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駒崎弘樹の日本の第三の道 未来への投資に必要なのは、近視眼的にならない大きな視点。

駒崎弘樹 こまざき・ひろき × 大竹文雄 おおたけ・ふみお

駒崎: 貧困の現場ではせっかくの給付金をギャンブルですったり、借金の返済に充てたりと、すぐに使ってしまう人がいます。官僚たちに、その話をすると「家計簿を付ければいい」と、一言で済ます。たしかにそうなんです。でも、それに対して「窮乏している人は、不合理な行動を取ってしまう」と説明しても、いまいち“優秀”な官僚には届かないんですよね。

大竹: 優秀な官僚だって、次々と締め切りに追われたら、目先のことしか考えないはずですよ(笑)。誰もが切迫感のある状況になると近視眼的になる。このことは多くの実験で明らかです。例えば、いつもはきちんとした子育てができている航空管制官でも、難しい飛行機の管制をした日は、家に帰って子どもを叱ってしまうという調査がある。自分自身をコントロールするための自制力が弱くなってしまうんですね。優秀な人も、仕事であまりにも集中して、それにエネルギーを使ってしまうと、他のところでうまく行動が取れないんです。

駒崎: そうか、負荷をつけ替えるんだ。

大竹: ええ。貧困世帯よりも、中流世帯のほうが教育的に望ましい子育てをしているといわれますが、それは仕事や生活に余裕があるからなんですね。

駒崎: 「家計簿を付ければいい」という言葉には、「怠け者め」っていう意味も含まれているようにも思います。

大竹: 誤解を恐れずに言えば一部は事実でもある。子どもの頃に「自制心」をうまく育てられず「今だけを考える」という傾向が強い人は、貧困に陥りやすいことは事実です。が、先ほどの航空管制官の話でもわかるように、誰もが困窮すれば近視眼的に陥ることは認識しなくてはいけない。

駒崎: ということは、子どもにとって重要なのは……。

大竹: そう。自制心を育む環境をつくること。そうでないと、大人になってまた困ってしまうわけですよね。

駒崎: やっぱりそうですね。幼児教育や保育所のインフラを拡大し、良質な成育環境を提供していくことは、やはり重要だということですよね。

大竹: 自制心がなかったり、せっかちな人は、例えば労働市場においても、手っ取り早い仕事に就く。それは、切羽詰まっているし、誰もがそういうふうな傾向に陥りやすいという両方があって、ますます脱出できない。派遣労働は短期的に見ると賃金面はいい。しかし、長期で見ると、賃金は上がっていかないですよね。

この問題は、政策的にはすごく難しい。派遣労働は仕事をすぐに紹介できるという意味で仕事と人のマッチングの効率性が高い。でも、せっかちな人が今だけのことを考えて派遣労働についてしまって長期的には豊かになれないからといって、派遣の仕事を規制すれば、マッチングの効率性が下がりますから雇用の数を減らすこととなる。しかし、そこで減った雇用というのは、「せっかちな人が飛び付く仕事」を減らすことを意味するので、長期的に考えると悪くはないかもしれない。とはいえ、どっちがいいかというのは、すごく難しいですね。

派遣労働
働き方のひとつとして認知されているものの、賃金面以外にも、有期契約であるため将来的な雇用不安もある。企業が派遣契約を一方的に打ち切る「派遣切り」は社会問題にも。

ゴミ、捨てんなよ!

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