vol.93 肺の発明
空気中から直接、酸素を取り込む。肺の発明は、生物の進化のうちでも最大の発明の一つである。それまでは水中に溶け込んだわずかな酸素を利用するしか方法がなかった。水流から酸素を漉しとる。鰓(えら)呼吸。だから生物は長いあいだ水中から出ることができなかった。

空気中から直接、酸素を取り込む。肺の発明は、生物の進化のうちでも最大の発明の一つである。それまでは水中に溶け込んだわずかな酸素を利用するしか方法がなかった。水流から酸素を漉しとる。鰓(えら)呼吸。だから生物は長いあいだ水中から出ることができなかった。
エピジェネティクスとネオテニー(幼形成熟)についてもう少し考察を進めてみたい。ネオテニーとは、動物がその外見的な形態や行動のパターンに、幼生や幼体の特徴を残したまま、成熟することを指す生物学用語である。ネオテニーは、どのようなしくみで起こるのだろうか。
脳でスイッチがオンになる一群の遺伝子は、チンパンジーよりヒトで、作用のタイミングが遅れる傾向が強い。つまり脳のある部位に関していえば、ヒトはチンパンジーよりもゆっくり大人になる。ヒトはチンパンジーよりも長い期間、子どものままでいる。そういうことになる。
ヒトとチンパンジーのゲノムを比較すると98%以上が相同で、ほとんど差がない。では残りの2%足らずの情報の中に、ヒトを特徴づける特別な遺伝子があり、その有無がヒトをチンパンジーとは異なる独自の生物にしているのだろうか。おそらくそうではない。DNA情報におけるこの2%足らずの差というのは、特別の遺伝子を持っているか、いないか、といった質的な差ではない。
環境からの刺激に応答して生物の仕組みが適応的に変化する。あるいは繰り返し入力があることに対して身体の状態がつくり替えられる。これはあたりまえの生命現象である。たとえば、アスレチッククラブに通い詰めて一生懸命トレーニングをすると筋骨隆々になる。
フランスの孤高の生物学者ジャン・ラマルクの著書『動物哲学』が出版されたのは1809年。この同じ年、チャールズ・ダーウィンはイギリスに生まれた。ダーウィンはラマルクを読み、生物の可変性についてラマルクが先駆的な考えを述べたことをきちんと評価した。
DNAの配列情報が、タンパク質の配列情報に反映される。そしてDNAとタンパク質の情報の記述法、つまりDNAの文字(ヌクレオチド)とタンパク質の文字(アミノ酸)の対応が、基本的にはすべての生物で共通であるという事実は、生物の多様性が単一の生命の起源から出発し、その文法をずっと継承していったことを示唆している。
DNAの3文字が、タンパク質の1文字にあたる。DNAの1文字は4種のヌクレオチド、アデニン、シトシン、グアニン、チミン(ふつう、A、C、G、Tと略される)。タンパク質の1文字はアミノ酸である。タンパク質を構成するアミノ酸は20種ある。だから、DNAの文字情報が、タンパク質の文字情報を保存するためには、ヌクレオチド3文字が、アミノ酸1文字に対応することになる。
DNAは生命の設計図である。教科書や参考書にはそんなふうに説明が記されることが多い。それはDNAに、タンパク質の情報が書き込まれているという意味である。つまりDNAはタンパク質の設計図である。しかしDNAという物質に、どのようにしてタンパク質という物質の情報が「書き込まれている」のだろうか。