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1階づくりはまちづくり。プライベートとパブリックの交差点を、わくわくする場に!『グランドレベル』代表取締役社長 田中元子 Motoko Tanaka/「まち」の景色や居心地のよさをつくるのは、建物の1階と地面。そう気づき、1階づくり専門の会社『グランドレベル』を設立した田中元子さんは、「1階づくりはまちづくり」を合言葉に、まちを変えていこうとしている。田中さんが追求する、あるべきまちの姿、1階づくりとは? photographs by Masayoshi Kusunaga text by Sumika Hayakawa

「まち」の風景は、1階のあり方で大きく変わる。

あるまちの集合住宅の1階には、長年、まちの人に愛されていた喫茶店があった。しかしある日、その喫茶店は集合住宅ごと壊されてしまった。

数年後、新たに建てられたのは近代的なマンション。1階にはエントランスとお飾りのロビー、そして車数台分の駐車場。こうしてまたひとつ、まちの人々にとっての居場所がなくなった──。これまで、大西正紀さんと二人で『mosaki』というユニットを組み、「建築」を読み解き、その魅力などを発信してきた田中元子さんは、日本のグランドレベル(1階)の風景が加速度的につまらなく変化していくことに大きな危機感を抱いた。そして、行動を起こすべく、今年9月1日、株式会社の『グランドレベル』(以下GL)を設立。「1階づくりはまちづくり」を合言葉に、1階を変えることでまちを変えようとしている。ブランディング、プロジェクト企画、リノベーション、不動産など、その業務内容は多岐にわたる。大西さんとともに、田中さんにこれから目指すことを聞いた。
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上/田中さん(右)と、『グランドレベル』以前から活動を続けているユニット『mosaki』の大西正紀さん(左)。GLについても考えを共有する。中/会社設立の思いをまとめた小冊子。下/会社のロゴ。1階でまちが広がる様子をイメージ。

確かに1階の風景は、まちの雰囲気を大きく左右します。なぜそのことに気づき、行動を起こそうと思ったのですか。

田中元子(以下 田中): 昨年、私は趣味として楽しむと同時に、誰にでもすぐできるまちづくりの一環として、『パーソナル屋台』プロジェクトを始めました。自分のオリジナルの屋台、といっても自転車の荷台などで十分なのですが、屋台を携えてまちに出て、無料で何かを振る舞うんです。単なる慈善事業ではなく、屋台を出すことでまちに能動的に関わっていこう、自分が好きなものを提供することでまちの空気感が変わっていくことを体感しようという活動です。その活動でコーヒーを配っていたとき、普段、まちと呼ぶものは目の高さにある、建物の1階と地面のことを指すんだと気づきました。であれば、建物の1階はパブリックとプライベートの交差点。1階の窓をふさいで中を見えなくしたり、人気ひとけのない倉庫や駐車場にしたりすることは、パブリックとプライベートを断絶する行為といえます。日本にはそんな寂しく絶望的な風景があまりに多い。1階こそ、オーナーが個性を発揮しながらまちづくりに参加できる場所なのに、その可能性が知られていません。

パブリック、つまり公共と個性というのは相反するものにも思えます。

田中: いいえ、まちづくりの両輪です。たとえば、パーソナル屋台に共感し、自分でも実践してくれた人には、まちく人と一緒にゲームをしたり、路上に設置したこたつにみんなで入ったりなど、屋台のオーナーのアイデアや独創性が大いに発揮されるものが多くありました。そして、個性を強く打ち出しているほうが、楽しく、何度でも行きたくなり、人が集まってきます。たくさんの人が何度も訪れれば、そこはおのずと公共になる。行政がこれまで主導してきたこととはまったく違う手法で、公共はつくれます。1階づくりも規模は違いますが、同じことなんですよ。

1階づくりで追求したい、「能動的な暮らし」。

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『パブリックハウス』プロジェクトを進める常総市のまち。

GLではまず何を?

田中: 大きくは2つあります。ひとつは私の地元である茨城県常総市にある、昨年の豪雨で水没した家を再生する『パブリックハウス』プロジェクト。実はこの家のオーナーは私なんですが、まちのために個人の家ができることを1階の設備に取り込もうとしています。たとえば、中にはカウンターがあったり、広い空間があったり、何屋さんかわからないけれど何かの店らしくしていて。完成したら、まちの人に貸し出して、1階は好きに使ってもらいます。最初は私自身が何か事業をしようと思っていたんですが、GLが扱うなら、私が外のコンテンツを持ってくるのではなく、地元の人が「こんな家だったら何かできそう」と思える、能動性の背中を押せる物件にしたほうがいいと思ったんです。

先ほどから「能動」という言葉を強調されていますね。

田中: 1階からまちを変えたいという理念の根底には、パブリック屋台のときからずっと考えていた、「人が能動的に暮らすとはどういうことなのか追求したい」という思いがあります。みんな行政から与えられるばかりの、受動的な状態に飽きていますよね。だから、人が能動性を発揮できるステージをつくりたい。とくに、この地域は大きな観光資源もなく、過疎化が進んでいます。そんなまちに対して何ができるのかといえば、住んでいる人たちに能動的に楽しんでもらうことではないかと結論を出しました。

もうひとつのプロジェクトは?

田中: 東京都江東区にある空きビル1階のリノベーションと運営です。まちの特性を考えてランドリー・カフェを提案して、来年秋にオープン予定です。

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上/コペンハーゲンのブックカフェ。下/同市のベビーカー置き場兼ベンチ。1階に置くものでまちの見え方が変わる。

ランドリー・カフェとは、ランドリーが併設されているカフェのことですね。日本ではまだあまりなじみのない形態ですが、どうしてそうしようと?

田中: もともと私は、クリエイティブ・ユニット『mosaki』として共同設立者の大西正紀と一緒に活動しているのですが、以前、デンマーク・コペンハーゲンに“1階探訪”の旅に行ったときに、雰囲気のいいランドリー・カフェを見つけて感動したんです。

大西正紀(以下 大西): カフェとしても居心地がよくて、ランドリーを使うかどうかは自由。家事をいつもとは少しだけ違った形で楽しむことのできる、日常に自然に入り込んだ、まちの人にとっての憩いの場所になっていました。

田中: 江東区のそのエリアはマンションが乱立していて、マンションを買った人たちは、外でゆっくりくつろいだり、気軽な立ち話をする場所を探すのにも苦労しています。人口減少を迎えるなか、人が人に日常で出会えることや、人との距離がごく自然に、近くにあることが、まちづくりにおいては大事になると考たのです。

楽しいことは、全部1階でやればいい。

これからはどんな仕事を手がけていきたいですか?

田中: 1階をよりよくするためなら、規模も内容も関係なく関わりたいです。私はよく「軒先から都市計画まで」と言うのですが、縁側や路上に置く植木鉢の相談でも、エリア全体に関わるような案件でも。正直なところ、「こうしたい」「こうしなければ」という、はっきりとしたビジネスモデルはないんです。というより、相談ごとに新しいモデルを生み出さなければいけない。なぜなら、1階の可能性がまだ発掘されていない日本においては、既存のモデルではとても収めきれないから。相談者の思いや敷地の条件などから、その都度、最善策を見つけ出していくことになるでしょう。今はまず、「1階づくりはまちづくり」というフレーズを流行はやらせることができればいいなと思っています(笑)。

大西: 僕はその言葉を、すごい発明だと思いました。今まで何十年とまちづくりという言葉を聞いていて、それはたぶんこんな感じだろうとみんな漠然と考えていた。でも明確なビジュアルはなかなか共有されなかった。その点、「1階づくりはまちづくり」というフレーズはパッとイメージが湧きます。

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1階探訪の旅で訪れた台湾・台北市内の公園。ベンチには憩いの時が流れていた。

1階初心者の個人でもできる、よりよい1階づくりはありますか?

田中: 好きなことであれば何でもいいのですが、すすめるとしたら「マイ街灯」づくりですね。自治体が配置した照明だと、照らしてほしいところがなかなか照らされないから。街灯に限らず、公園でも公民館でも、行政がつくるものの大半は、超小規模なら個人でもできます。家の一室を寄合所として開放してもいいし、庭があれば公園にしてもいい。わざわざ何かをつくらなくても、活動の場所を1階に移してみるだけでもいいと思います。マンションの会議、仲間たちとのコミュニティルームづくりなど、動いていること、賑わっていること、楽しんでいることを外に見せる。パーソナル屋台をしたときに気づいたのは、参加者だけでなく、「何をしているんだろう?」と覗き込むだけだったり、関心のなさそうなふりをして通り過ぎていくだけの人もまた、まちをつくる大切な存在だということです。自分が関わっていなくても、活動を見て受け入れることが、パブリックとプライベート、外と内の境界線に、一元的ではない、豊かなグラデーションを与えている。見えていれば、排除された「外側」の人間にはならずにすむんです。

最後に、田中さんの考える「いい1階」とは何かを教えてください。

田中: いちばん難しい質問です(笑)。具体的なイメージやデザインとしてはありませんが、個人が能動的に、そして心から、「これをしたい」んだと感じられて、かつ多くの人が目にするまちの風景の一部なのだと自覚してつくられている1階が、いい1階だと思います。

田中元子 Motoko Tanaka

田中元子 Motoko Tanaka
たなか・もとこ(右)●1975年、茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年、大西正紀氏と共にクリエイティブ・ユニット『mosaki』を共同設立。建築やまち、都市などと一般の人々をつなぐことを探求し、国内外でメディアやプロジェクトづくり、イベントの企画などを行う。15年より「パーソナル屋台が世界を変える」を開始。16年9月、『グランドレベル』を株式会社として設立。

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