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OKI
トンコリのルーツを辿って、サハリンへ。 photographs : Shiko Watanabe  text : Norie Okabe

カラフト・アイヌの伝統弦楽器“トンコリ”の奏者、OKI率いるOKI DUB AINU BANDが4年ぶりのアルバムを完成。それは、鋭く重く、緊迫感にあふれた壮絶な音の洪水。トンコリの故郷=サハリンの地で得た衝撃が、誰にも真似できない境地の音楽を生み出した。
ここでは、『ソトコト』2010年9月号掲載インタビューのロングバージョンを掲載。さらには、特別にアルバム・タイトルトラック「サハリン ロック」のPV(監督は、ソトコト連載「中野スケートパーク計画」でもおなじみのFESN森田貴宏氏)をPodcastでお楽しみください!

サハリンは、すごくロックを感じる街。



photograph by Oki

ソトコト: 今年1月、アルバム制作中にトンコリの故郷サハリンを訪れたそうですね。サハリンは初めてですか?

OKI: 前に一度行ったことはあったけど、そのときは1日しかいられなくて。だから初めてのようなものですね。今回は10日間滞在したんですけど、すべてが衝撃的でした。緯度が高いから太陽が常に低くてね、昼間でも夕方4時くらいの光なんですよ。(右上の写真を見せて)これが正午に撮った写真。夕方にしか見えないでしょ? 正午でも影がこんなに長くて黒い。常に太陽がじりじり迫ってくる感じですね。雪の質なんかも北海道とはまったく違って、言ってみたらサンドスノー。これが痛いったらない(笑)。パウダースノーなんて可愛いもんじゃないんです。

サハリンって、近いわりに馴染みの薄い土地ですよね。

本当にそう。こんな近いところにヨーロッパがあったのか! って驚きますよ。おとぎの国のようなところでね、シャーマニックな雰囲気とムーミン谷のようなのどかな雰囲気が混在してる。通訳の人に聞いたんだけど、廃墟マニアにとって垂涎の地らしいですよ。廃墟が多いんです。第二次世界大戦前に建てられた日本の王子製紙の工場が未だ残っていますからね。
驚いたのは、その工場のボイラーを一部直して未だ使っているってこと。村がセントラルヒーティングらしくて、家々へ熱湯を供給するために、その廃墟のボイラーを稼動させてるとか。とにかく後片付けしない島なんですよ。その予算がないからだと思うけど、たとえばみんなが氷下魚釣りをしている川の底は沈没船だらけだったり、ソ連時代のモニュメントがあったり、鳥居だって残されていたりする。だから、街自体が博物館みたいなものです。本なんか読まなくても、そこを歩くだけで歴史を振り返らされる。
すごくロックを感じる街ですよ。俺はもうすでに気持ちの部分では、戸籍をサハリンに移してますからね(笑)。だから、今はサハリンがすごく身近に感じます。

音の波形には、民族名なんて書いていない。


photograph by Oki

『躁状態で終えた旅からの帰り、いままでトンコリ奏者として築き上げてきたものが音をたてて崩れていくのに気づく』と感想を持たれたそうですが、サハリンには、OKIさんをそうまでさせる何があったんですか?

トンコリが生まれた土地で、その楽器を弾き、そこで鳴る音を体感する。それこそがまず大事だってことに気づかされたんですよ。持っていたアイヌの知識をやっと自分の中にダウンロードできたというか、やっと『樺太が見えた』と感じたわけです。
だからこそ、それを一度もやってこなかったってことは、要するに軽んじていたんじゃないか、と。プロのトンコリ奏者としてやっている以上、サハリンのヴァイブスを自分の中に入れておくっていう作業は、もっと早くやっておくべきだったんじゃないか、なぜ今までしてこなかったのかと焦燥感に駆られたんですよね。今までの俺は、全部嘘で、全部インチキだったとまで思った。

そこまで打ちのめされたわけですか。

それはもう、トンコリを弾く理由が揺らぐくらいの衝撃でしたよ。で、いざ振り返ってみると、自分はここ数年どうやって現代の音楽と折り合いをつけるかってことばかり集中していたな、と。それでルーツと向き合う時間が減ってしまって、ルーツとの距離感が広まっていたのかもしれない。勉強不足、認識不足。脇が甘かったなと落ち込みました。だから、ある意味アイヌのルーツだとか、アイヌのアイデンティティとかっていうこだわりは完璧に捨てました。

それはまたなぜですか?

『自分はアイヌです』なんて言えないことを思い知ったんです。もしもアイヌと言うのなら、一人で山に入って、火打ち石と小刀一丁だけで熊を狩ってこいってことになる。そんなの現代人には無理ですよね。日本人だからって刀を振り回しているかといったら、そうじゃないのと一緒。時代が違うんです。だから、余計に昔の時代の人たちには頭が上がらない。
現代に生きるアイヌのコンプレックスっていうのは、日本人にもなれないし、昔にも戻れない、その居場所のなさ。今回の旅でそれを痛感したし、自分はもっともっとアイヌのことを勉強しなくちゃいけないと思い知らされた。だけど、それはあくまで自分のプライベートな行動だと思うんです。俺がどれだけアイヌのことを学んで、どれだけアイヌへの想いが強かろうが、音になったときにそこは関係なくなる。音の波形に、何々民族とか書いてないでしょ。

かねてからOKIさんがおっしゃってる『アイヌのプロじゃなく、プロのミュージシャンでありたい』ということですよね。

音のクオリティ云々の前に、アイヌだからいいってことになってしまいがちだけど、そこを間違えちゃいけない。そういう俺も最初は間違ってましたけどね、今は民族をエクスキューズにして創作してはいけないと思ってる。自分の土俵はあくまで音。今回の旅で、アイヌのアイデンティティを捨てたということは、その想いが一層強くなったってことです。だからこのアルバムは、ある意味戦いでしたよ。自分に焼きを入れながら特攻精神で作った。タフに磨き上げて、誰にも到達できないクリエーションができたと思う。

音がヒリヒリと鋭くて、終始、緊迫感があります。

例えるなら、錆びた難破船の尖った角。実際、俺よりトンコリが上手な人はいるんですよ。でも、『サハリン ロック』を作れる人はほかにいない。そういう自分のテリトリーが示せたと思いますね。

アイヌのメロディがレゲエだ! って。

前作はレゲエの要素が強かったですが、今回はジャズやブルースの曲が印象的です。

ブルースの曲、多いね。ハウリン・ウルフやアレサ・フランクリンを意識した曲もあるからね。

ニュー・ルーツ『FLOWER AND BONE』あたりは、OKIさんのレゲエ好き、ダブ好きな側面が濃厚に出た仕上がりですね。でも、レゲエといって一番衝撃的だったのはアイヌの曲をレゲエに置き換えた『TOPITARI』。

釧路の春採アイヌが昔歌っていた曲があって、あるときそのメロディをベースで弾いてみたら、レゲエのベースラインになることを発見したんですよ。アイヌのメロディがレゲエだ! と。おもしろいでしょ。

それは、まさしくレゲエを聴き込んでいないとわからないですよね。歌っているのは女性ですか?

女性も歌ってますけど、俺もめちゃくちゃ変な裏声で歌ってます。今回のアルバムで、女性のキーも歌えるようになったんですよ(笑)。あと、ドラムも叩けるようになった。実は前作からの4年間、ほとんど毎日ドラムを練習してたんです。うちのバンドのドラマー沼澤尚は、もう素晴らしいドラムを叩くでしょ。そこからインスピレーションもらって、家に帰ると、ジャズとかレゲエを大音響でかけながら練習する。それで曲を作るんです。正直言うと、ドラマーになりたいくらいドラムが好き(笑)。『KONKON』とかは、すごい変拍子だけど、あれは俺の中のレゲエのドラム、レゲエ・マナー。

確かにOKIさんの作品は、ドラムにとてもこだわってるのが伝わってきます。『サハリン ロック』の高速ビートは壮絶ですし。

あれはスライ・ダンバー(ジャマイカが世界に誇るリズムツイン“スライ&ロビー”のドラマー)が叩くステッパーのもっと早いリズムを意識したもの。ドラムは早いのに、ベースはめちゃくちゃ遅いっておもしろいでしょ。その辺は、俺のアフリカ音楽好きな部分が出てるかも。

俺もスザーノも楽器を改造してきた。

同じ打楽器の話で言うと、ブラジルのパンデイロ奏者マルコス・スザーノとの共演曲『TONKORI MONIMAHPO』がまた凄まじい。OKIさんのラップのようなトースティングのようなフロウ(歌い回し)も、すごく斬新。

あのフロウは俺が作ったものではなくて、オリジナルがあるんです。浅井タケさんというカラフトアイヌの人が語ったものなんですよ。スザーノが、俺のトンコリと、この歌を聴いてブラジルの『カンドンブレ』のリズムにハマルって言い出したんで、じゃあそれでいこう、と。もし自分がアイヌ音楽しか聴いてない人だったら、そううまくはいかないと思うんですよ。ブルースでもレゲエでもアフリカ音楽でも、いろんな曲を聴けば聴くだけ自分の音楽に盛り込める。どれだけ自分が音楽の引き出しを持っているか、そこは大事な部分ですよね。

ブラジルでの録音はいかがでしたか?

ものすごいミュージシャンたちと一緒に演奏して、頭を垂れて帰ってきました(笑)。あの人たちは本物ですよ。スザーノとは、すごく意気投合してね。トンコリもパンデイロも、普通に演奏するだけだと味気ない音しか出ないんです。言ってみれば、しょぼい音っていうか(笑)。じゃあ、そういう楽器をどうやってやりくりするかっていう姿勢が彼と俺は似ていたんですよね。俺は俺で、トンコリでデカい音を出せるように改良してきたし、スザーノはドラムみたいな音を出せる発明をした。その2人がセッションするってなると、楽しくて楽しくて時間も忘れて、いくらでもできちゃうんですよ。
俺にとって、ブラジルとかスペインとかはすごく居心地がいいですね。俺がどんな人種で、どんな部族だろうが、みんな平気で迎え入れてくれますからね。たとえばスペインだったら、ジプシーとスペイン人とナイジェリア人とアルジェリア人とセネガル人が集まったバンドとか、人種が入り混じったバンドが山ほどある。それで、そういうバンドがヒットチャートにあがってる土壌。それこそまさに音で勝負しているってことだと思いますね。

今まで、『みんなのために』なんて軽々しく言えなかったけど。

サハリンのフィールド録音『PORONAYSK -23゜』は、シララオイの浜辺で弾いたトンコリ一本の曲。乾いた音が、その場の空気感を伝えてくれてます。

気温はマイナス23度、雪が舞ってて、ものすごい風が吹いてる日でした。風防は持っていったんだけど、まったく役に立たなかった。だから風のゴォーッって音まで入っちゃってる(笑)。サハリン用の風防が必要でしたね。すごく短い曲なんだけど、実際あれ以上弾くのが無理なの。でも、そういうこと全部含めて、サハリンで録音した証。

このアルバムは、本当に隅々までOKIさんの“本気”を感じる作品でした。今このタイミングで、こういった作品ができたことの要因はどこにあると思いますか?

なにもかもがジャー・ガイダンス(神の導き)で、いろんなことが響き合った結果だと思いますね。旧友で写真家の伊藤健次が、一緒にサハリンに行こうと誘ってくれたり、誰かが背中を押してくれた部分はとても大きい。実は制作中、ものすごく嫌なことが続いて、これはもう中止するか? というシーンも何度かあったんです。サハリンに行く前も、行った後も、最後の最後まで、とにかく運が下がりっぱなしだった。だけど、そうなるとよけい燃える性質でね(笑)。いろんな困難が作品を強くした。今はそう思います。
それから、絶対妥協しちゃいけないって思ったのは、自分の作品を楽しみにしてくれてるファンがいてくれたから。いろいろプレッシャーがある中で、何を拠りどころにするかって考えたときに、家族やスタッフは勿論だけど、応援してくれるみんなの顔が浮かんだんですよね。どれだけ作業が苦しくても、みんなを思い浮かべるとやれそうな気がした。制作を始めた6か月前には何一つなかったものが、今こうやって形になって、みんなが見てる感じと俺の見てる感じが近くなった気がするんです。今まで軽々しく『みんなのために』なんて言葉が俺の口から出たことはないけれど、間違いなく言えるのは、このアルバムはみんなのために作りました。それを一番伝えたい。
『サハリン・ロック』は、いつも支えてくれるみんながいてくれたからこそできた作品だと思ってます。

photographs : Shiko Watanabe text : Norie Okabe

<収録トラック>

  • サハリン ロック / OKI DUB AINU BAND
  • ※これは音声のみの再生となります。
  •  ムービー付きのPVファイルは、下部よりダウンロードしてください。
[PVファイルのダウンロード]

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[プロフィール]

オキ●アサンカラ(旭川)アイヌの血を引く、カラフト・アイヌの伝統弦楽器「トンコリ」の奏者。アイヌの伝統を軸足に独自の音楽スタイルで作品を発表し、アイヌ音楽の魅力を国内外に広めてきたミュージシャン/プロデューサー。ソロ名義やOKI DUB AINU BANDなどで作品を多数発表している。
http://www.tonkori.com/

[インフォメーション]

CDスペック

OKI DUB AINU BAND
「SAKHALIN ROCK」
チカルスタジオ CKR-0116 2940円

ライブ

9月3日(金) 東京・渋谷CLUB QUATTRO
9月9日(木) 北海道・函館BLUE POINT
9月10日(金) 北海道・札幌JASMAC PLAZA ZANADU
9月11日(土) 北海道・阿寒湖アイヌコタン・オンネチセ
9月17日(金) 京都・四条通り柳馬場KYOTO MUSE
詳細は、オフィシャルHPまで。
http://www.tonkori.com/

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