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田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

ビルド・バック・ベターから、多文化主義への反動、トランプ大統領の就任、ベーシック・インカムまで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

2017年4月から解体が始まる東京・銀座のソニービル6階で、5か月の期間限定で営業している『本屋 EDIT TOKYO』。ほぼ毎日、作家や編集者によるトークライブを開催しているなか、田中氏と浅田氏が急遽、『憂国呆談ライブ』として出演。揺れ動く世界を読み解くための新たなヒントを示した。

浅田

今回は『本屋 EDIT TOKYO』にお邪魔しての対談だけど、東京という都市を統一的にPLAN(計画)するんじゃなく、雑誌のようにEDIT(編集)するって発想はおもしろいね。例えば商店街でも、新旧様々な店がどういう並びで入り、どういう雰囲気をつくるかが勝負なんで、それはプランニングよりエディティングの問題なんじゃないか。

もちろんプランニングも大事だよ。都市博中止からオリンピックにいたる東京湾岸開発のゴタゴタにせよ、それと関連する築地市場の豊洲への移転計画にせよ、あまりにずさんすぎる。

身近な町のエディティングでは、古い町家をアーティストが使うといった新しい試みが出てきてるけど、都市全体のプランニングのほうは行き詰まりを感じるね。東京に関しては小池百合子都知事のお手並み拝見ってとこだけど。

田中

昨年12月23日の誕生日を控えた20日の会見で今上きんじょう天皇が「ビルド・バック・ベター」という言葉を使われた。「飯田市では、昭和22年の大火で、市の中心部のほぼ3分の2が焼失しています。その復興にあたり、延焼を防ぐよう区画整理をし、広い防火帯道路をつくり、その道路には復興のシンボルとして当時の中学生がリンゴの木を植えた話を聞きました。昭和20年代という戦後間もないその時期に、災害復興を機に前よりさらに良いものをつくるという、近年で言う『ビルド・バック・ベター』がすでに実行されていたことを知りました」と。奇しくも22日に新潟県の糸魚川市が大火に見舞われる直前の発言だ。

11月に伊那谷の飯田市を私的旅行で訪れる前に天皇・皇后両陛下は、隣接する阿智村の満蒙開拓平和記念館にも足を運ばれている。全国で最も多くの人々を満蒙開拓に送り出したと県史に誇らしげに記す長野県は、その半数の人々が故郷の信州に戻ることなく生涯を終える運命となった。そうして満蒙の地で生まれ育ち、肉親と死別・生別して中国に残留を余儀なくされ、艱難辛苦かんなんしんくを乗り越えて縁戚が暮らす郷里へと戻り住んだ、日本語の読み書きも不自由で高齢な人々は、収入も満足に得られぬ生活が続く。「国策」で人生を翻弄された高齢の方々に県として慰藉いしゃするのは当然だと僕は考えて、公平性を欠くと厚生労働省が難色を示すのを押し切って、金銭的に支援する「中国帰国者愛心使者事業」を独自に進めた。

話が少しれてしまったけれど、“考える葦”たる人間は過ちを繰り返しながらも少しずつ前に進むべきで、それがビルド・バック・ベターでもあるんだね。国事行為を軽減させれば何も問題ないと、皇室典範の改正はおろか、生前退位にすら反対する面々は、お二人が私的行為として長年にわたって地道に行ってこられた、富国強兵の歴史の中で人生を翻弄され、傷ついた者、見捨てられた者と真摯に向き合う愛情を、爪の垢を煎じて飲むべきだと思うよ。

浅田

世界中で過激な建物をつくってる建築家のレム・コールハースから、東京でおもしろい都市計画があるかって聞かれたんで、昭和・平成と2代つづく生物学者・天皇陛下が進めてる皇居の森を自然に返すプロジェクトを挙げた。もともと江戸城があり、御三家なんかの屋敷や庭園があって、一部は明治以降にゴルフ場になったりもしたようだけど、そこに手を入れることをやめ、雑木林に戻したわけね。その結果、東京という大都市の真ん中に、驚くべき生物多様性をもつ森が生まれた。それが今、東京駅から晴海を経て東京湾に抜ける風の道の要にもなってる。都市計画家からはそういう大胆なプランが出てこないなあ。

田中

リバウンドを伴う一過性のイヴェント志向なベイエリア開発に象徴されるプランニングとは対照的なのが、東京の真ん中に存在する皇居というステイブルな空間かも知れない。この問題はレトロフィットという概念も含めて、改めて話そう。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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