ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

sotokoto interview

着ぐるみを「地域づくり」のきっかけに。 桃色ウサヒの中の人/非主流地域振興研究者 佐藤恒平 Kohei Sato 藤沢カブ、山形県のほぼ中央の山あいに、ちょっと変わった地域おこしをしている町がある。その取材に出かけた先で、なよなよと現れたのは、頼りなさそうなウサギの着ぐるみ。それが、まさに地域おこしの主役「桃色ウサヒ」だ。着ぐるみを使った地域おこしを実証中の桃色ウサヒの中の人、佐藤恒平さんに話を聞いた。 photos : Hiroshi Ikeda text : Kaya Okada

みんなが意見を言いやすい環境を、着ぐるみでつくる。

「桃色ウサヒ」は、山形県・朝日町の公式キャラクターを目指すという設定をもつ、いわゆる“ゆるキャラ”の着ぐるみである。町の観光スポットや地域の人々の仕事、暮らしを取材して紹介するコンテンツ「桃色ウサヒのあさひまち探検」を町役場のホームページに掲載するほか、イベントやテレビ出演などで町のPRを行っている。しかし、ほかのゆるキャラと違うところは、この取り組みが“ウサヒの中の人”佐藤恒平さんが考えた仮説理論に基づいていること。人間同士だったら角が立ってしまうことでも、着ぐるみを登場させることで緩衝材となり、「地域おこしがしやすい地域づくり」ができるのではないかという仮説の検証、実証でもあるのだ。10月初旬、地域のイベント「和合リンゴ祭り」に桃色ウサヒが登場すると聞き、現場を訪ねた。
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「和合リンゴ祭り」に桃色ウサヒ登場。

桃色ウサヒが現れると、子どもも大人も、町長までもが笑顔で話しかけ、町の人から愛されているのがわかりました。「佐藤さん、お久しぶり」と話しかけてくる人もいましたね。ウサヒの中が誰なのかは周知の事実なのですね。

そうなんです。僕は朝日町の情報交流推進員という立場で“ウサヒの中の人”となり、町のPRをしています。ホームページで町の施設や人たちを取材するときも、基本はウサヒの頭を脱いで「(その取材記事が)どうやったらおもしろくなるか」の話をする。その時間のほうが長いから、ウサヒの中が誰なのか、みんな知っています。ホームページ上では、あくまでウサヒが町を取材しているように見せていますが、実は取材されている側がディレクターなのです。

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自称“桃色ウサヒのファン1号”の鈴木浩幸町長と。

ウサヒを動かしているのは町の人?

「僕が中にいてウサヒを動かすから、みなさんはウサヒをどうやって動かせばおもしろくなるかを考えてください」と言って、演出を町の人たちにしてもらう。すると、あそこで写真を撮ろうとか、あの人にも話を聞こうとか、この辺りでウサヒが転んだらおもしろいとか、どんどん案が出てきます。

今回のイベントでも、突然“ミニウサヒ”が登場しました。

あれはその場に居合わせた小学生たちによる「カツヒロくんが、ウサヒの頭を被ると似合う」という提案によるもの。ウサヒに対する要望はなるべく聞いて、採用しています。採用された人は、さらに新しい意見やアイデアを考えてくれるんです。

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子どもたちの“プロデュース”で佐藤功啓君がミニウサヒに。

なるほど、自発的に町のことを考えるようになる。人間が同じことをやるのとは違う、着ぐるみだからこそできることがありますか?

たとえば、ウサヒには「いつの日か、朝日町の公式キャラクターになる野望をもつ」という設定があるので、町の人にも「あなたの野望はなんですか?」と聞くようにしています。すると、普段は恥ずかしくて言えないけれど、着ぐるみにだから言える思いがポロリと出てくることが多い。そういうのを集めて形にしていくのも僕の役割です。

今年6月に販売を開始した「空気神社」のおみやげ2種「一四四分の一 ミニチュア空気神社御守り」「空気神社のお願いプチプチ」も、朝日町にある、世界で唯一の“空気”をご神体にした空気神社のことをもっとよく知ってもらいたいという思いを集めて、形にした町の特産品。ほかにもジャンパーを作ったり、ポスターを作ったりという動きが各所で同時多発的に起きています。それってすごいことだと僕は思うんです。

そして、それこそ僕が目指している「地域おこしがしやすい地域づくり」です。“地域おこし”と“地域づくり”を僕は別々に定義していて、前者はアクションであり、後者は環境整備のことと捉えています。ウサヒは後者にあたり、多くの人が企画や意見を出しやすい土壌を整えていき、誰かが新しいことを始めるときに、とりあえず応援しようという風潮をつくるためのツールなんです。

特徴のない着ぐるみだからできること。

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空気に感謝しようと、1990年に建立された空気神社で。

地域おこしに興味をもったのは、幼少期に育った地元での体験がもとになっていると聞きました。

過疎化が進む人口2000~3000人の町で育ち、地域おこしがうまくいかない現状をたくさん見てきました。母親が町おこしのために建てられた“箱物”の施設で働いていて、イベントや企画などの進行役を任されたりしていて、ずいぶんがんばっていたのですが、どうもそのがんばりが報われていなかった。がんばっているのは一部の人だけで、それ以外の人は盛り上げようという気遣いもない。そこにずいぶん温度差を感じました。この時感じた「自分がどうにかできたのではないか」という思いが、今の僕の原点になっていると思います。

そしてたどり着いた答えが「着ぐるみ」だった。大学院2年生だった2008年、佐藤さんは朝日町役場に「着ぐるみを使った地域おこしをしませんか?」と提案します。どうして朝日町だったのですか?

「どこでも使える地域おこしのプラン」を考え、理論化したものを用意していたので、やらせてくれるところを探していました。とりあえず「あ」から順番にいこうと思って「朝日町」に声をかけました。学生時代に度々訪れてはいたのですが、本格的に研究でつき合うようになったのはこの時からです。

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空気神社の御守りとプチプチグッズ。今年から発売開始。

ピンクのウサギにしたのは?

この着ぐるみがいちばん安くて、特徴がないものだったから。一般的にゆるキャラって、地域の特産品や特徴をたくさん詰め込んでしまったがゆえに、独特な不完全さがあるキャラクターのことをいいますよね? ウサヒはそのまったく逆をいっているんです。地域の特性がひとつも表現されていなくて、なんの主張もない。

確かにどこにでもある着ぐるみです。

それを心配した町のおばあちゃんたちが、せめて町の特産品であるリンゴを持ったほうがいいとポシェットを作ってくれたり、Jリーグのピッチに立ったときも、カメラ映りを考慮して頭の後ろに町名を入れましょうとか提案してくれたり。ウサヒは個性が弱いので不安になってくるんですよ。こんなやつにPRさせたらタイヘンだと(笑)。結果、いろいろな人がアドバイスをしてくれ、みんなでウサヒをプロデュースすることができるんです。

奇跡じゃない確率で、どこにでも通じる地域おこしをする。

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人口約7500人の朝日町で、ウサヒが東奔西走中。

とはいえ、何も特徴づけないキャラクターを使った地域おこしは、ゆるキャラ界ではあり得ないことでした。

そうですね。でも、僕の仕事は人気のゆるキャラをつくることではなくて、着ぐるみをツールに地域を盛り上げることなんです。ウサヒはゆるキャラの中では異色すぎる無個性ですが、その無個性ゆえに、地域の人々と個性的な関係を生み出すことを達成しているんです。このように、現在主流の手法とは相反するメソッドで成果を出す地域振興を、僕は「非主流地域振興」と呼んでいます。主流でやっている活性化手法を見直して、違う方法でやったらどういう結果が出るのかを検証する地域振興の手法です。

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頭の後ろのネームタグとリンゴのポシェットは、あまりにも特徴のないウサヒを心配して、町の人たちが提案、ポシェットは作ってくれた。

主流を見直す地域振興?

きっかけとなったのは地域おこしの本に「奇跡の○○」と書いてある腰帯を見た時でした。これだけ全国で地域おこしが必要とされているのに、「奇跡」的な割合でしか町おこしが成功しない現状って、ちょっと危ないんじゃないかって思ったんです。例えば、奇跡的な成功事例の要素を抽出して再現しても、失敗する確率のほうが大きく、リスクが高いのではないかとか。完璧に作りこまれたご当地キャラクターでは、住民のアイデアが反映されにくいのではないのかとか。現在、主流に行われている活性化活動の中で見落とされがちな可能性を模索しています。

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旬を迎えた山形県・朝日町和合の『清野りんご園』に現れた桃色ウサヒ。小枠の写真内が、桃色ウサヒの中の人、佐藤恒平さん。「世界一」という品種のりんごをもらって一休み。

だから「非主流地域振興研究者」と名乗っている。

主流といわれている事例と違う地域振興の方法で、成功までのスキームが積み上げられ、理論立てされているもののみ実験し立証していく。そういう研究者になろうと決めました。現在の地域おこしの主流は、地方に若い人を入れたら波紋が広がって、結果的に良い成果が手に入るんじゃないかといったような、希望的観測の地域振興が多いように思われます。

大切なのはスタートとゴール地点を確認して、道筋を立てていくこと。道を誤らなければ、絶対にゴールへたどり着く。そういう地域おこしの手法を提案していきたいんです。

ありがたいことに、今年の「地域仕事づくりチャレンジ大賞」では、ウサヒの取り組みが多くの方から評価をいただき総合グランプリをいただきました。主流以外の地域振興の可能性を示した大きな成果だと思っています。

地域振興の決定的な答えはまだ出ていません。もしかしたら非主流地域振興の中に「適度に頑張れば」「必ずそこそこの成果が手に入る」、そんな答えが眠っているかもしれないんです。もし、主流の地域おこしでなかなか成果が出ないとき、コンサルティングされた方法にどこか違和感を覚えたとき、「非主流」の可能性があることを思い出していただけたら光栄です。

佐藤恒平 Kohei Sato

佐藤恒平 Kohei Sato
さとう・こうへい●1984年福島県出身。山形県・朝日町情報交流推進員、同観光協会理事。非主流地域振興研究者。高校で学んだデザインの力を「地域おこし」に活かすことを決意して東北芸術工科大学、同大学院へ進学。卒業後、約1年半のサラリーマン生活を経て2010年より現職。全国に通用する地域おこしのモデルづくりを探求。http://www.town.asahi.yamagata.jp

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