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sotokoto interview

サハラ砂漠をラクダで渡る、トゥアレグ族の塩キャラバン。4か月の密着の記録を、映画「Caravan to the Future」に。/ジャーナリスト・写真家 デコート・豊崎アリサ Alissa Descotes・Toyosaki/1000年も前からサハラ砂漠で交易を続ける遊牧民・トゥアレグ族による約3000キロの旅、「塩キャラバン」。ひとりの女性がラクダに乗り、その旅路に4か月間同行し、力強くも美しい彼らの営みを撮影した。それをまとめたドキュメンタリー映画「Caravan to the Future」では、トゥアレグ族と砂漠、ラクダの関係が浮き彫りになる。さあ、サハラ砂漠の旅へ! photographs by Alissa Descotes-Toyosaki & SOTOKOTO text by Kaya Okada

キャラバンは、輪であり、平和の象徴。

サハラ砂漠を渡る約3000キロの旅に同行するため、デコート・豊崎アリサさんが最初にしたのは3頭のラクダを購入すること。アフリカ・ニジェールのサハラ砂漠を旅して暮らすトゥアレグ族の塩キャラバンに密着したドキュメンタリー映画『Caravan to the Future』。アリサさん自身が監督・撮影したこの映画の冒頭はそんなエピソードから始まる。製作の背景や思いを聞いた。
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キャラバンに参加し、砂漠を旅する絶対条件。それは一人でラクダを乗りこなせること。そうでないと組織化されたキャラバンの隊列を崩してしまう。一度、動きだしたら、キャラバンは止まらない。

アリサさんは2回、キャラバンに同行された。2回目は4か月間。何に惹かれ、映像に残そうと?

映画にまとめた4か月のキャラバンに参加したのが2003年。初めはその5年前、40日間のキャラバンに同行しました。その前に観ていた砂漠のドキュメンタリー映像は、車で撮影され、どうして彼らがキャラバンに出るのか、買い求めた塩をどこで売るのか、誰が買うのか、その目的は何か、ほとんど何も描かれていないことに気づいたのです。

映画の中での長老の「キャラバンは輪である」という言葉が、すべてを物語っていますね。

キャラバンの役割は、ニジェールの南と北を結び、遊牧民と農民の文化をつなぐこと。彼らは自分の遊牧キャンプを出るときにドライトマトや玉ねぎなどの野菜をラクダに積み、砂漠を渡ってオアシスに着くと野菜を売って、岩塩やデーツ(ナツメヤシの実)を買う。今度はその岩塩やデーツを積み、南へ移動して売り、そのお金で遊牧キャンプのコミュニティ全員が食べられるだけのミレット(穀物)を買ってキャンプへと戻ります。だから塩キャラバンの本当の目的はミレットなのですが、彼らが横断していくことで、広大な砂漠をまたいだ土地の人や文化をつなぎます。

音も印象的でした。キャラバン中の男たちの甲高い叫び声など、砂漠にも音があふれているのですね。

その音を伝えたくて映像にしました。砂漠では日の出前から16時間歩き続けます。日中の気温は50度だけど、日が暮れると10度以下になり、寒くなるのですが、夜9時か10時まで進み続けます。そうしたいちばん疲れているとき、キャラバンの誰かが突然叫ぶんです。気合を入れるため、ものすごく力強く。それが聞こえると、隊列の前からも呼応するように叫び声が上がる。周囲は真っ暗なので、音だけの感覚しかない中で聞くと格別響きますし、オアシスに着く前に聞くと喜びがあふれてきます。朝は真っ暗な中、進み始めるとラクダが声高く鳴きます。1頭が10頭になり、30頭、100頭とどんどん増えていく。決して静かな朝ではないんです(笑)。あとは砂嵐の音も印象的。そして沈黙も。

物々交換に基づく、経済システム。

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上/アリサさんが参加したキャラバン隊は、ラクダ150頭、男性9人、少年14人、子羊1頭。ラクダはそれぞれ約100キロの荷を積み、長いときは1日16時間歩き続ける。下/旅の間に使う燃料の枯れ草を刈る。

そもそも、どうして塩キャラバンに興味を?

まずはサハラ砂漠との出合いがありました。1997年、モロッコでたまたま行ったサハラ砂漠で、神秘的な体験をしたんです。まるで私がこの土地の一部で、サハラ砂漠の魂とつながったかのような、言葉では説明ができない感覚でした。その体験をしたあとすぐに、当時暮らしていた東京の部屋を全部引き払いました。サハラで暮らせるとは思っていませんでしたが、どうしてもこの世界に入りたい、それしか頭にありませんでした。

映画のタイトルに込めた思いは?

塩キャラバンは交易としてやっているのですが、それだけでなく異なる地域の人や文化を結びつけています。アフリカでは部族同士の紛争が激化して、ニジェールを取り囲むマリ、リビアなどでも紛争が続いている。そんな中、4000キロ以上も離れたところに暮らす、異なる部族同士を結びつけている塩キャラバンもあって、それは平和のシンボルといっていい。でも、このまま放っておけば、塩キャラバンは続けられないかもしれません。

80年代に干魃が続いたとき、欧米系の開発プロジェクトの一環として、遊牧民の社会に車が入ったそうですね。そのときも「キャラバンはなくなるもしれない」といわれていたそうですが、なくならなかったのはなぜ?

車の場合、ガソリン代や修理代などの維持費がかかり、彼らの財産である家畜を売らなければいけなくなったのです。それに対して塩キャラバンだと、仕入れ値の10倍で売った岩塩の代金は、ガソリン代などの経費がかからないから、ほぼ100%彼らの利益となり、そのお金でミレットが買える。お金が介在しているとはいえ、物々交換に基づくシステムが今も続いているんです。とはいえ、若い人は携帯電話やバイクが欲しくて、現金が必要になってキャラバンをやめてしまう人が多いのも実情です。

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上/オアシスでの給水。中/オアシスの町で岩塩を売る女性。頭上のものが岩塩。下/さまざまな商品が集まるマーケット。

街へ行けば、仕事はある?

ありますが、それはテロ組織への勧誘だったりするんです。この地域で多いのはアルカイダ系。テロ組織からも給料が出るので、それが目的で入ってしまう。開発系のプロジェクトは遊牧民に定住化を勧めて、子どもたちに教育を受けさせようとしているのですが、トゥアレグ族に関していえば、それが正しいやり方だとは私は思えません。自分が親だったら、絶対に学校へ行かせたくない。

学校がよくない?

現地の状況が悪いのです。学校へ行き、街の暮らしに慣れても、まともな仕事がほとんどなく、不良になり、密売などに関わっていく。ニジェールは治安がいいのですが、砂漠を横断するテロ組織は危険です。また近年、サハラで金が見つかった。ゴールドラッシュです。多くの若者がらくだを売り、金を探しています。これは持続的な仕事にはなりません。若者がキャラバンを継がないと、この文化はすぐ消えてしまいます。

遊牧民の誇りを持ち続けてもらうために。

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左から、ボロロ族の男性。トゥアレグ族の男性。ハウサ族の男性。

アリサさんは塩キャラバンを続けられるよう、持続的な支援プロジェクトの立ち上げを検討中だとか?

ラクダで運ぶ商品の量を増やせば、もっとお金になる。稼いだお金をすべてミレットに使うのではなく、一部を給料にする。そのためにまず出資を募り、ラクダを寄付します。また、最初に商品を仕入れるためのお金は、返済の仕組みをつくって貸し出すという持続的なシステムを考えています。キャラバンから給料がもらえるということで、若者や少年たちが参加したいと思えるような仕組みをつくれたらと考えています。

出資はクラウドファンディングで?

はい。そうじゃないと間に合わないと思うので、まずは私がつながっているキャラバンの20人くらいを対象に小規模で始めて、1~2年してうまくいったら、国際組織などと一緒にやれるといいですね。ただ、遊牧民のエリアに入っている国際組織はほとんどないので、難しいかもしれませんが。

経済面の援助だけでなく、遊牧民としての誇りをもってもらうという意味では、この映画も一役買っています。

そうなんです。若者たちの間では、自分たちは「時代遅れ」の人間で、キャラバンをやっていることが恥ずかしいという思いが強い。でもそれは、すごくもったいないこと。彼らにとって「進んでいる国」から来た私たちが塩キャラバンに興味をもち、映画をつくることで、「自分たちの仕事はこんな価値がある」ということを思い出してもらいたい。実は昨年、10年ぶりに彼らと再会して、映画の上映会をやったんです。

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砂漠の旅は厳しいが、「すべてのつらさを忘れる美しさ」に出合える。キャラバンに参加している男たちは、家に帰り、4~5日後にはもうキャラバンに出たくなると語る。

砂漠に発電機やプロジェクターを持ち込んで?

はい、彼らにもわかるよう、ナレーションをタマシェク語に吹き替えて。トゥアレグの人たちは、とてもプライドが高くて、自分が写っている写真を見て「どうしてこれを撮ったのか?」と問いただしてくることもあるので少し不安でしたが、とても喜んでくれました。女性たちも、自分の親や兄弟、夫がどのように仕事をしているかを初めて観ることができました。キャラバンの持続的なプロジェクトを立ち上げたら、彼らが交易をしている地域の人たちにも観てもらいたい。彼らも、塩キャラバンがどれほどの苦労をして砂漠を横断してきたかを知れば、塩の価値とか、彼らに対する尊敬の気持ちが湧いてくると思うんです。そういう意味では、映像は素晴らしいツールです。映画があれば、彼らとは関係のない暮らしをしている街の人にだって伝えられます。ぜひ日本の人にも観てもらいたい。塩キャラバンのドキュメンタリーをつくりたいと最初に考えたときから、日本人に観せたいという思いが強かったんです。

それはどんな思いから?

東京で暮らしていたとき、私はものすごく疲れていました。東京というある種の“砂漠”で暮らす息苦しさ、寂しさも知っている。だから塩キャラバンを観て、こういう世界もあるよ、トゥアレグの人たちのような自由な生き方もあることを知ってほしいと思っています。

デコート・豊崎アリサ Alissa Descotes・Toyosaki

デコート・豊崎アリサ Alissa Descotes・Toyosaki
デコート・トヨサキ・アリサ●ジャーナリスト、写真家。アフリカの遊牧民族を支援する団体『サハラ・エリキ協会』主宰。父はフランス人、母は日本人。現在はニジェールのウラン鉱山の実態なども追う。今後の『Caravan to the Future』上映情報などは『サハラ・エリキ協会』のホームページで。http://sahara-eliki.org/JP
17年4月、東京での上映が決定。詳細はこちら
写真:石田昌隆

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