ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

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高校魅力化プロジェクトから、ソーシャルマネジメントカレッジまで。社会課題を解決する人材を育成。起業家・経営者 藤岡慎二 Shinji Fujioka/高校教育に力を入れると、地域全体が元気になる。そんな方程式を、「高校魅力化プロジェクト」で証明する藤岡慎二さん。島根県・海士町(あまちょう)の隠岐島前高校に始まり、全国の高校に拡大させつつ、今、新たに社会起業家を育成するカレッジの開講も準備している。社会起業家になるために必要なものは何か? 藤岡さんに尋ねた。 photographs by Hiroshi Ikeda text by Kentaro Matsui

社会人経験ゼロ、人脈ゼロで、起業スタート。

統廃合寸前にあるような地方の高校を舞台に、これからの日本が直面する社会課題や地域課題と生徒たちを向き合わせ、その解決法を考えさせることで、学力そのものの向上や、地域活性化につなげる「高校魅力化プロジェクト」を全国に広げてきたのが、藤岡慎二さんだ。そして、教育事業に始まり、今では地域活性化事業も展開する会社『Prima Pinguino』を起業した経営者であり、来年からは大学で、教員として研究をしながら教鞭も執る予定だ。

そもそも藤岡さんは、大学時代に塾講師のアルバイトに熱を入れ、卒業後も時間講師として中学生や高校生を教えていた。一方で、経営学や人材育成の研究をしようと入学した大学院では、大学生向けの起業家育成プログラムを考案。コミュニケーションやプレゼンテーション能力、創造力、問題発見と解決力、その中から、自分の軸を見つけるといった内容だった。そして、いよいよ大学院卒業を前に、自身の就職と向き合うとき、ある企業の面接官から「就職より、自分で起業したほうがいいのでは?」と勧められた。そんな言葉もきっかけに、また、大学院が起業を推していたこともあり、社会人経験ゼロ、人脈ゼロのまま、2006年、『Prima Pinguino』(当時はGGC)を起業したのだ。
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来春開講予定の社会起業家育成講座「ソーシャルマネジメントカレッジ」の第1回オープン講座で基調講演を行い、価値観の言語化をテーマにワークショップを開催した藤岡さん。

大学院修了後、いきなりの起業。仕事はありましたか?

最初はなかったのですが、大学受験を控えた高校生を対象にした推薦・AO入試向けのキャリア教育プログラムをコンテンツの柱にして、東京ビッグサイトで開催された教育をテーマにしたエキスポに出展したときのことです。プログラムに興味を持たれた教育関係者から『ベネッセコーポレーション』をご紹介いただき、仕事を受けることができました。プログラムをブラッシュアップして予備校に導入したり、ウェブ上で教える仕組みを構築したりしました。当時の売り上げの大半はその仕事で、とても順調なスタートを切ることができました。

その後、どのように事業展開を?

ベネッセの紹介で、秋田県能代市の能代高校で講演会が開かれ、私は講師として呼ばれましたが、そこで驚いたのは、県内では大きなまちであるはずの能代市の商店街が、典型的なシャッター通りだったことです。夕方、関係者と飲もうと繰り出したら、2~3軒の居酒屋のほかの店はすべて閉じていたのです。私は生まれも育ちも東京周辺で、それまで日本の地方都市の実情を意識して見たことはなかったので、その寂しい様子にショックを受けました。以来、教育を通じて地域を元気づけることはできないかと考えるようになったのです。

教育と地域活性化。隠岐島前高校の魅力化プロジェクト。

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上/島根県・海士町の『隠岐國学習センター』。中/やりたいことと地域のためにできることを模索する「夢ゼミ」。下/海士町の港。

その経験もあり、島根県・海士町にある隠岐島前高校の魅力化プロジェクトに参加されたのですね。

はい。魅力化プロジェクトに携わっていた岩本悠さんに声をかけられたのがきっかけです。キャリア教育を通じて地域活性化を担う高校生を育て、大学受験でも生徒の進路を実現し、実績を出すプログラムを実践してほしいと依頼され、2010年3月に海士町へ移住しました。

会社の社長でありながら移住されるとは相当な覚悟ですね。何が藤岡さんを海士町に駆り立てたのですか?

海士町の人口は50年間で約3分の1に減少し、隠岐島前高校の生徒数も年々減り続けていました。入学者数は30人程度となり、地域に1校しかない高校の存続が危ぶまれていました。高校がなくなると、中学生は卒業後、島外へ出ざるを得なくなります。15歳の子どもを一人で外に出すことはできないと、親も一緒に島を出ます。そうして島の人口が減り、医療や行政サービスも減っていくという負のスパイラルに陥ってしまうのです。つまり、地域を存続させるための“防波堤”を高校が担っていることに気づき、海士町で高校教育の革新に挑戦したいと思ったのです。

どんなプログラムを実践されたのでしょうか?

島の課題を見つけることから始めました。高校生にとってはこれまでにない新鮮な授業だったようで、島の課題を探り、その内容を仲間とディスカッションしながら考えを深めていくことで、自分の言葉で話せるようになっていきました。さらに、課題の調査やプレゼンテーションを行うとき、地域の大人に褒められたり、知恵をもらったり、鼓舞するような言葉をもらうなかで、地域の大人と対話できるようになっていったのです。それによって高校生は、「僕らはかっこいい大人に囲まれて生きていたんだ」と気づき、「島に生まれ育ったことを誇りに思う」とまで言い始めたのです。

とくに印象に残った高校生の研究はありますか?

畜産農家の息子の川本息生君は、島の主要産業である畜産の後継者不足問題に取り組みました。後継者が少ないのは畜産が儲からない仕事だからと、儲かる仕組みを3つ考えました。1つ目は、畜産家がネットワークをつくり、飼料を共同購入することでコストを下げる。2つ目は、牛にICタグをつけることで、牛の位置確認や体調管理を行い生産の安定性や省力化を図る。3つ目は、生産過程をネットで公開することで消費者の信頼や興味を高める。そんな、ICT(情報通信技術)を活用した「スマートファーム」を実現することで後継者不足を解決したいと、今は慶應義塾大学に進学し、インターネットの研究をしています。

魅力化プロジェクトがスタートして8年が経ちましたが、その効果は?

08年には90名を割っていた生徒数は、15年には約2倍に増えました。廃校寸前の高校が復活するのは全国的にも稀です。新入生の約半数が島外からの入学者で、子どもを持つ家族の移住を含め、島全体の人口も増えています。隠岐島前高校をモデルにして、今、全国の10の高校で自治体とともに魅力化プロジェクトを実施しています。

社会起業家を育てる。ソーシャルマネジメントカレッジを開講。

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上/長野県立白馬高校でも魅力化プロジェクト開始。中/沖縄県立久米島高校では40年ぶりに琉球大学に4名が進学。下/広島県立大崎海星高校の入学者数は17名から31名に。

教育事業をビジネスととらえ、順調に業績を伸ばしておられますね。

起業したての頃は、社会課題の解決でお金を稼ぐことに少しの抵抗感がありました。ただ、2年ほど前にグラミン銀行総裁でノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスさんに会ったとき、その話をしたら、「まったく問題ありません。どんどん売り上げを伸ばしてください。利益を独占するのではなく、社会に還元すればいいのです」と助言をいただき、勇気が湧きました。今、日本は1000兆円を超す多額の借金を抱えています。今後、社会課題解決のための助成金などは削減されていくでしょう。そんな経済状況だからこそ、経営スキルを持った社会起業家が求められるのです。そこで、ロマン(社会課題の解決)とソロバン(経営)を両立できる人材を育成しようと、「ソーシャルマネジメントカレッジ」(以下SMC)を開講することにしたのです。

受講生はどんな方が対象ですか?

社会起業家になりたい方、地方で仕事をつくっていきたい方、自分の夢を仕事にしたい方です。

SMCでの人材育成のために重要視されていることは何ですか?

価値観の言語化です。なぜかというと、社会起業家は世の中にまだまだ認められた存在ではなく、ビジネスとして成立させることも簡単ではありません。不安や迷いに負けそうになるときもあるでしょう。そんなとき、自分を支える強い軸が必要になります。その軸をつくり、確かな意志決定を下せるようになるために、価値観を言語化するのです。なぜ自分がそれをやるのか、どういうことなら魂を込められるか、自分の特性や思いを言語化し、それをベースに事業を組み立てていくのです。また、社会起業は共感と応援が頼りです。価値観を言語化することで、応援してくれる人に向け、自分が目指すことに共感を誘いながら説明することができます。余談ですが、僕の根本的な価値観をつくったのは母です。長男なのに「慎二」と付けられた名前には、「二番から一番を追い続けなさい、常に挑戦する人間になりなさい」という意味が込められています。子どもの頃から「挑戦して当たり前」の価値観のもとで育ちましたから、壁が高いほど挑戦心に火がつきます。ちなみに母は口だけではなく、60歳になってから添乗員に挑戦し、試験に合格。日本中を飛び回っています。

そんな挑戦者を育てるSMCですが、いつ開講されますか?

17年春、第1期を開講します。企業のCSR担当者や行政関係者、投資家などをメンターに迎えつつ、受講生みんなでディスカッションしながら学んでいく場をつくりたいと考えています。在学中の起業も視野に入れた授業を行いますので、われこそはと思う方はぜひ、挑戦してください。

藤岡慎二 Shinji Fujioka

藤岡慎二 Shinji Fujioka
ふじおか・しんじ●1975年東京都生まれ。『株式会社Prima Pinguino』代表取締役。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。島根県立隠岐島前高校魅力化プロジェクトをはじめ、行政・自治体と協働し、教育を通じた地域活性化に取り組んでいる。2017年より大学で教鞭を取り始める予定。同年春から「ソーシャルマネジメントカレッジ」を開講予定。

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