ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

小池都知事の都政、オプジーボの価格、政府の働き方改革から、トランプ後の日本まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

昨年の11月18日、『日本文化デザインフォーラム』が主催する「INTER-DESIGN FORUM TOKYO 2016」に招かれた田中・浅田両氏。すでに控室での待ち時間から始まっていた対談は、ステージへと持ち越され、「憂国呆談ライヴ」となって、東京・西麻布の『SuperDeluxe』に集まった満員の聴衆を沸かせた。公開対談後に、世の中の動きを踏まえて両氏が加筆・修正したバージョンでお届けします!

浅田

小池百合子が東京都知事になって4か月が経った。築地から豊洲への市場移転問題と東京オリンピックの会場選びばかりが話題になってるけど、どっちも難航。一時的に豊洲に移転してる間に築地を全面改築するとか、オリンピックは返上するとか、そういうラディカルな決断はとてもできそうにないんで、結局、時間を費やしたわりに代わり映えのしない結論に落ち着きそう……。

田中

まったくね。「落とし所」だと旧来型の密室論議で終わっちゃう。新時代を築くサーヴァント・リーダーの首長は「着地点」という自分のヴィジョンを示して世に問い、賛同を得られたら実現に向けてガラス張りの工程表を出さないと。環境アセスメントをやり直さない場合は2017年夏に判断して冬には移転するが、やり直す場合は、さらに1年ほど先になると11月18日の会見でもったいぶっていたけど、それって早い話が「豊洲移転」を前提にした発言でしょ。

浅田

結局は何らかのかたちで安全宣言を出し、豊洲移転を強行するっていう、気持ちの悪い決着になりそうだね。まさに大山鳴動して鼠一匹。

田中

12月2日の会見で同様の指摘を受けた彼女は色をなして反論していたけど、人間、後ろめたい時ほどムキになるのが公理だから(苦笑)。我々だったら都民に向けて以下の提案をするけどね。カラオケ、交番と並んで今や世界用語の「TSUKIJI」です。国民1人当たりアメリカの3倍も魚介類を消費する日本版フィッシャーマンズ・ワーフとして東京五輪までに大改修すべく、3年間だけ豊洲への仮移転をお認めください。再移転後の豊洲「跡地」の使い道も示し、夏の都議選の際に都民投票を行いますとね。

なのに都庁の歴代幹部18人を懲戒処分する一方、歴代知事3人への公開査問は行わずに幕引き。これでは職員は萎縮してしまうよ。その一方で彼女が塾長の「希望の塾」の講師に公民権停止中で豊洲移転の“共同正犯”でもある猪瀬直樹が登壇。「東京の敵 闇に棲む者は光を当てることで力を失う」というブラックジョークな演題(爆笑)。しかも2人目の講師は竹中平蔵だよ。受講料5万円を払った参加者はご愁傷様だ。

上山信一を筆頭に11人もの「外人部隊」を、特別顧問と称して都政改革本部に「進駐軍」として乗り込ませた。はたして、吉と出るか凶と出るか。最初から都庁内に北風を吹かせるのは、得策じゃないのにね。世間では「官vs民」と不毛な二項対立で捉えがちだけど、官の一人ひとりは住宅ローンを抱え、子どもの教育に悩んでいる民でもある。

安定を求めて公務員試験を受けた心の片隅には、独居の高齢者やバギーのママも歩きやすいバリアフリーの歩道を増やしたいといった純粋な思いもあったはずなのに、前例を打破しようとすると、天下っている大先輩に累を及ぼすからと上司に言われ、いつの間にか思考が冷温停止状態に陥ってしまう。僕の知事時代の経験でも、そうした職員たちを普通の人間の体温に戻して目を覚ましてもらうのが、改革を行ううえでの重要な一歩。

それとね、彼女は『日経ビジネス』で、「民間でやらないことはやらない」と発言しているけど、これも大きな間違い。じゃあ、公教育はいったい誰が担当するの? 譲渡先の民間企業が採算性を理由に上水道事業から撤退したら誰が住民に供給するんだ? 一時期はノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われた宇沢弘文は生前、「社会的共通資本」を提唱した。大気や森林、土壌といった自然環境。道路や電力、交通機関といった社会基盤。そして教育や医療、金融、司法といった制度資本は、誰か特定の所有者や従事者や供給者のものではなく、みんなの共有財産で、それらがよりよく機能するために税金を投ずるのだと述べていた。

浅田

そう、民間でできることは民間でやればいいんで、できないことをやるために行政があるんだから。

僕らは東京オリンピックは返上すべきだって言い続けてきたけど、その意味ではプロの大会があるサッカーや野球まで入れてオリンピックを商業主義的に肥大化させるんじゃなく、アマチュア・スポーツの原点に戻り、徹底的にスリム化すべきだと思うね。一方で、ウィキリークスやパナマ文書のような暴露が進み、他方でアメリカも情報と金融による世界支配に軸足を移しつつあるいま、スポーツをめぐる裏金や脱税・節税の問題がどんどん明るみに出てきてるわけで、これまでのようなやり方はもう通用しない。東京オリンピック招致の際の電通の贈賄疑惑も含め、今後もいろんなことが出てくると思うよ。

田中

レジェンドとかレガシーって、成果を収めた後からお駄賃として付いてくるものなのに、実施前からそれが目的になるのは本末転倒。そんなに伝説や遺産が欲しいなら、間伐材で仮設席を皇居前広場に設け、開会式と閉会式を行う磯崎新の案を今からでも採用すべきだね。背後に拡がる旧・江戸城の堀や石垣、やぐら、松林が映し出される式典の映像は、世界中の人々に日本での五輪を強く印象づけるでしょ。

浅田

2025年に大阪で健康と長寿をテーマにした万博を開催しようとしてるけど、あれも頼むからやめてほしい(苦笑)。2008年オリンピック誘致のために夢洲ゆめしまを埋め立て、海底トンネルで地下鉄もすぐ通せるようになってるのに、オリンピックがこなかったんで現在に至るもほぼ空き地のまま。そこで起死回生の手段が万博、それにカジノを中心とするIR(統合型リゾート)ってわけ。1995年の都市博中止の後、オリンピックでベイエリア開発を再活性化させようとしてる東京の反対だね。しかし、そんな万博に人がくるのか? 阪神・淡路大震災後の復興の一環として、神戸でハイテク医療都市を目指す動きが続いてて、それだと外国からの医療ツアーも見込める。そういうのは、しかし、一過性の博覧会で騒ぐようなことじゃないよ。

田中

その関連で言えば、チョー高額なガン治療薬オプジーボの薬価が問題になっている。現在は2週間に1回の投与を1年続けると年間3500万円。高額療養費制度が適用されるので患者の支払額は最大でも約200万円。大半の患者は100万円程度。残りは健康保険事業者の負担。これでは健康保険制度が崩壊するから薬価を一気に半額にしますと喧伝されているけど、イギリスでは日本の約6分の1の価格だからね。製造販売は大阪の小野薬品工業なのにね。半額になっても依然として3倍も高い計算だ。

浅田

新薬の開発に巨額の投資が必要だとしても、製薬会社は薬価を恣意的に高く設定してるからね。

もっと根本的な次元でいえば、どんなに費用がかかっても健康な生活を取り戻せるならいいだろうけど、苦痛の多い延命だけじゃあんまり意味がない。本人がもうこの辺でいいだろうっていう場合は安楽死を容認すべきだと思うね。むろん、周りに迷惑をかけないように安楽死を選ぶ風潮が広がったとき、それができるかぎり長く生きたい人の権利を侵害することは絶対に避けるべきで、非常に難しい問題ではあると思うけど……。

田中

本当だね。お金のない人は周囲の迷惑だから逝ってよしと「空気読め」的な同調圧力の風潮は避けないと。他方で、もちろん医療過誤は論外だけど、どんなに高齢でも入院したら必ず回復して退院できるという本人や家族の思い込みも解消していかないと。200歳まで生きられるわけじゃないから、どこかで諦念を抱く必要はある。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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