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エレガンスで自由、奇抜。暴力や嫉妬、争いとは無縁の紳士たち。「サプール」と、彼らを追う写真家。コンゴのおしゃれなジェントルマン サプール SAPEUR × 写真家 茶野邦雄 Kunio Chano/アフリカ中部、コンゴ共和国の首都・ブラザヴィルから6人の「サプール」がやってきた。彼らに惚れ込んだ写真家・茶野邦雄さんの奔走により来日が実現したのだ。服装も身のこなしもビシッとキメたこの伊達男(だておとこ)たちが携えてきたのは、「服が汚れるから戦わない」というシンプルで胸を打つメッセージ。サプールとはいったい何者なのか? photographs by Kunio Chano text by Kaya Okada

「服が汚れるからケンカはしない」。それが彼らの日常。

颯爽と目の前に現れたサプールたち。ハイブランドのスーツを着こなし、一挙手一投足が優雅で、誇りと威厳に満ちている。見得を切るような派手なステップが踏まれる。フランス語で「おしゃれで優雅な紳士協会」という意味をもつ彼ら「サプール」は、自国の大統領の前でパフォーマンスを行うほどの影響力をもつ、コンゴ共和国の“街の名士”たち。なぜ彼らは人を惹き付けるのか。3人のサプールとサプールに魅せられた写真家・茶野邦雄さんに話を聞いた。
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東京の『伊勢丹新宿店メンズ館』で行われたサプールのパフォーマンス。左側のカメラを構えているのが茶野邦雄さん。©SOTOKOTO

茶野さんの写真集では、サプールが人生を謳歌する様子が写し出されていますが、サプールとはどういう存在なのでしょう?

茶野邦雄(以下茶野): 結論から言うと“おもしろいおっさん”です。おしゃれをして人に「カッコいい」と言われるのが好き。それがベース。「サプール=平和の使者」と言われますが、それは後付けだと思うんです。サプールの精神に「非暴力」はあるけれど、彼らの本質は「カッコいい」と言われたいというところ。

そうした中から、「服が汚れるから暴力を振るわない」というメッセージが発信されていった?

茶野: そのメッセージも、最初はなんてカッコ悪いんだろうと僕は思ったの。ひねりがないなあって。でも、毎日一緒にいるうちに、彼らはそれを本気で言っていると気づいた。シンプルというよりもごく単純な、当たり前のこととして。

彼らが着ているのは高価なハイブランドですが、200着近く持っている人もいるとか?

茶野: 彼らの平均月収は3万円ほど。その中からローンで買っています。

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上・中/茶野さんと写真集『THE SAPEUR コンゴで出会った世界一おしゃれなジェントルマン』(オークラ出版刊)。茶野さんのインタビューは、本誌2016年10月号P.94~95でも掲載。下/茶野さんとセヴランさん。©SOTOKOTO

そのためにはしっかり働かないといけない。

茶野: そう。サプールになるためには、まず仕事をしなさいというのが、先輩サプールの教え。

やっぱり、先輩サプールは一目置かれた存在?

茶野: とくに大サプールと呼ばれるセヴランさんは尊敬されています。なぜならちゃんと「生活」しているから。コンクリートで建てた自分の家を持ち、子どもを大学に行かせ、家族を養っている。服もたくさん持っていて、フランス語も流暢に話せて、なによりサプールとしてキリッとしている。みんなそういうところを見ていますよね。

サプールの成り立ちにも諸説あるようですが。

茶野: フランスから戻ってきた社会活動家アンドレ・マツワがルーツという説が濃厚です。今から約90年前、民族衣装しかない時代、パリ仕立てのスーツを着てマツワが帰ってきたことで、ブラザヴィルの人たちは「なんだ、このかっこいいのは?」とファッションに目覚め、サプールが生まれたといわれています。

サプールとは、勇気を与えるものであり、チャレンジ精神そのもの。

みなさんはどのようにサプールになったのですか?

マロンガ・ジョベル(以下ジョベル): 父がサプールだったんだ。父はサプールが好き過ぎて今はパリにいるくらい。だから当然、自分もサプールになったよ。

イバラ・ルノー(以下ルノー): 僕はレスリー・カシャーレルというサプールに憧れて。彼はミュージシャンでサプールのパパ・ウェンバにも影響を与えたといわれているほど、洋服の魅力をみんなに教えてくれた人なんだ。

ムィエンゴ・セヴラン(以下セヴラン): 私も父がサプールだった。例えば毎日、太鼓を叩いている家族の間に生まれたら必然的にドラマーになるだろ? 私もブラザヴィルというサプール発祥の地に生まれたから、当然のようにサプールになったのさ。

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左/今回の来日では、24歳~61歳のサプールが、東京、宮城、福岡、沖縄、京都、大阪などを回った。左端がジョベルさんで最年少。右/『伊勢丹新宿店メンズ館』でのパフォーマンス。左端がセヴランさん。セヴランさんは、20年ほど前の内戦中に避難するとき、2~3日で戻れると信じて、庭に穴を掘って手持ちの服を埋めたが、戻ってきたのは1年近く後。穴の中の服はすべてダメになり、「争いからは何も生まれない」ことを実感した。右端がルノーさんで、職業はドライバー兼経営者。©SOTOKOTO

サプールは常に街の人から注目されています。サプールでいるために心がけていることは?

ルノー: 実は一昔前、サプールは不良と見られていたんだ。今は昔よりよくはなったけど、コンゴの中でもよく思わない人はまだいる。

セヴラン: だから、振る舞いには気を使っている。友達同士でも相手を怒らせないようていねいな言葉を使ってね。もちろん、おしゃれの技術も磨くよ。今着ているのは、デザイナーの山本寛斎さんがプレゼントしてくれた、大漁旗を使ったジャケット。これをどうやってカッコよく見せるか考えて、コンゴで同系色のパンツを探し、ハットにジャケットに負けない生地を貼り付けたんだよ。

ジョベル: 僕は組み合わせの研究かな。僕はサプールをスーツに限定したくないと思っているからルール外の装い、革ジャンやジーンズも取り入れたいと思っているんだ。

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ジョベルさん。ステッキ、パイプなどの小物を上手に使い、派手な音をたててステップを踏む。©SOTOKOTO

非暴力を信条とするサプールですが、世界ではテロや戦争、さまざまな争いや暴力が絶えません。みなさんはこの世界をどう見ていますか?

セヴラン: こういう不安定な状態っていうのは、若者に仕事がないことも大きいのではないかな。仕事さえしていれば、武器なんて持っている場合じゃない。他にやることがないから、銃を持たされて争いに参加してしまう。

ジョベル: サプールの発祥はコンゴだけど、サプールはコンゴ人だけのものではないんだよ。ヨーロッパや日本でも、やりたいと思っている人はやってほしいな。サプールとは、勇気を与えるものであり、チャレンジ精神そのもの。自分を発展させるものだから。

街中にサプールが溢れたら、これほど平和な社会はない。

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茶野さんがアレンジし、来日したサプールたち。茶野さんは日本での彼らの姿を撮影している。左/桜の木の下に立つセヴランさん。中/東京タワーで。右/街を歩けば、たくさんの人に囲まれる。

茶野さんは写真集を作るにあたり何度もコンゴへ足を運んだほか、2度に渡りサプールの来日を実現させました。そのモチベーションはなんでしょう?

茶野: 彼らのシンプルなメッセージを実践したら、世の中が平和になると錯覚しているの。僕自身もサプールのブティックでスーツを仕立てて、彼らのような格好をしていると、立ち居振る舞いが上品になるし、人に対しても親切になれることがわかった。普段、僕が暮らしている沖縄では、いつだって島草履に短パン、アロハシャツで「ファッション」は身近ではない。でも、このサプールの格好をして外を歩くとファッションの「力」が発揮されるのがよくわかる。

自分の中から出てくるものが、装いで違ってくる?

茶野: 全然違う。すごくいい人になろうとしている(笑)。こんな格好をしたら電車では絶対に座れないし、困っている人がいたら、すっと助けてあげられる。カッコ悪いとか、恥ずかしいとか全然思わずに。

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茶野さんがアレンジし、来日したサプールたち。茶野さんは日本での彼らの姿を撮影している。都心や街を歩く。彼らが好んで着るのは、ディオール、サンローラン、ダンヒル、プラダなどのほか、ケンゾー、ヨウジ・ヤマモトなど日本のブランドも。

ジョベルが「サプールはコンゴ人のものだけでなく、誰でもなれる」と言っていましたが、茶野さん自身がすでにサプールですね。

茶野: みんなこういう格好をしたらいいと思いますよ。人から見られたらいい。そうしたらカッコ悪いことができなくなるし、街中にサプールみたいな人が溢れたら、みんなが親切になりますよ。平和な社会は、かっこよさの中からも生まれるんです。

仕事だってがんばれそうです。

茶野: まじめに働くと誇りも生まれるでしょう。こうなると、オシャレを中心としたプラスの循環、スパイラルが生まれてきますよね。ただ「かっこよくしたい」と思うだけで。

サプールにとって平和や非暴力は後付けかもしれないけど、そのプラスのスパイラルに乗ったら、自然と出てくるものなのですね。ところで、クールにかっこいい面ばかり取り上げられることの多いサプールですが、茶野さんの写真集では、みんなすごくいい顔で笑っています。

茶野: サプールは笑っているのが似合うと僕は思っているんです。とはいえ、僕も本当はかっこいい写真を撮ろうとしていたんだけど、いざ撮り始めるとみんなゲラゲラ笑い始めちゃったの。(ページ上部で掲載の写真を指しながら)サプール、スタッフ、オーディエンス、このときの一体感はすごかった。この写真が僕のカメラマンとしての最高傑作。実はね、このバックに写っている市場はEUが支援したもの。崩壊しかけているEUに、この写真を見てもらって、もう一度結束しなおしなさいって言いに行こうかなと計画しているんだ(笑)。

サプール SAPEUR

サプール SAPEUR
さぷーる●フランス語で「おしゃれで優雅な紳士協会」という意味をもつ彼ら「サプール」は、自国の大統領の前でパフォーマンスを行うほどの影響力をもつ、コンゴ共和国の“街の名士”たち。

茶野邦雄 Kunio Chano

茶野邦雄 Kunio Chano
ちゃの・くにお●1959年、滋賀県生まれ。大学卒業と同時にフリーランスのカメラマンとして活動開始。1984年、当時最年少で日本広告写真協会(APA)の正会員に推挙される。1986年に渡米し、『NEW YORK YOMIURI PRESS』勤務。1991年より沖縄在住、広告写真とサプールの撮影をライフワークとしている。書籍版『THE SAPEUR -コンゴで出会った世界一おしゃれなジェントルマン』(オークラ出版)、Kindle版『平和をまとった紳士たち』が好評発売中。

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