ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

田中康夫と浅田 彰の憂国呆談2

築地移転のそもそも論から、もんじゅ廃炉、大隅良典さんの金言、北方4島返還交渉まで。 photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

東京・下北沢の京王井の頭線の高架下に現れた「下北沢ケージ」。「東京R不動産」で知られる『スピーク』と、『東京ピストル』が共同プロデュースする飲食店とイベントスペースで、田中・浅田両氏も興味深げにゲージに足を踏み入れた。隣にあるアジアン料理店『ロンヴァクァン』で対談は始まった。

浅田

「下北沢ケージ」は、京王井の頭線の高架下を有効活用したイヴェント・スペース。一種の解放区だけど、大きな鳥小屋みたいなケージだってとこが、逆におもしろい。

「あいちトリエンナーレ2016」で豊橋の水上ビルの一角を1階から4階の屋上まで鳥籠にしちゃったブラジル人ラウラ・リマの作品があったけど、ここも鳥を放てばおもしろそう。食事も提供するっていうから剥製じゃないとダメかもしれないけど。

田中

香港・九龍半島の旺角モンコック油麻地ヤウマティの金網を張ったミニ運動場や周囲の屋台を連想させるね。3年間の期間限定らしいけど、おもしろい取り組みだと思うよ。

浅田

ところで、食の安全っていえば、築地市場の豊洲移転問題は抜き差しならぬ隘路あいろに入りこんじゃったね(苦笑)。マスメディアでは盛り土がされてないことばかりが問題視されてるけど、地下空間を設けること自体は、万一汚染問題が起きた場合の管理を考えても耐震を考えてもおかしなことじゃない。問題は、盛り土をするから安全だと言いつつ、都が勝手に盛り土をやめ、しかもそれを隠してたこと。ひいては、大がかりな汚染対策が必要な場所への市場の移転を強行したことだよ。

田中

盛り土をしなかった地下空間を決めたのは誰だ、と形式知な責任追及ばかりが報じられているけど、議論すべきは空理空論ではない「そもそも論」であるべき。なぜ、よりによって1976年まで20年間も石炭を原料に、1日200万立方メートルもの都市ガスを製造していた豊洲ガス埠頭を移転先に選んだのかと多くの人々が暗黙知で感じているのにメディアは腰が重い。

美濃部亮吉知事の後を継いだ鈴木俊一知事は財政再建を行う中で、老朽化した築地市場を現在地で再整備する方針を打ち出し、93年に起工式を行っている。ところが総事業費2500億円の380億円が執行された段階で96年に突如、中断。代わって豊洲移転計画が浮上する。実はその前年に臨海副都心で開催予定だった世界都市博覧会を青島幸男知事が中止した。自転車操業の特別会計が回らなくなってしまうと、自分たちの責任問題だと焦った当時の都庁官僚が画策したのかな。

99年に就任した石原慎太郎知事は「海を愛する裕次郎の兄」として卓袱台ちゃぶだい返しをするかと期待されたのに、「狭い、古い、危ない」と築地を酷評し、2001年に移転ゴー・サインを出し、09年に新市場整備方針を決定する。都心の一等地の築地を売却すれば優に1兆円だからね。

浅田

青島は愉快犯的ではあったけど、都市博を中止したのは正しい。博覧会だのオリンピックだのを呼び水に湾岸開発を強行するって発想が間違ってるんだよ。大阪だって、オリンピックのために夢洲・舞洲を埋め立てたものの招致に失敗、今また25年に万博をやるなんて言い出してるんだからね。健康と長寿がテーマって、そんな万博、誰が見に行くかっての。

鈴木時代の築地再整備は、営業しながらの工事が難しいって問題があったんで、とりあえず豊洲の汚染対策をやり直したうえで一時的に市場を移転、その間に再整備した築地に戻るってのは一案。しかし、その後で豊洲をどうするか全くわかんない。結局、都は徹底的な汚染対策をしたと称して豊洲移転を強行するんだろうな。

田中

統合型リゾート(IR)整備推進法案を可決させて豊洲をカジノにと目論む向きもいるらしいけど、豊洲汚染は世界中に知れ渡ってしまったからね。

浅田

シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズみたいなゴージャスな施設と張り合えるはずもない。大阪もカジノを狙ってるようだけど、どだい無理な話だよ。

田中

沼地と廃棄物処理場だった場所でイサム・ノグチが設計した札幌のモエレ沼公園のような再生の仕方もあるかもしれない。いずれにせよ、380億円かけて進めていた築地の再整備をストップさせ、数ある臨海副都心の空き地の中から豊洲ガス埠頭に“黒羽の矢”を立てた文書を見つけ出し、一連の経緯を明らかにすべき。

浅田

そう、誰の責任でなぜこうなったかを明らかにしないと「無責任の体系」は打破できない。

そういえば、政府が高速増殖炉「もんじゅ」をとうとう廃炉にするって決めた。1兆円以上も注ぎ込んだのに、22年間で200日あまり稼働しただけ、廃炉にも3000億円はかかるって言われる。開いた口が塞がらない大失敗だよ。ところが政府は、依然としてフランスと組んで研究を続ける、実際にはまったくうまくいってないプルサーマルとあわせた核燃料サイクル計画も続行するって言ってる。核燃料サイクルが回らないとプルトニウムが積み上がるばかりで、核兵器に転用するんじゃないかって疑われるからね。事実、フクシマほどの大事故にもかかわらず日本が原子力発電に固執する背景に、「大国とは核大国であり、日本も潜在的な核兵器保有能力をもつべきだ」っていう思い込みがあるのは明らか。困ったもんだよ。

田中

核のごみの始末もできないまま、「高速炉開発の新たな道筋を描く」と世耕弘成経産大臣は高速炉開発会議を10月上旬に開催した。いやはや。

浅田

とにかく、「もんじゅ」を含む核燃料サイクル計画がどう見ても無理なのは明白なんだから、失敗は失敗と認め、ここでも誰の責任でなぜこうなったかを明らかにしないと。

田中 康夫

田中康夫 たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

浅田 彰 あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。

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