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折形からインスピレーションを得て

美術家 村山華子

一度、デザインの道に進むも、人を巻き込むプロジェクトに興味をもち、現在、美術家としても活躍する村山さんのテーマは「コミュニケーション」。イスというパーソナルな空間が、相手のサルのパイナップルをつかむことから、楽しさを共有する体験へと変わる。ブックショップ『UTRECHT』代表の江口宏志さんが、このコミュニケーションがとれるイスが誕生するまでの経緯を伺った。

まさに人が作品になるというアート作品が原点

江口
村山さんは「コミュニケーション」を大切にされていますが、そうなった経緯を教えてください。
村山
私は最初、美大のデザイン科にいて、特に広告デザインに興味を持って勉強していたのですが、1年生のときに茨城県取手市と東京藝術大学が共同で企画する街を展覧会場にする「取手アートプロジェクト'99」に応募し、私の企画が選ばれました。自分自身や自転車をその場で着飾ることができるさまざまな素材を積んだ屋台をつくり、そこに立ち寄った人たちが変身して街へ帰っていくという、まさに人が作品になるという内容でした。
江口
そんな経緯があったから、豆本のプロジェクトが生まれたのですか。
村山
そうです。卒業制作で、豆本の図書館をつくりました。元々豆本が好きだったので、首から紐をかけて箱の中に自分でつくった豆本を並べた、移動図書館みたいなものをイベントなどで開いていたんです。人に見せると「販売しているの?」と、よく聞かれました。販売するのではなく、相手にも豆本をつくってもらって物々交換することにしました。そうしたら、郵送してまで交換してくれる人も現れて、思いのほかたくさん集まってきたんです。そこで、豆本をずらりと並べられる箱型の本棚をつくり、自転車の後ろに取り付けて、ひとまわり大きな、移動型の豆本図書館にしました。古い日本民家の軒先を1週間ほど借りて、展示しました。「昔の紙芝居屋さんみたい」と、子どもから大人まで、たくさんの方々が立ち寄ってくれました。その方々の意見を取り入れて、すぐに豆本をつくれるキットを置いたんです。そしたら、多くの大人が、けっこう時間をかけて豆本づくりに没頭して。さらに豆本が増えました。こんなふうに広がっていくんだと自分でも驚いた出来事でした。
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これが「豆本」。大人の指の爪ほどの大きさもない、こちらは最小のもの。原稿用紙の一字分が綴じられていて、一字ずつぺージをめくって読む。
江口
ユトレヒトが代官山にあったとき、いきなり「本屋がやりたいんです」と訪ねてきた人が、村山さんだったんですよね(笑)。
村山
アート系の雑誌編集者の方に豆本を売り込んでみたらと言われて。その後に文具メーカーのコクヨの方が豆本を見たのがきっかけで、罫線の代わりに24人のおしゃべりを文章としてつづった「Mousu Mousu(もうすもうす)」ノートをつくることになりました。私のブログにアクセスする人が増えたりして思ったよりもお客さんからの反応があり、今まで自分の作品を見せていたのに比べて、全国規模で見せることができるので、プロダクトの世界の面白さを感じました。
江口
どうして舞台美術と関わるようになったのですか。
村山
いきなりプロダクトの世界で独立するのは難しいと思って、特許庁の仕事をしながら、制作を進めていたのですが、ちょうど転機を迎えようとしていたとき、ダンスカンパニー「コンドルズ」を主宰する近藤良平さんから声をかけられたのがきっかけです。それから1年ほどして、さいたま芸術劇場が手がける親子で楽しめる昔話のダンスの企画で、舞台美術をやることになりました。初めての機会でしたが、スタッフの方々の協力を得てやりきることができました。

日本の舞台はなかなかお金が集まらない世界で、仕事として続くものではないと思ったので、合間をみてプロダクトの仕事がしたいと思っていました。でも、プロダクトのプレゼンに出かけようとすると、すぐに電話が鳴って舞台関連の仕事の話が舞い込むんです(笑)。昔話のダンスの企画の後も別の方から声をかけていただき、ダンスと一緒に流す映像をつくったり、衣装の仕事をしたりしました。そして2010年12月からは、ダンス作品のプロジェクト「踊りに行くぜ!!」Ⅱ(セカンド)で、ダンス作品の作・演出まで手がけることになってしまいました。
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村山さんの作業場には、舞台で活躍する予定の小道具が並ぶ。こちらはヤギの頭。どう使われるかは、舞台を見てのお楽しみ。詳しくは「踊りに行くぜ!!」のHPまで。

「華子」のネーミングも実はプロダクトの構造?

江口
今回のイスは、どうやって誕生したのですか?
村山
両親ともにインテリアデザイナーだったので、いつも家にはイスのポスターが貼ってあり、イスをはじめ、家具の話をすることが多い家庭でした。私の名前の「華」という字も、スコットランドの建築家・C.マッキントッシュのイスにある格子のようなデザインに字面が似ていたから、と聞かされたことがあります(笑)。父は職人のようなエンジニアのような気質があり、イスは個人の空間を仕切るものという意識が強くありました。

私は、イスというのは一人分の空間をデザインするためのものだと強く意識していたんです。ところがこのイスは、一人の空間のデザインを超え、仮に組み立てる途中で間違えて失敗しても、つくった時間のほうに価値があるイスだと思いました。うまく座れないイスになってしまったとしても、置いておけば「これつくったの?」と入り込んでいける、コミュニケーションツールになれるイスキットだと。だから、このキットがもたらしてくれる体験、また、その体験を共有することをもっと広げてみようと思い、制作を始めました。
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「無印良品のようにモノを売る会社が、『体験』を売るようになったというのは新しいこと」と語る村山さん。作品づくりでは、「楽しい体験を広げられるイス」というのは何だろう、と考えたとか。
江口
具体的にどんな感じで、イスづくりが行われたのですか。
村山
イスをとりまく出来事や、自分の体験、人との共有をイメージして、思いつく言葉をたくさん挙げました。形容詞+イス、動詞+イスとか。つながるイス、走るイス、ヤギが食べるイスから派生して動物の名前を考えてカメレオンとか、キリンとか挙げていると、サルと書いたときに「サル!」と思ったんですね。手と手をつなぐイメージがあるなと思って。ビジュアルとしても人が手をつないだりして楽しく伝わるイメージがほしい、頭でつながるよりは、実際に手と体をつかってつながることの方がしっくりくる、と分かってきました。恐らくダンスをやって、ダンスは一人ではできないことを学んだからかもしれません。

とにかくイスに触れて、二脚あったら一人一脚ずつ触れてみて、動かすということからイスの楽しさを共有できたらいいなと思いました。最後に残ったのが、走るイス、つながるイス、サルのイス。残った3つを、試しに合体させてみました。つながって走るサルのイス。離れていたイスがお互いワーッと走ってきて、ガチャンと2台がつながり、よろこんで走って行く、というイメージが、パッとに頭の中に描かれました。
江口
くっついたり、離れたり。人が触れてやっと完成するプロダクトにずっと興味があったんですね。
村山
そうですね。着ると自分を贈れるという、のし袋をデザインした「のしTシャツ」を以前つくったことがあります。これも服だけれど、人が着て初めて完成するもの。こういう発想は、舞台に近いものがありますね。
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今回の作品のプロットになった設計図。しっかりと日付までが記されていて、いつの段階で何を考えていたのかが整理されている。

ゴミ、捨てんなよ!

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