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土の道を守りぬいた村の代表。 漫画家 エドワード・コリン Edward Koren たいていの場合、人は舗装された道のほうが便利だと思うかもしれない。しかし舗装道路を拒否し、土の道を選んだ村がある。アメリカ・バーモント州のブルックフィールド村では、
かつて道が舗装されようとした時、村人たちが団結して、工事を阻止した。なぜ土の道を選んだのか。先頭に立ち、村の「土の道」を今も守り続けている、漫画家エドワード・コリンさんに話を聞いた。 photos & text : Yasuo Ota

静かな村にやってきたブルドーザー。

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湖に浮かぶフローティングの橋は、村の誇りでもある。人々は湖畔で日光浴や釣りを楽しむ。

コリンさんはニューヨーク市で生まれ育っていますが、なぜバーモント州の人口約1500人の小さな村に移り住もうと思ったのですか。

旅行でここ、ブルックフィールドを訪れた時、1800年代のアメリカの伝統的な古い家々が、湖と山々に見事にマッチしている景色の素晴らしさに魅了されてしまったんです。それまでは、ニューヨークのビル街に住む中流の生活を漫画に描いていましたが、ブルックフィールドに越してからは、主に身の回りの自然や動物たち、そして自然の中で生活する人々を描いています。ここの暮らしは、ルリコマドリやカケス、キツツキなどの鳥の声で一日が始まります。家の近くにある湖には朝霧がかかるのですが、カヌーで湖面を漕いでいると、水面にビーバーが顔を出してこちらを見ていることもあります。庭には鹿やムースやアライグマがやってきます。村人は、自然の中での静かな生活に満足しています。

そんな穏やかな日常を踏み潰すように、ある日、ブルドーザーの騒音と共に村の道を舗装する話が持ち上がったのですね。

周辺地域の道が次々にアスファルトにされていました。私たちの村の中央を縦断する道を舗装するために、ブルドーザーが村の入り口近くまで来たので、村人は連絡をとりあい、各家庭の意見を持ち寄りました。1985年のことです。結果、「土の道を守ろう」ということになり、交通局に我々の村の道を舗装しないよう電話をかけました。しかし、幾度頼んでも取り合ってもらえなかった。「ブルドーザーの前に座り込んででも反対する」と訴えても、舗装道路を造りたい交通局はまったく相手にしてくれませんでした。

私たちは「村の環境保全」という観点から、州の歴史保存部に相談することにしました。この村の家々は1840年代に建てられたものが多く、土の道はそれら歴史的建築物と一体になったものであり、ヒストリカルビレッジとして保護してほしいという訴えを起こしたのです。ついに、歴史保存部が交通局に働きかけてくれて、舗装計画は撤回されました。隣町から続く舗装道路は、村に入ると土の道のまま延びて村を縦断し、村の終わりから舗装道路になって隣町に続いていきます。

なぜ村人たちは土の道を選んだのですか。舗装したら便利になるとは思いませんでしたか。

確かに、この地方は春になると、雪解け水によって道がぬかるみ、車は立ち往生、夏には土煙が舞ってホコリだらけ、冬には凍結してでこぼこ道になります。不便に見えるでしょうね。しかし、考えてみてください。舗装すれば車はスピードを出し、騒音や排気ガスをまき散らしますが、土の道はでこぼこで走りにくいために、車はスピードを落として進むしかない。舗装道路は車のためであって、人のための道ではないのです。また、土の道は村の風景と融和しています。子どもたちにこの風景を残したいために、私たちは反対を貫きました。小さな村に大きな道は必要ないのです。

土が与えてくれること。

世界中、どこの国の道も舗装されてきています。そもそも国の舗装化政策とは、どんな視点から始まったのでしょうか。

アメリカでは1960年代から地方の道も舗装され始めました。昔は家の周辺で働くことが多かったのですが、車で何マイルも離れた地域に働きに出るようになって、よりスムーズに早く着くよう道はどんどん広く、アスファルトの海になっていきました。

国や州は、ガイドラインに沿って規定どおりの道を造ります。道幅を広げ、同じサイズで土をアスファルトで固めてしまう。これが道造りのスタンダードになってしまったことに罪があります。村の個性は破壊されてしまうのです。そうやって、国のすべての地域に広げようとしてきた。小さな村の小道でさえも、規定どおりにしなければならない。大きな街にとって都合がよいことが、国中どこにでも必要なこととは限りません。美しい景観と安全性が、アスファルトと引き換えに失われているのです。

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馬を飼っている農家も多い。若者たちが馬車に乗り、山道を散歩する。のんびりした時間が過ぎていく。

道の舗装は国の政策の一つであり、それを拒否することで、開発から取り残されるという懸念はありませんでしたか。

この村にはガソリンスタンドもスーパーマーケットもありません。村人は20マイル(約32キロ)離れた隣町まで買い物に行くことになりますが、不便を感じたことはありません。労力以上に、私たちはもっと重要なものを得ていると思うからです。村の脇を走る高速道路から1本、舗装道路が村につながれば、車が爆音とともにハイスピードで押し寄せ、動物も子どもたちも命の危険にさらされ、静かな生活が破壊されることを我々は知っています。私たちは、夜にやってくる鹿を月明かりで眺め、冬にはクロスカントリーを楽しみ、深い雪に閉ざされた家の中で持つ一家団欒の時間を大切にしています。開発など必要ないのです。人間と動植物がともに暮らす生活を守りたいために、土の道を選んだのですから。

国は、小さな土の道を不便の象徴のように言いますが、私たちはそうは思いません。不便だからこそ得ているものに感謝しているほどです。国はスタンダードを押しつけ、道とはかくあるべきという発想。そこに想像力はありません。より早く多くのものを安全・確実に移動するためには舗装が不可欠だという。国の考える安全・確実な道路とは、技術がなくても運転ができるということです。アメリカ人は運転が下手なんですよ(笑)。国の発想には、街道沿いで生活する人々の視点がまったく抜け落ちています。

舗装道と土の道とでは、実際にどんな違いがあるのでしょうか。

私たちの村の道に、車道と歩道の境界線などありません。ここからは立ち入り禁止といった表示もありません。子どもたちは裸足で道を駆け回っていますよ。道端には季節の花が咲いて、妻はしょっちゅう摘んできます。特に春先に咲くメイフラワーという小さな花が好きなようで、バスケットに入れて持ち帰り、家に飾っています。私の友人は昨年の5月に足を怪我しましたが、土の道をのんびり散歩することで、足だけでなく心も癒されたと言っています。心を静め、平和な気持ちにさせてくれるのが土の道です。雨の道もいいもので、土の香りが漂って、とても穏やかで豊かな気持ちにさせてくれます。

歴史ではなく、今の暮らしを支える道。

バーモント州の舗装道路約6000マイル(約9600キロメートル)に対し、土の道は約8000マイル(約1万2800キロメートル)に及んでいます。土の道のほうが多いんですね。

(私たちの村と同様に)多くの人々が選択した結果です。バーモント州の人々にとって、早く目的地に着くことはさほど魅力的なことではないのです。また、メンテナンスにかかる費用が、舗装道路に比べて格段に安いことも理由の一つ。誰も無駄なものにお金をかけたくないでしょう。バーモント州の各市町村には、ロードコミッショナーと呼ばれるプロの道の修理人が最低1人はいます。道をならしたり、小石や砂で埋めたり、除雪まで行うのです。

ロードコミッショナーについてもう少し詳しく教えてください。舗装道路のメンテナンスのほうが費用がかかるとは驚きです。

舗装道路の修理は1人ではできません。専用の機械とアスファルト代は高額なうえに人件費もかかる。春先は昼夜の温度差が激しいため、舗装道路はひび割れたり、隆起してしまうので、頻繁に修理が必要になります。私たちの村の道は、1人のロードコミッショナーがすべて修理してくれています。ぬかるみもでこぼこも、よほどのことがない限り、翌朝までには直しています。ロードコミッショナーは村になくてはならない存在で、人々から非常に尊敬されています。

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バーモント州の橋は、深い雪から守るために屋根付きが多い。

映画『マジソン郡の橋』で有名になったカバードブリッジ(屋根付き橋)が、バーモント州にはたくさんあります。カバードブリッジに連なる道は、アスファルトより土の道のほうが絵になります。

土の道は、歴史の一部でもノスタルジーでもありません。私たちの現在の生活を支える重要な存在なのです。カバードブリッジを見にやってくる観光の方たちに、土の道のよさが伝われば嬉しいです。バーモント州に来たら、ぜひ車から降りて道を歩いてみて自然を感じてください。バーモント州に来なくても、身近な土の道を歩いてみてほしい。その先は、自分の生き方にもつながっているかもしれません。土の恩恵は、計り知れないのです。

Edward Koren エドワード・コリン

Edward Koren エドワード・コリン
1936年生まれ。ニューヨーク市のマンハッタンで生まれ、育つ。全米屈指の名門私立高校、コロンビア大学を卒業。1925年創刊の総合雑誌『ニューヨーカー』のイラストを担当することにより漫画家として独立。以来、40年以上にわたって同誌に漫画を描き続けている。バーモント州・ブルックフィールド村に移住して35年が過ぎた。2007年には同州からGovernor’s Award for Excellence in the Arts を受賞。20年間にわたりブルックフィールド村の消防署員としてボランティア活動をしている。著書は『The Penguin Edward Koren』(Knopf刊)など多数。

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