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「留職」プログラムで、社会を変えていく。 NPO法人クロスフィールズ代表理事 小沼大地 Daichi Konuma 企業から人材を新興国のNGOなどに派遣し、社会問題に取り組むことで、枠組みやシステムの中で消えかけていた、志を取り戻す。それが、留学ならぬ「留職」。会社に尽くす「仕事」を、自ら起業家精神に立った「志事(しごと)」へと変えるべく奮闘する、小沼大地さんに話を聞いた。 photos : Ikki Yamaguchi text : Miwa Homma

志の種に火をつけ、熱を企業内に伝播させたい。

初夏の光と風が入る、川沿いのオフィス。熱心に議論するグループ、大テーブルでパソコンやノートに向かう人々。いい空気が流れている。一角に、NPO法人クロスフィールズのメンバーが集まるスペースがあった。型にはまらない、違いや新しい刺激を面白いと思う、そんな小沼大地さん自身を象徴するかのような職場だ。

クロスフィールズが展開しているのは、企業の社員が新興国のNPOなどに赴き、本業のスキルを活かしながら、社会課題解決に挑む「留職」プログラム。そのミッションに「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ること」を掲げる小沼さんは30歳。どのような世界観を持ち、どのような社会を目指すのだろうか。
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オフィスの一角(写真下)で、スタッフと語らう小沼さん。「この空間の、クリエイティブでワクワクする感じが好きなんです」。

「留職」は、受け入れ団体に日本の技術やスキルを伝授し、現地社会に貢献します。日本の企業側にとってのメリットはなんでしょう。

まず、グローバル人材の育成です。派遣者は、自国・自社の常識が通じない環境で揉まれ、悩み、乗り越えることで、コミュニケーション能力やゼロから仕事を創る発想力、限られたリソースで工夫して前に進む実行力などを身につけます。また、現地で生活し肌感覚でつかんだ習慣や社会ニーズは新興国市場の開拓に役立ちます。そして、派遣者が、本業を通じて社会に貢献することの醍醐味を味わい、その熱を社内に還元することは、企業が原点や活力を取り戻す変化につながると信じています。

なぜ企業に、社会に貢献する原点回帰が必要だと?

留職は、実は個人的な、大学時代のラクロス部の仲間への想いが出発点なんです。創部10年くらいの若い組織を自分たちで運営していくのは、まるでベンチャー企業のようでした。しかし部を共に創り上げた豪快で面白いやつらが、就職ではこぞって大企業に入社して。2〜3年後、僕が青年海外協力隊から戻り再会すると、彼らの目の輝きは鈍って見えました。僕が熱く未来を語ると「まだそんなこと言ってるのかよ。とりあえず会社に入れ、現実が分かるから」と。

悔しかったです。仕事を通じて社会を良くしようと志を持って入社した社員が、やがて古い枠組みと細分化された業務のために、与えられた仕事をこなすだけになっていく。社員、企業、社会、いずれにとっても、もったいないことです。

日本の企業には可能性があると?

はい。日本企業の創立の理念なんて、震えがくるほどかっこいいものばかりです。しかも社会貢献の意識が必ず盛り込まれています。今、部長クラスの方でも「御社のミッションは?」と伺うと目の奥が光ります。「俺もそんな青臭いことを考えてた時期があったな」と。志の種火を持つ社員は若手だけでなく、実は多いと思います。きっかけがあれば、炎になり、その熱は伝播します。僕は留職を通じてそのお手伝いをしたいのです。

「逃げ切れない」世代と、「逃げ切った」世代。

NPO代表として連日会っているのが、ビジネス業界の第一線で活躍する人たち。NPOにはどこか草の根の市民代表というイメージのあったのか、新鮮に感じました。

今、企業ではBOP市場開拓や新興国進出の文脈で、NPOとの協働が普通に検討されています。NPOは枠組みを超え、企業が手を出せないニッチな分野に取り組める。そこで芽が出たものを、企業がスケール化、行政がサービス化する、そんな時代が来ています。

またこれからは、社会的価値を生む事業こそが経済的な価値を生み出していくのだと思います。複雑で多様な社会問題が山積するなかで、企業・行政・NPOそれぞれの領域のリーダーと共に「課題先進国」でなく「課題解決先進国」の日本を創っていきたいと考えています。

世代間のギャップは、その障壁にはなりませんか。

企業の中には変化を嫌う人もいますが、トップの人ほど社員のアントレプレナーシップ、そこから出るアイデアに期待していると感じます。

僕たち30代は、既存のレールの先に幸福はないと悟った、いわば「逃げ切れない世代」です。それに対し60〜70代は「逃げ切った世代」。世代間闘争といわれますが、経験もお金も時間もある彼らは敵ではなく、一緒にタッグを組む理想の相手だと思うのです。先日出演したテレビ番組で、批判の嵐を覚悟でこう話したら、意外にも企業の会長クラスの方々から「応援したい」というメールがたくさん届いて。ここに大きな可能性があると感じました。まだ種のようなアイデアでも、上の世代の力を借りられれば形にすることができる。顧問になって立ち上げに協力してもらうとか、名前を貸してもらい人につなげてもらうとか、マッチングさえできれば、面白くて価値のあるイノベーションが次々に生まれるはずです。

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左/青年海外協力隊時代に派遣された中東・シリア。小学校で環境教育プログラムを実施した。右上/留職の受け入れ先パートナーの一つ、女性の収入増加に取り組むカンボジアの国際協力NGO。右下/同NGOで手工芸品の売り上げ向上プロジェクトを行った企業の会議の様子。

NPOや社会起業家がますます活躍する社会になっていくのですね。

今は、革命家のような人物が大鉈おおなたを振るうのではなく、個々人が少しずつ変化を起こす時代だといわれます。アラブの革命に象徴されるように、SNSやインターネットを使って個人の想いが積みあがり、あるアイデアが応援され、集合体になっていく。NPOや社会起業家が力を発揮しやすい環境だと思います。

一つ面白いことが起こっています。今、留職の営業を行っているのは、僕よりも企業の社員なんです。例えば、僕の講演を聞いたある企業の若手社員が、「ぜひやりたい」と役員のブログに書き込みをしたところ、「じゃあ、飯でも」となり、そこで若手社員が留職プログラムを説明し、僕を招いた説明会をセッティングしてくれました。ただし、最終的に役員の心を動かしたのは、その場に集まった20〜30人の若手社員でした。いつも静かな若手がこれだけ興味を持つのだからと。個人の力の持つ可能性が広がっています。

既存の枠を超える原体験で、仕事は「志事」に。

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ベトナムで、調理器具の製作コスト削減に取り組んだパナソニック社員の留職活動風景。

今年の春、パナソニックが留職プログラムを実施しましたね。

ベトナムの現地NGOへ、入社10年目の社員1名を1か月間派遣しました。太陽光を利用した調理器具の製造コストを貧困層向けに削減するプロジェクトでしたが、この留職には自分たちが想像していた何倍も価値があったと知るような、発見の連続でした。大きな要因となったのは、派遣者の経験をより社内に還元できるものにと考えた担当者の方が、リモートチームの結成を提案してくれたことです。さまざまな専門知識を持つ若手社員4名と派遣者の計5名で、事前研修から一緒に行いました。また、若手の頑張りを社内に知ってもらうために、SNSのページをつくる提案も。これがすごかったです。派遣者が書き込む毎日の悩みに、チームのメンバーが時に他部署の担当者を連れてきてコメントし、盛り上がっていきました。ついにはベテランのエンジニアが加わりアドバイスをくれて、モノづくりへの志の高さにまた若手社員が感動して。小さな熱が社内でうねりになっていく過程を見ることができて、僕も本当に感動しました。

意外にも、若手社員が会社を見直すことになる効果があったわけですね。

それだけではありません。留職を終え、チームのメンバーが口を揃えて言ったのは「こんなに面白いやつが社内にいたなんて!」でした。留職経験者が会社を辞めてしまうという懸念が払拭された瞬間でした。仲間がいれば、辞めなくなる。これがMBA留学とは違う点です。今その仲間は、継続的に新規事業の提案に向けて活動を行っているそうです。「枠を超える」という原体験をいかに提供できるか。国境を越えるというのも、その一つです。あるいは、セクター、「営利」という概念。自分の中で「枠」になっているものを超える経験をできるだけ若い時期に持てれば、企業から熱が消えることはないでしょう。僕は、留職という原体験を通して、仕事を「会社に仕えること」から、自ら事業を創ったり、本業を通じて社会に貢献するという、働くことの原点に返った「志事」に変えていきたいのです。

決して楽な道ではないと思いますが、なんだか楽しそうに見えます。

はい、基本がポジティブな性格です。でも、他のNPO経営者や社会起業家も同じだと思いますが、さまざまな社会問題に「あれもこれも」と苦しくなってしまうこともあります。ただ、最近お会いした複数の会社役員の方から、偶然にも同じ言葉を聞きました。最澄の「一隅を照らす」です。今、自分に割り当てられた持ち場で精いっぱいやればいい。僕自身、その言葉に救われました。前を向いて、できることを一歩一歩、ですね。

小沼大地 Daichi Konuma

小沼大地 Daichi Konuma
こぬま・だいち●1982年生まれ。神奈川県出身。一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。大学時代はラクロスでU21日本代表に。就職前に2年間、青年海外協力隊でシリアに赴任するなど、独自の経歴を持つ。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、人材育成領域を担当。この頃から社会貢献意識の高い社会人のコミュニティ「Compass Point」を主宰する。2011年5月、NPO法人クロスフィールズを設立。企業の社員が新興国で社会問題解決に取り組む「留職」プログラムを推進している。

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