ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

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ブラジル・木質バイオマス発電所を訪ねて

ブラジルの小さな町の大きな森から

ユーカリやアカマツが茂る丘の合間にたつ発電所。

東京からブラジル、サンパウロまで飛行機で約24時間。そこから、最南端のリオ・グランデ・ド・スール州へ約1時間半かけて飛ぶ。そして州都ポルト・アレグレから車で6時間ほど南下して……やっと到着するピラティニ市には、「コブリッツ-ピラティニ・エネルジア-発電所」という施設がある。ソトコトは世界初のカーボンオフセットマガジンとして、2007年9月から定期購読者に年間365kg分の排出権を分配している。そして09年9月、女性誌『マリ・クレール』、週刊誌『AERA』と「3誌共同カーボンオフセット付き定期購読アライアンス」をスタートした。

コブリッツ発電所は、発電能力約6万5700MWhの小規模な火力発電プラントだ。ただし火力といっても燃やすのは重油などではなく、木質バイオマスの一種である廃材。バイオマスとは生物由来のエネルギーや資源のことで、カーボンニュートラルな再生可能エネルギー資源といわれている。燃焼時に排出するCO2は木が生長の過程で吸収したもの、つまりもとは大気中にあったものなので、放出されても地球上のCO2量はプラスマイナス・ゼロとされる。02年から稼働を開始したコブリッツの事業では、年間約17・3万トンのCO2削減が見込めるうえ、“地域の持続可能な発展”にもつながることから、06年にCDM事業No.228の国連認定を受けた。CDMとはクリーン開発メカニズムの略称。途上国で行われたある温暖化対策事業に対して、その事業で抑制されたCO2量を、先進国が排出権として購入して、京都議定書にある自国のCO2削減目標に加えることができるシステムだ。とはいえ、この説明ではイマイチよく分からない。それに、「持続可能な発展への貢献」というのもピンとこない。そこで、実際の現場に向かうことにした。

地域貢献に直結する排出権の購入

  • 枝打ちで落とされた廃材を運び込むトラック。
  • 廃材を粉砕して木くずにする。これが燃料になる。
  • 木くずは、ベルトコンベヤーを伝ってボイラー室へ。

ポルト・アレグレから約350キロ。どこまでも続く大平原、パンパの景色に「本当に発電所なんてあるの?」と疑い始めたころ、ユーカリやアカマツが茂る丘が見えてきた。ピラティニ市に入ったらしい。製材業が盛んな地域で、紙やチップの加工のために丘などに植林している。コブリッツで使うバイオマスは約1万7000ヘクタールの森林から出たもので、毎年、500ヘクタールで植林などが実施されているという。やがて丘の向こうに建物を発見。コブリッツ発電所に到着した。

木材を積み込んだトラックが、盛んに門を出入りしている。「いらなくなった木クズを運ぶ地元の製材業者です。その廃材が発電所の燃料です。できた電気の10%は所内で消費しますが、残りは送電を行う州電力公社に販売します」と所長のファビオ・ケベドさん。発電した電気は送電会社に送られ、配電会社を通し住民の元に届く。州内では石炭産業も活発で、石炭火力の発電所も多いとか。バイオマス発電が増えれば、その分、石炭による発電を抑えることにもつながる。「推定の排出権の発行量に対し、実際の発行率は95%。100%まで残り5%……達成の自信は十分にあります」CDMによる排出権の平均発行率は約78%。コブリッツの95%は十分高い。

ファビオさんに案内され、いよいよ中へ。ボイラー外部の階段を上る。辿り着いた踊り場から中を覗くことができた。真っ赤に燃える炎。この熱で廃材を燃やし、蒸気を発生させ発電を行っている。ボイラー内部の温度は900度。外にいても汗が出るほど暑い。

ピラティニの町と、世界の都市をつなぐプロジェクト

  • 電線を伝って、出来立てのグリーン電力が送られる。
  • ソトコトのカーボンオフセット証書を手に、笑顔のファビオ所長。

発電所を出て、ファビオさんと市内を巡ることにした。そこで、発電所をよく知る地元の業者に話を聞いた。「製材業者は木クズの処置に困り、よくその辺に放置していました。雨が降るとメタンガスが発生し、住民の悩みの種にもなっていました。コブリッツが廃材を使うことで問題は解消。また、捨てていた木材を買ってくれるので、僕らの収入もアップしました。発電所が州に代わって道の整備もしてくれたんですよ」とイヴァン・カルロス・ビザッティオさん。ちなみにメタンガスは、京都議定書が指定する温室効果ガスの一つで、CO2の21倍の濃度があるとされている。バイオマス発電を行うことで、CO2だけでなくメタンガスの発生も抑制していることになる。

続いて、地元のシクレディ銀行に勤めるマルセロ・メサ・ダ・シルバさん。「発電所の従業員はもちろん、その家族や取引先などを含め、100家族以上が発電所の恩恵を受けています。ここができてから、木材業者の活動も活発になり、地域が活性化しました。その結果、市の経済も良くなりました」

さらに発電所では、市内の歴史博物館や小学校にも寄付を行っている。「コブリッツ社は、もともと温暖化などに関心を持つ企業でした。このあたりは製材業が盛んで廃材も豊富。そこで、これを利用した発電所を造ろうとしたんです。しかし、発電だけでは採算が合わないことが判明。その時社長が目を付けたのが排出権だったんです。CDMに認定されれば利益が出ると分かり、開設。この事業を聞いた時、絶対に地元の役に立つとピンときました」とファビオさん。排出権の存在が市を発展に導いたと断言する。

ブラジルは、CDM事業数が世界で3番目に多い国。とはいえ、CO2削減規模の少ない小さな案件が多い。排出権の金融的価値や削減目標の数値ばかりが重視され、日本企業のほとんどが規模の大きい中国やインドの事業に流れてしまう傾向にある。ブラジルは注目されにくく、社会の発展も難しかった。さらに端っこにあるピラティニ市ならなおさらだ。しかし、だからこそ彼らにとって排出権は大きな意味を持つ。環境問題の解決を通じて、小さな都市と世界マーケットをつなぐパイプができるのだ。「排出権があったからこそ発電所ができ、社会の問題も解決、地域が活性化しました。おかげで僕も働けて、電気技術を地元の学校で教えたり、地域発展のためバイオディーゼルの勉強をするなど、僕自身も貢献できるようになりました。排出権はこれからもっと重要な存在になるでしょう。環境事業は、未来永劫続いていくものなんです」

発電所スタッフの皆さん。

ゴミ、捨てんなよ!

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