ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

日ロ首脳会談から、パール・ハーバー訪問、カジノIR法案、天皇の生前退位まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

2017年最初の憂国呆談は、東京・北青山の「TRUNK(HOTEL)開業準備室」で行われた。「80年代、ここはディスコの『キング&クイーン』だったよ」と懐かしむ田中氏と、「今はずいぶんソーシャルになって」と浅田氏。日ロ首脳会談の話題を皮切りに、アメリカのこと、天皇のこと、日本の未来と、世界の行く末を占った。

浅田

昨年の12月15日に安倍晋三首相が選挙区の山口県でウラジーミル・プーチン大統領と日ロ首脳会談を行った。バラク・オバマ米大統領との真珠湾訪問とあわせ、外交で点を稼いで1月に衆議院解散・総選挙に持ち込むつもりかとも言われたけど、蓋を開けてみれば、ロシア側からの譲歩はなし。大統領就任時に1956年日ソ共同宣言での2島引き渡しを認めていたプーチンが、その後「現状は第2次世界大戦の結果であって変更しがたい」って立場に変わった、その前の出発点に戻ることすらできず、4島での共同の経済活動っていう曖昧な妥協がすべて。

田中

翌日に東京へ河岸を変えて行われた会談でも、北方領土の返還や平和条約の締結に関しては道筋すら示されず、文京区の講道館で柔道の試合を見終えるとプーチンはモスクワへ帰ってしまった。

「国民の大半がガッカリしていることを我々は心に刻む必要がある」と述べた自民党の二階俊博幹事長が、「経済問題も大事だが、人間は経済だけで生きているわけではない」と付け加えたのは象徴的。外務省に代わって経済産業省が主導権を握った経緯も踏まえると、「解決の見通しがつくかのような報道が続いた。国民はこれで北方領土問題が解決すると思ったかもしれないけど、何の進展もなくこのまま終わるなら、いったいあの前触れは何だったのかということを、日本の外務省当局は主張しなければならない」との発言も深いよね。

浅田

ドナルド・トランプが米大統領になるのを予想できなかったのは仕方ないにせよ、クリミア問題なんかで欧米から経済制裁を課されたプーチンも「お友達」のトランプが対ロ強硬路線を変更するとなると日本と妥協する必要はなくなる、それがわかった段階で日本も戦略を転換し、過剰宣伝を止めるべきだった。希望的観測に頼って盛り上げるだけ盛り上げた挙げ句期待外れなんて、あまりに子どもじみてる。

田中

「四島を追うもの一島も得ず」と平沢勝栄が語ったのが自民党内で評判らしいけど、仮に共同で経済活動を行うとしても、鉄道改修工事といったシベリア大陸での取り組みに最初は集中したほうがwin-winの成果が見込めるし、その実績を踏まえて北方領土にも日本の技術と資金が必要でしょ、と持ち掛けるほうが戦略的だった。特別な仕組みの下で4島開発を、と日本側が説明した直後に、適用されるのはロシアの法律とダメ出しを食らった。

浅田

そう、それはロシアの主権と実効支配を認めることにほかならない。

田中

警察権・裁判権・徴税権のいずれもロシアが牛耳るのでは、一日千秋の思いだった旧島民も、投資する日本企業も二の足を踏んでしまうよね。なのに、毎日新聞や東京新聞は、4島返還への第一歩と称賛する社説を掲載。逆に、普段は政権寄りの産経新聞が4島での共同活動は危うい、と明確に主張していたのも象徴的だった。

浅田

同じ12月27日に安倍はハワイの真珠湾でオバマと並んで犠牲者を慰霊。オバマの広島訪問への答礼とも言えるけど、パフォーマンスとしては悪くない──と思ったら同行していた稲田朋美防衛相が帰国翌日に靖国神社に参拝して、せっかくの和解ムードをぶちこわす始末。

田中

防衛大臣としての立場よりも“トモちん”フリークの期待を優先するとは呆れてしまう。歴代首相で最初の真珠湾訪問と発表されたけど、実はサンフランシスコ講和条約受諾の帰路に吉田茂も立ち寄っているのが当時の読売新聞で報じられていた。現地の日本語新聞のハワイ報知が、お祖父ちゃんの岸信介も鳩山一郎も首相在任中に真珠湾の太平洋艦隊司令部を同様に訪れていたと伝えて、なあんだってことになった。訪問発表前に用意周到に調べておくのが役人の心得なのにね。

浅田

アリゾナ記念館を訪れるのは初めてだと苦し紛れのコメント(苦笑)。外務省はそういう先例にいちばんうるさいはずなんで、その頭ごしに官邸主導の思いつき外交をやってるつけかな。

田中

一般市民を大量虐殺した広島、長崎への原爆投下と真珠湾攻撃では次元が違うと日本では捉えがちだけど、アメリカでは未だに半数以上の国民が、戦争を終結する上で原爆投下は当然だったと考えているからね。ましてや、国際法が定める宣戦布告をせずに奇襲攻撃したのがパール・ハーバー。ワシントンの日本大使館員は前夜に中華料理店で書記官の送別会を開催して、宣戦布告書の提出が間に合わなかった。

浅田

それでアメリカへの宣戦布告が遅れたなら外務省の大失態だけど、誰も処分されてない。他方、実は軍の圧力で遅らせたんだとしたら、非難されても仕方ないよ。むろん軍艦や軍事施設への攻撃が主だから広島・長崎とはまるで次元が違うけど。

田中

真珠湾に続いて日本の首相は、アジアでの激戦の現場にも訪問すべきだ、という議論が早晩、起きるだろうね。国交正常化60周年で昨年1月にフィリピンを訪れた今上天皇きんじょうてんのうは年末の会見でも、先の大戦で110万人ものフィリピン国民が亡くなった点を踏まえ、「多くのフィリピン人、日本人の犠牲のうえに」両国の今日の友好関係が築かれたとフィリピン人、日本人の順番で語った。こうした目線での相手国への配慮は政治や経済のうえでも重要だ。

沖縄の基地問題も、20年越しで実現した北部訓練場の部分返還は歓迎すべきだけど、東京都よりも小さな面積の沖縄本島に、在日米軍施設の7割が依然として集中している冷厳な事実は認識しておかないと。

浅田

そんななか、米軍の輸送機オスプレイが空中給油中に事故を起こして名護市沖の浅瀬に墜落した。

田中

米軍の準機関紙として知られる星条旗新聞=スターズ&ストライプスもFOXテレビもBBCも「Osprey crashes off」と「墜落」を報じたのに、なんで日本の報道機関は揃いも揃って「不時着水」なんだ(苦笑)。オスプレイが有益か有害かの“神学論争”の前に、目の前の事実に「逆レッテル貼り」する自粛を自ら正さないと、独立国以前の植民地ニッポンだ。

浅田

ちなみに、米軍基地に反対する沖縄の市民を機動隊員が「土人」と呼び、鶴保庸介沖縄北方相が「差別と断定できない」と述べた件でも、政府はやはり差別用語と一義的に述べることは困難で大臣の訂正や謝罪は不要とする答弁書を閣議決定。いかにも土人の内閣らしいご立派な見識。

田中

実るほど頭を垂れる稲穂かな、という格言こそが日本の美徳なのにね。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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