ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

森友学園問題の展開から、道徳教科書の検定、防衛省の日報問題、トランプ政権の施策まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

東京・日本橋横山町で4月にオープンしたばかりのゲストハウス『obi Hostel』をオープン前に訪れた田中・浅田両氏。宿泊スペースを見学した後、カフェのソファで対談を開始。証人喚問された籠池前・理事長からトランプ大統領の話題まで、納得のいかない現状に業を煮やすように論じ合った。

浅田

森友学園の小学校のため国有地が超格安で払い下げられた問題で、3月23日に理事長だった籠池泰典が衆参両院の予算委員会で証人喚問を受けた後、安倍晋三・昭恵夫妻から100万円の寄付を受けたっていう彼の証言をめぐって水かけ論争が続いてる。法的な責任追及のみならず、首相夫人が名誉校長を務める右翼系の学校に対し官僚が権力者の意図を忖度して便宜を図ったっていう構造的な問題を政治的に追及する必要があるのに。

田中

「総理の名誉を侮辱した」私人を国会で証人喚問したら、さらに100万円寄付の爆弾発言で「侮辱」された当事者の昭恵夫人の「名誉」のためにも、国会の場で証人として「真実」を彼女にも語ってもらうのが筋を通す政治のあり方だよね。冷静にとらえれば。なのに、予算委員会の質疑で首相が、「証人喚問には応じない」と拒否したのも行政府の長として、三権分立をわきまえない話でね。招致するかどうかを決めるのは立法府で、行政府ではないのだから。

官邸の電話番号と内閣総理大臣夫人付の肩書が印刷された名刺を持って、経済産業省から出向して活動していた女性職員が森友学園側に、「15年度の予算措置ができず、16年度で行う方向で調整中」と官邸の封筒で文書を送付し、実際に16年度に入るやすぐに予算が執行されたのに「(問い合わせの結果は)ゼロ回答だ」と答弁するのも、一般的な我々の頭脳では理解に苦しむ。

証人喚問の後に日本外国特派員協会で会見した際に通訳が「忖度」の訳し方に戸惑ったように、行間を読む=リード・ビトゥイーン・ザ・ラインズよりもさらに日本的な空気を読む話だよね。具体的な指示や要求が出されるわけじゃないけど、「あの案件はどんな具合だね」と間に幾人も介して照会を受けたら、それがどんなに「奥の細道」であろうと実現に向けて動く。それが“役人道”だからね。

土地の価格に関して、学校の認可に関して、糸も通らぬほどに狭い針の穴に瑞穂の國記念小學院の木造校舎の丸太が貫通しちゃった話は、財務省、国土交通省、大阪府をいくらだって追及可能なのに、民進党は不甲斐ない。携帯電話が水没したという理由で2015年9月5日の100万円寄付疑惑前後のメールは公開されないなら、携帯電話会社にデータの開示を求めるのも国政調査権で可能でしょ。

失言・迷言・暴言続きの稲田朋美防衛大臣、金田勝年法務大臣、今村雅弘復興大臣を辞職に追い込めず、『産経新聞』も『日本経済新聞』も社説で昭恵夫人がちゃんとした場で弁明すべきだと書いているのに国会審議の空転もできず、「共謀罪」の審議入りに応じてしまう民進党の村田蓮舫、野田佳彦に、安倍晋三内閣は感謝状を進呈するべきかもね(苦笑)。

浅田

安倍夫妻の寄付や口利きは実証できず、籠池をトカゲの尻尾として切って終わる可能性もあるけれど、安倍政権が右翼に支えられており、官僚もその意図を忖度したっていう構造が最大の問題なんで、一般国民もそれはよくわかっただろうから、政治的な影響は大きいね。

田中

「私や妻が関わっていたら総理大臣も国会議員も辞める」と大見得を切ったのも大人げない。その昔の政治家は心の中ではベロッと舌を出しながらも神妙な面持ちで「不徳の致すところです」と述べたものだ。官僚が全自動洗濯機ならぬ“全自動忖度機”と化して、首相も“全自動湯沸かし器”になっているのは弱ったものだ。

浅田

いずれにしても、森友学園問題が安倍政権にもたらした政治的ダメージは大きい。さらに、加計学園その他の問題もある。

田中

カリフォルニアに語学留学時代からの「腹心の友」が経営する加計学園グループが新設する岡山理科大学獣医学部が、なぜか瀬戸内海を渡った愛媛県で計画されていて、地元の今治市は学園に37億円の土地を無償譲渡、192億円の校舎建設費も県と市が半分補助するので問題視されている。同グループの吉備国際大学が兵庫県南あわじ市に開設した地域創成農学部も市が50億円以上も負担し、そのほかにも同グループの大学に岡山県の高梁市たかはししは60億円、宮崎県の延岡市は90億円と大盤振る舞いしている。

文部科学省は約119万人の18歳人口が2040年には約80万人に減少するのを踏まえて、全国に約800もある4年制大学を国公私立の枠を超えて統廃合する方針を中央教育審議会に打ち出しているのに、矛盾しているよね。

浅田

欧米のメディアは一貫して安倍政権の右翼歴史修正主義を批判してきた。森友学園問題もその線で大きく報じられてる。むしろ日本でこれまでそういう批判的報道が少なかったことが問題。日本のメディアがいかに去勢されてるかってこと。

田中

すったもんだの末に組織的犯罪処罰法改正案が審議入りしたけど、これも5月下旬にイタリアのシチリア島で開催されるG7サミットで、国際組織犯罪防止条約第5条を締約するための根拠法が国会で通りました、と報告しなくちゃいけないからだなんて噴飯ふんぱんもの。

その条約は「9.11」前年の2000年に採択されていて、日本だけが17年も要するなんて行政・立法の不作為でしょ。しかも、マネーロンダリングと乳幼児や女性の人身売買を防止するための内容で、テロとは直接関係ない。

浅田

共謀罪はこれまでに3回も法案として国会に出して通らなかったのに、東京オリンピック・パラリンピックがあるからテロ対策強化が必要だと称し、「テロ等準備罪」と名前だけ変えて通そうとしてる。オリンピックは、利権のみならず、こういう目的にも使えるのか(苦笑)。

田中

「共謀罪」を「テロ等準備罪」と言い換えること自体が「もうひとつの真実」ならぬ「もうひとつの不誠実」なオルタナティヴ・ファクトなんだよ。政治目的の騒乱や内乱という破防法違反の罪を罰する「陰謀罪」がすでに存在していて、爆発物取締罰則違反の罪に対処する法律も存在する。組織的殺人予備罪という組織犯罪処罰法も同様にね。

浅田

テロ組織や犯罪組織に適用するもので善良な一般国民には関係ないって言うけど、その一般国民がテロ組織や犯罪組織に入ってないかどうか監視できる法律なんだから関係あるに決まってる(苦笑)。

田中

戦前に治安維持法が成立した際に、当時の新聞が、善良な一般国民には適用されないと大見出しを打ったのを思い出さないと。

道徳の教科書検定も絶句ものだ。消防団のおじさんをおじいさんに、パン屋を和菓子屋に、アスレチックの遊具で遊ぶ公園を和楽器を売る店に修正したら文部科学省の検定にパスしたと。検定に引っかかった理由が、「郷土愛不足」だというんだから呆れるよ。じゃあ、昭恵夫人の実家はチョコレートやキャラメルのメーカーだけど、忖度しなくていいのか(苦笑)。老人がハシゴから落ちると大変だから働き盛りの年下が代わって担当する「長幼の序」を教えてこそ美しい日本だろ(涙)。

浅田

聖徳太子の復活も問題。厩戸皇子うまやどのおうじという人物は実在するものの、聖徳太子がやったと言われることを全部やったわけじゃない。そういう歴史研究の成果に基づいて聖徳太子という名前をカッコに入れようとしてたら、皇国史観を懐かしむ右翼が、それでは古代史の物語が成り立たないって言って反対した。十七条憲法の「和を以てたっとしと為す」からすると、平和憲法でいいってことになっちゃうけどね(笑)。むしろ、遣隋使に託して煬帝ようだいに「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す、つつがなきや」って手紙を送ったってのは当時としては驚くべき非常識で、煬帝が激怒したのも当然、しかしあんな辺境の島国に派兵することもないっていうんで事なきを得ただけだけど、安倍首相も習近平国家主席に対しそうやって威張りたいんじゃないのかな。

ついでに言うと、韓流ドラマの日本語版では「王様」って呼び方がどうも不自然。日本語なら「陛下」でしょう。しかし、皇帝と、皇帝の息子や冊封さくほう体制下の国々の君主である王は格が違って、前者には「陛下」、後者には「殿下」と呼びかける。ところが、日本のマス・メディアでは「陛下」以外は「様」と呼ぶようになってきてるから、「王様」っていう奇妙な呼びかけが生まれたんじゃないか。ともあれ、朝鮮の王はつねに中国の皇帝に気を使ってきたのに対し、日本は島国だから皇帝と対等な天皇とかいって自慢してられたんだよね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

ゴミ、捨てんなよ!

Copyright © KIRAKUSHA, Inc. ALL rights reserved.