎないとも言える。しかし、能の舞台でも自然物を「つくりもの」で表すし、そもそも日本では都市も建築も「つくりもの」だった、と。あるいは、茶室をはじめとする数寄屋建築にも通ずるところがあるね。湯河原にある細川護煕もりひろ元・首相の「不東庵」って陶芸工房も藤森の設計だけど、そこに急いで茶室をつくれっていう要請があった。ジャック・シラク仏大統領を迎えるためだったんだね。そもそも秀吉や利休の時代だって、大切な客のために茶室をつくってたわけで、簡素な草庵みたいでも、実は贅沢、維持も大変なんだよ。同様に、藤森建築も個人が住むにはけっこう大変なんじゃないか。その点、『たねや』は社員総出で建築作業に加わり、棚田でコメ作りもしながら、新しい食のヴィジョンを膨らませてるわけで、藤森建築にとっては理想のクライアントかも。

田中

フランスのポンピドゥー・センター・メスをはじめとして、すべて木組みで造り上げる坂茂ばんしげるとの微妙な違いだろうね。

浅田

坂茂は見かけより構造にこだわる建築家だからね。ともあれ、ここも最初は日建設計にマスタープランをつくらせてた。その案が常套的で気に入らなかった社長が最後の最後になってキャンセルし、藤森にすべてを託すことにした、その決断力は大したもんだ。

それにひきかえ、東京都知事になった小池百合子は、築地市場を日建設計による豊洲市場に移転するのかしないのか決定を延ばしに延ばしたあげく、都議会議員選挙直前になって「築地は守る、豊洲を活かす」っていう玉虫色の妥協案を発表。これじゃあ自民党お得意の「決められない政治」そのものじゃない?

田中

「私の心は築地にある」と言っていた知事が、百条委員会だのパフォーマンスを延々と10か月間も続けて空転させた揚げ句、豊洲「無害化」の約束を撤回して来年には市場移転を実施すると7月21日に発表。でも5年後にはサンフランシスコのフィッシャーマンズワーフに擬せて「食のテーマパーク」として築地も再開発するとのありえない展開。何が「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」だよ(笑)。豊洲移転を中止して現在地を耐震化したレンガ建てで再建するのが、我々が10年前から繰り返し述べていた築地フィッシャーマンズワーフ構想。言葉だけパクッても、いまだに運営事業者すら決まらぬ豊洲の千客万来施設は予定どおりに開業するからバッティング。これで「築地は守る、豊洲を生かす」だなんてワースト・フーリッシュ・スペンディングだよ。

サッカー解説者・松木安太郎の従兄いとこで、築地のマグロ問屋3代目で豊洲移転推進派の生田與克よしかつと、東京中央市場労働組合執行委員長で築地残留派の中澤誠という両極の二人が、都議選直前の6月20日に小池が会見を開いた直後、「とんでもない。愚弄している」とツイートして初めて意見が一致したのに象徴されている。会見を生中継したニコニコ生放送では約9割の視聴者が「まったく評価しない」。なのに、“輿論”ならぬセンチメンタルな世論は約5割が「評価する」と言っていて、洞察力のなさにお口アングリだ。東京大改革じゃなくて東京大改悪でしょ。

浅田

ただでさえ取扱高が年々減少するなかで豊洲と築地の両方ってのは無理。アマゾンのホールフーズ・マーケット買収に象徴されるとおり、今後はIT化も影響してくるだろうし。

田中

小池のブレーン役を任ずる上山信一は京都の錦市場や大阪の黒門市場のようなイメージで築地再開発を語っているけど、錦や黒門の大きいのが豊洲移転後も存在する築地の場外市場だもの、ここでもバッティングする(苦笑)。場内・場外を一体化してデザインする我々のプランとは端から違う。場内は産地から運ばれてきたものを選り分けて、セリをして、そこが仲卸の仕事場。その仲卸は豊洲に移して、築地にも場内機能を設けるなんて、全然わかっていない。進駐軍のクリーニング工場が一時期あった築地も環境アセスメントが長引いて、5年どころか10年以上かかるかもしれない。その間、税金がダダ漏れしていくと。

一方で小池は、現在の築地を含めて東京都が設置している11か所の中央卸売市場を統廃合すると述べている。生花を扱う花卉かき市場は以前に三田の慶應義塾大学の正門脇にあったように、歴史的な経緯もあってどこの都市でも小振りで数が多い。大阪は、個人営業の2代目や3代目に店仕舞いさせて統廃合する仕掛けとして、鶴見緑地で1990年に国際花と緑の博覧会=花博を開催した。ランの花を輸入する総合商社が花卉ビジネスに進出するきっかけにもなった。

築地、大田だけでなく、豊島、淀橋、足立、北足立、葛西、板橋、世田谷、多摩ニュータウン、そして品川駅東口に古くからある食肉市場と確かに数多い。豊洲・築地併存プランはここでも矛盾している訳だ。

地方公営企業法で規定された病院や鉄道、バス、電気、ガス等の事業を地方公共団体が行う一つとして中央卸売市場会計が組まれている。この赤字破綻を先送りする方策として豊洲移転が画策されて、よりによって、東京ガスが石炭を原料に一日約200万トンもの都市ガスを20年も製造し続けた跡地に白羽の矢が立った。で、賛否両論で豊洲も築地も活かします、と玉虫色の方針で赤字はますます増大すると。都政の闇を本当に暴くなら、市場会計を一度破綻させないと抜本的な解決につながらない。

他方で、水道事業を民営化、それも地域独占とはいえ日本企業が担う電気やガスと違って、フランスのヴェオリアに象徴される海外の水処理企業に任せる自治体が出てきている。原発が排出する放射性廃棄物の処理も手がけて日本市場に進出するヴェオリアは、世界中で約7500か所も浄水場や下水処理場を管理していて、少なからぬ国々の地域で水道料金が急騰して住民の不満と不安が高まっている実態がある。なのに、周回遅れで同じ轍を踏もうとする日本は、宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」の大切さを噛みしめるべきだ。まあ、築地のテーマパーク化は今からシャビーな代物になりそうで、頭が痛いよ。

浅田

築地の再開発を藤森に任せるのは無理としても、松島や気仙沼の漁師といろいろやってきた石山修武おさむあたりがラディカルなことをやればおもしろいかもしれないね。しかし、現状だと、両方を日建設計的な案でやりつづけてジリ貧になるっていう最悪のパターンに陥る可能性が高い。

田中

まったくだ。オフィス街の建物に専念してほしいね、日建設計には。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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