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駒崎弘樹の日本の第三の道 今、考えるべきは、20年後、30年後の成長力。

駒崎弘樹 こまざき・ひろき × 大竹文雄 おおたけ・ふみお

駒崎: 今日は、よろしくお願いします。

大竹: よろしくお願いします。何を話せばいいのかな?(笑)。

駒崎: そうですね。私は子どもの貧困や子育て支援の仕事に携わっている関係で、興味を持ったのが2016年1月22日の安倍総理が行った所信表明演説(第百九十回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説)です。安倍首相は「同一労働同一賃金の実現に踏み込む」とお話しされました。

大竹: ええ。

駒崎: 厚生労働省の調査によれば、ひとり親家庭の子どもの貧困率は54.6%(平成24年)。これはひとり親家庭のうち半数以上が年所得122万円(等価可処分所得の中央値の半分)以下で暮らしている状況です。その8割の人々は、働いていて、なお貧困なんですね。つまり、「賃金が低い」ことが大きく影響しているのではないかなと思っています。

大竹: なるほど。

駒崎: 首相が発言した「同一労働同一賃金」は、非正規のひとり親の人たちを含めた、厳しい環境にある人たちの生活を向上させるうえで有用なツールなのではないかなという思いを感じています。ただ、最低賃金が結果として上がることによって、失業率が増してしまうんじゃないか、という経済学的な見方もあろうかと思います。大竹先生はどのようにお考えかということを、最初にちょっとお聞かせいただけたらと思います。

大竹: いきなり難しい問題ですねえ(笑)。安倍総理が、「同一労働同一賃金」という発言で、何を目指しているのかちょっとわからないんですよね。「どういう形で同一労働同一賃金になるか」が問題だと思うんですね。

残業や配置転換を受け入れるかなど、何らかの「働き方の違い」があるから、正社員と非正社員で賃金の差が出てきているという側面があります。ただし、賃金差が働き方の違いで説明できないほど大きければ、それを修正することは必要です。その場合過大な正社員の賃金が下がり、非正社員の賃金が上がる形になるかもしれない。また、働き方の差が小さくなれば、「同一労働同一賃金」に近づくかもしれません。

駒崎: ある程度、正社員と非正規の区別をなくすことが可能なのであれば、「同一労働同一賃金」もやれるかもしれない……。

大竹: 働き方を変えないで、賃金だけを一緒にするのは無理だろうと思いますね。ただ、非正規の人は雇用が安定して、賃金も上がるだろうけれど、正規になった人の雇用条件は若干悪くなるでしょうね。ただ、日本の場合、雇用契約をきちっと守っている会社もあれば、あまり気にしないでいるところもあるのも問題です。正社員でありながらも、いつクビになるかわからないブラック企業があるのは事実。それも含めて、全体に雇用条件を良くしていくということは必要だと思うんですね。

駒崎: 「同一労働同一賃金」を掲げるのであれば、非正規も正規社員も含め、雇用の質を上げていくのが重要ということですね。

大竹: そうですね。「同一労働同一賃金」の裏には、働き方そのものがある。そこを一緒に解決していくことを、進めていかないと難しいでしょう。子育てで退職したとか、シングルマザーという場合、働こうと思っても非正規しかなかなかないのが現状。「同一労働同一賃金」によって日本の労働者全体の働き方が変わり、そこからキャリアが積めるようになると、脱出できると思うんですね。

ただ、それでも難しい人たちはいっぱいいる。小さな子どもがいると、そうでない人と比べると休みが多くなるというのは当然です。完全に労働市場だけで低賃金の人たちを守れるかというと……それは難しいんじゃないかなという気はします。

駒崎: 平成25年の「国民生活基礎調査」では、日本の貧困率は16.1%でした。2012年のOECDのデータによるデンマークの5.4%に持っていくのをゴールと置くとするならば、労働市場に期待すると、それに寄与はするのでしょうか。それとも、現金給付などの再配分によってなされたほうがいいのでしょうか。

大竹: 両方でしょうね。先進国で、賃金の二極化がなぜ起こっているかというのは、技術革新やグローバル化の影響がある。「労働市場に期待する」だけで解決するのは難しいでしょう。同時に、政策的に貧困対策を行うことは不可欠だと思います。経済学者の多くは「給付付き税額控除」や「勤労所得税額控除」というものを提案している。

駒崎: そうなんですね、不勉強ですみません。その違いは何でしょうか?

大竹: 「給付付き税額控除」は、働いていないときにある程度の金額をもらえます。それで、働き出したらそれが減少していく。「勤労所得税額控除」は、働いたらマッチングされてもらえる額がある額までは増えるんです。勤労意欲を引き出すような仕組みになっている。

駒崎: ある種のベーシックインカムに近いんですか?

大竹: ベーシックインカムに近いのは、「給付付き税額控除」ですね。「勤労所得税額控除」は、働いた分に補助金が出るという形ですね。働かないともらえない。でも、低賃金の人を支援してあげましょう、という仕組みなんですね。

駒崎: 諸外国で導入実績があるのですか?

大竹: 勤労所得税額控除はアメリカとイギリスで、給付付き税額控除はカナダ、シンガポール、ニュージーランドなどで取り入れらていますね。

同一労働同一賃金
今年1月22日に行われた安倍晋三首相が所信表明で掲げたスローガン。もともとは、男女間の賃金の格差をなくすために、国際労働機関(ILO)が憲章などで明記されていたこと。
日本の貧困率
相対的貧困率とは、所得が国民の中央値の半分(貧困線)に満たない人の割合のこと。OECDの統計では、日本の相対的貧困率は先進国の間ではとても高い数値である。

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