ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

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地域に密着する、世界最先端のコミュニティFM局、『渋谷のラジオ』を総合プロデュース。コミュニティFM『渋谷のラジオ』 総合プロデューサー 平井真央 Mao Hirai/大規模な再開発が行われている東京・渋谷のJR渋谷駅近くに、小さなコミュニティFM局が開設された。その名も、『渋谷のラジオ』。聴くだけではない“出る”ラジオには、渋谷区民や在勤者が数多く出演する。地域密着のコミュニティ局を大都会・渋谷で開局し、続けていく意義を、『渋谷のラジオ』総合プロデューサーの平井真央さんが語る。 photographs by Ryo Ichii text by Kentaro Matsui

開局準備に2年間。毎週、朝8時からの“朝の定例会”。

電波監理を行う総務省によれば、全国にあるコミュニティ放送局は2016年4月1日現在で299局。その298番目に名を連ねるのが、4月1日に東京都渋谷区で開局した、主に渋谷区が聴取エリアの『渋谷のラジオ(通称・シブラジ)』だ。発起人は、クリエイティブディレクターの箭内やない道彦さん。友人である俳優で歌手の福山雅治さんと、渋谷区の商店会のKATSU佐藤さんの3人がファウンダーとなっている。地域の情報を届け、渋谷のコミュニティづくりの一翼を担うシブラジを運営するNPO法人『CQ』の副理事長であり、シブラジでは総合プロデューサーを務める平井真央さんに開局への思いを聞いた。
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オンエア中の渋谷のラジオ。スタジオはガラス張りなので、外の通りからも眺められる。

シブラジの発起人はクリエイティブディレクターであり、CQの理事長を務める箭内道彦さんです。箭内さんはなぜ、コミュニティFM局を開局されようと考えたのですか?

12年の春頃、箭内が突然、「ラジオ局をつくりたい」と口にしたのが始まりです。ラジオが好きなことはもちろん、東日本大震災後、地域に災害情報を届け、地域のコミュニティづくりを担うメディアとして力を発揮したコミュニティFMに着目し、自らラジオ局を立ち上げたいと構想しました。

なぜ、渋谷だったのですか?

箭内の故郷の福島県での開局も考えたのですが、すでに多くのコミュニティFM局があるので、第二の故郷と慕っている渋谷区で開局しようと決めました。渋谷区は、箭内が『博報堂』から独立後に初めて事務所を借りた思い入れのあるまちですし、表参道のイルミネーションのプロデュースをはじめ、まちの仕事にも多く携わっていましたから。渋谷に恩返しをしたいという思いもあったのです。

渋谷の商店会の方々とも一緒に立ち上げられたのですね?

はい。開局準備を始めた頃、1996年から2013年7月まで放送していた「SHIBUYA-FM(東京コミュニケーション放送)」が廃局し、放送免許を返納されたばかりだと知りました。渋谷からコミュニティFMがなくなったことを商店会の方々も残念に思われていて、もう一度復活させたいと考えておられました。その動きに合流させていただいたのです。毎週水曜、午前8時からの“朝の定例会”を2年間欠かさず行い、一から取り組んで開局に至りました。

プロボノが活躍!タクシー運転手も“出る”ラジオ。

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上/主に渋谷区で聴くことができる渋谷のラジオ(シブラジ)の周波数は87.6MHz。タイムテーブルはウェブサイトでチェック! https://shiburadi.com
下/前室に置かれたシブラジ・みつばち部の寄せ書き。

シブラジの運営には、ボランティアスタッフも大勢参加されているそうですね。

開局前にボランティアスタッフを募集したところ、10回開いた説明会が満席になりました。現在は約400名の方に登録いただいていますが、一般の方だけでなく、ラジオディレクターやアナウンサーなど放送業界の方が“プロボノ”として参加してくださっていることにも、本当に感謝しています。

どんな仕事を任されるのですか?

番組企画やPA(音響機材の操作)、パーソナリティなどプロボノ的な仕事から、タイムテーブルの送付作業やシブラジのポスターをまちなかの店舗に張らせていただくといった仕事までさまざまです。まだ着手できていませんが、渋谷区で開催されるイベントのレポーターや、まちの情報を発信する特派員もお願いしようと思っています。また、「読めるラジオ」という、生放送を聴けない方のために放送を文章に起こして配信する実験的な試みも渋谷区の企業と連携して進めていますが、その作業にも関わっていただければと。

若い人もたくさん活躍されているのですね。

大活躍です! スタジオの前室では、若いボランティアさんが上の年代の方とコミュニケーションを図りながら仕事をしています。年齢を超えて学び合いながら一つの番組をつくり上げていく様子を目にしていると、渋谷らしいダイバーシティを実感します。

裏方だけでなく、一般の方々が番組にも出演されていますね。

シブラジは“出る”ラジオをテーマにしていますから。すべての渋谷区民と渋谷在勤の方々に出演してもらおうという勢いでお声がけしています。出演を依頼すると、みなさん、「自分なんか無理、無理」と謙遜されますが、いざマイクの前に座るとご自身のご活動や渋谷のことを次から次へと話され、番組が終わると楽しそうに帰って行かれます。そうそう、4月1日の放送開始日に、「資材もお金も足りなくて、コピー用紙もないほどです」と、スタッフが放送中に口を滑らせてしまったのですが、それを聴いていたタクシーの運転手さんがスタジオにコピー用紙を持って来てくださったのです! あまりにうれしく、そのまま番組に出演していただきました。尋ねれば、「自分も個人タクシーとして独立したばかりで、モノとお金のない苦労がわかる」と話してくださって。そんな心温かい方々を紹介することも、長谷部健・渋谷区長が開局時におっしゃっていた「ローカルのスター化」だと感じました。

昔ながらの渋谷のコミュニティを、顕在化させる。

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シブラジの立ち上げ実務を一から引っ張ってきた平井さん。

番組編成はどのように行っているのですか?

火曜はNPO、木曜は商店会というように大きな枠組やテーマは箭内が決め、それを受けて曜日担当者が各番組を企画し、ゲストに出演を依頼してつくっていきます。基本的に台本はなく、オールフリートークで展開(笑)。ゲストの素の部分が垣間見られ、いっそう興味深い話が聴けますよ。

シブラジらしいユニークな番組は?

「ダイバーシティ、シブヤシティ。」というシブラジのコンセプトにストレートに合致する番組としては、日曜の「渋谷のサンデー 神二の愉快な仲間たち」があります。神宮前2丁目で『カラフルステーション』というアジアンダイニング兼シェアオフィスを運営されているLGBTのみなさんがパーソナリティを務めるパンチのある番組です。それから、渋谷の小学生が大人の悩みに答える「渋谷のチルドレン~おしえて君たち!~」も人気です。また、20年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、渋谷区はその“お膝元”といえる中心エリアになります。パラリンピックはオリンピックに比べると観客数が少なくなる傾向があるため、渋谷区で盛り上げようと、妹の平井理央がパラリンピックの選手にインタビューする「渋谷の体育会」という番組を土曜に設けています。パラリンピックのメインスタジアムを渋谷区民で埋め尽くそうと、理央自らが番組を企画し、選手にアポを取るなど力を入れて取り組んでいます。

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上/「渋谷コミュニティ&ソーシャル」がテーマの火曜の総合司会を務める嵯峨生馬さん。キャラクター「ラジ公」は寄藤文平さんのデザイン。下/市民ファウンダーの名前が書かれたプレートが並ぶ。

原宿、表参道、恵比寿など、渋谷はファッショナブルな若者や大人が行き交うまちとして全国、世界からも人が訪れます。一方で、地域コミュニティという面では、同じ東京の下町と比べると希薄なイメージがありますが?

渋谷駅前のスクランブル交差点が、見知らぬ人々がすれ違う“乾いた都会”の象徴として紹介されたりもしますが、実は、渋谷には昔ながらのコミュニティが息づいていることを、ラジオ開局の作業を進めるなかで強く実感しました。区内の約5000店舗が加入する渋谷区商店会連合会の方々も、「相談事があれば言いなよ」と声をかけてくださったり、人のつながりをつくってくださったり。そうした地域のコミュニケーションを、渋谷に遊びに来る若い人たちや観光客は体験する機会が少ないかもしれません。そこで、シブラジでは、渋谷にあるローカルなコミュニティを顕在化させようと、地元で活動するさまざまなコミュニティを積極的に紹介しています。「こんな人が渋谷に暮らしているんだ、働いているんだ」と、ラジオですからその姿は見えませんが、見えないからこそ想像することで心が広く、豊かになると思うのです。渋谷のコミュニティを“見える化”できればうれしいです。渋谷は世界に知られた観光地です。シブラジはさまざまな実験の場であり、コミュニティづくりの実験が成功すれば、世界につながる成果になります。「地域密着×世界最先端」の挑戦によって、「コミュニティづくりのロールモデル」となれるよう、ユニークな番組づくりを続けていきますので、みなさん、応援してください!

平井真央 Mao Hirai

平井真央 Mao Hirai
ひらい・まお●『風とロック』代表。慶應義塾大学卒業。2004年『博報堂』に入社、マーケティングに従事。雑誌局を経て11年に退社。独立後、多くの広告の企画・プロデュースを手がける。13年、妹・平井理央のマネジメントオフィス『dejaneiro』を設立、代表。16年4月に本放送を開始した『渋谷のラジオ』総合プロデューサーを務める。

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