ソトコト ソーシャル&エコ・マガジン

想いをつなぎ、伝えるがれき

楽器の音色を未来に残していく 完全がれきウクレレ

プロジェクトでは、災害で出たがれきの木材や素材を、人の想い出や復興の思いが入った材料として、ゴミや廃材と言わずに「思材」と呼ぶ。その「思材」から生まれた楽器は、被災した学校などへも寄贈されている。

 神戸で『ギター工房オデッセイ』を営んでいる樋口英之さんは兵庫県で生まれ育ち、現在全国からのリペア依頼を請け、ギター修理を行っている。阪神・淡路大震災を経験したこともあり「すぐにでも駆け付け、何かしなければ」という強い想いに駆られたが「足手まといになるだけかもしれない」と考え、悶々とした日々を送っていた。

最後は樋口さんも加わって、楽しいセッションが行われた。

 そんなとき、一通のメールが届いた。

「被災した人々や亡くなった人々への想いをがれきが奏でる音色として後世に残しませんか?」。それは宮城県東松島市でがれきの木材を使って和太鼓や三味線などの楽器をつくる「ZERO-ONE瓦礫再生プロジェクト」に参画している宮城県出身の黒瀬寛幸さんからのものだった。

「同じ震災を経験した自分には何もできないのか」とあきらめかけていた樋口さんはすぐに行動を起こした。楽器は何十年、何百年と生き続ける。人々の意識や関心が風化しないよう、がれきから楽器をつくって、その音色が後世に残る手助けをしよう。

子どもたちに想いを託して

 部材収集のためにすぐに黒瀬さんたちと共に東松島市に赴いた。実際のその光景を前にして思わず手を合わせたと語る。黙々と部材収集を行う中、写真やぬいぐるみなど、そこにあった生活の空気を終始感じていた。黒瀬さんたちと別れるときに「私たちのことを忘れないでください」という、プロジェクトの人々の言葉や復興への想いに、あふれる涙を止めることができなかった。

 そして約1年の歳月を経て、この6月に完成したのが写真のウクレレだ。7月には児童館でそのお披露目会を行った。地震や津波のこと、ウクレレはがれきから生まれたこと、音楽を楽しむことも“復興〟であることなど、黒瀬さんの話に、集まった小学生たちは真剣な面持ちで聞き入っていた。その後は黒瀬さんの演奏による楽しいライブとなった。

 樋口さんは言う。「子どもたちがいつか大きくなって、震災、津波、原発などのキーワードと巡り合ったときに、今日のこのウクレレの音色を思い出して、私たちと同じ強い想いを持ってくれたらうれしいですね」。

●完全がれきウクレレ
http://zero-1recycle.com/

さまざまな思いをひとつの形に結んで がれきトロフィー

奥田駿斗(はやと)くんの作品。「元の町のように復興し、さらによくなるようにと願って、龍に守られた町をつくりました」。

「明日へ進め、という思いを込めてつくりました」(鹿野貴久くん)、「大震災が起きたことを世界中に知らせたくて、鳥のデザインにしました」(佐藤陸くん)。これは被災した宮城県の石巻市立湊小学校の子どもたちが、がれきを活用してつくった卒業記念トロフィーについて語ってもらった言葉だ。

銀座テラス/テラスコートに展示されたがれきトロフィーと、子どもたち。

 これらは、今年3月に銀座三越9階銀座テラス/テラスコートと、連動企画として皇居外苑『楠公レストハウス』で展示された。この企画は、風倒木を使って作品をつくる木工造形家・齋藤公太郎さんの思いから始まった。「被災して傷ついた子どもたちを励ますために、大量に町にあふれるがれきを使って何か物をつくれないだろうか」。

 その問いかけに、毎年、齋藤さんにイベントのトロフィー制作を依頼していた『全国地球温暖化防止活動推進センター』や被災地の復興に取り組むNPOの人たちが動き、石巻市の子どもたちとの出会いへとつながっていった。

私たちが次にできること

 昨年12月から齋藤さんの指導のもとで子どもたちのトロフィーづくりが始まった。東京ボード工業の協力によって、がれきを再生利用してつくられたパーティクルボードでトロフィーを飾る台も制作された。

 完成した作品を展示する場を提供した、三越伊勢丹の営業本部宣伝部イベント装飾担当マネージャー橋本良識さんは、作品の展示支援をしていた環境省担当者の「日本のゴミを日本の財産にしよう」という言葉に心を動かされたと語る。また、橋本さんは、「すぐに捨てたりせず、再利用しながら最後まで物を大切に使う。現代で忘れ去られている、日本の精神文化を思い起こしてもらうきっかけにもなれば」と考えた。  

一方で、齋藤さんは言う。「子どもたちは支援を受けることから、次の段階にきていると思います」。踏ん張って上を向いて立ち上がり始めた、これから先の未来を生きていく彼らのために今、大人の私たちができることとは何だろう。

●がれきトロフィー
http://kouikishori.env.go.jp/trophy/

※環境省特製の「著作権・リンクについて」のページをご一読ください http://kouikishori.env.go.jp/copyright/

価値あるいい物として残していきたい 杉スツール試作品

大人用スツール(左、試作品)と、現在開発中の子ども用スツール。

 今、被災地では塩害木が大きな問題となっている。中には害虫が発生したものもあるため、塩害木ではない周辺の木もすべて伐採されるなど、大打撃を受けている。

ほかにも糸巻きやヒモの付いたバケツ、土星のような形をしたものなど、子どもたちの自由な発想で楽しめる家具のデザインを考案中だ。

 ロフトワークでは、Web制作のほか、企業や団体との多彩なコラボレーションを展開している。代表取締役の林千晶さんは震災後、現地を訪れた際に「がれきとして処理されてしまう前に、何かの形で残していけないだろうか」という思いを強く抱いた。クリエイティブディレクターの長倉克枝さんも「それも価値あるいい物にして、次世代に残していきたい」と語る。

 そこで相談を持ちかけたのが、良品計画グループのイデーだ。企画営業事業部デザインマネージャーの深田新さんは、その想いを受け取り、「大人になっても大切に永く使ってもらえるような子どもたちのための家具」を提案した。

日本の技術を活用する

 イデーでは2008年頃から、安価な輸入材におされている国産材の見直しや間伐材の活用など、日本の林業、自然環境、地球温暖化問題について現状と未来を考察することも含めたプロダクトの開発を行っている。

 製造技術においては、群馬県のイー・ディー・エス研究所が独自に開発したEDS(燻煙熱処理)加工に着目している。これにより製材工程の短縮化、コストの削減、防虫、防腐効果の利点が生まれるが、これはまさに塩害木にも有効である。

「日本には素晴らしい技術を持っている工場がたくさんある。その技術をもっと活用していきたい」と企画営業事業部のマネージャーの菊田隆さんは言う。

 すでに完成している杉の間伐材を使った大人用スツールをもとに、この6月から塩害木を使用することを想定した子ども用スツールの開発がスタートした。プロジェクトはまだ始まったばかりだが、すでに東北の幼稚園や保育園から期待の声があがっているという。

支援ではなく、応援する気持ちが大事 カケラのチカラ

いまいすずねちゃん作の「イクラ屋さっちゃん」。完成した100体のオブジェの表情は、子どもたちと同様にどれも明るく健やかな笑顔が印象的だ。
犬飼さん(最後列、帽子をかぶっている人)は今も石巻で「NPOワタノハスマイル」プロジェクトとして活動を続けている。
ローマでの展覧会の様子。「震災から立ち上がろうとする子どもたちの力強さを感じた」「がれきでつくったとは思えないほどクリエイティブだ」という声があがった。

「最初は可哀想、心配という気持ちもあったんですが、子どもたちはとにかく元気で、逆に勇気と希望をもらいました」と語る犬飼ともさんは、地元の山形で子どもたちと一緒に流木や廃材を使った物づくりのワークショップを行っている。

「自分にできることはそれしかない」と、震災後、避難所となった宮城県石巻市立渡波小学校で子どもたちと遊ぶボランティアを始めた。写真はその活動の中で、校庭に流れ着いたがれきを使用してつくった子どもたちの作品のひとつだ。

 ボランティアをする中で考えたり、悩んだりすることもあったというが、現在は「支援ではなく、応援する気持ちが大切だと思うようになった」と話す。

 やがて同じ思いを持った人々が現れ、全国各地で、また海を渡ってイタリアのローマで展覧会が開催され、多くの人に作品を見てもらう機会を得た。

次のアクションにつなぎたい

 デザイン事務所・ダイアモンドヘッズの小野光治さんは、この作品を東京の人にも見てもらいたいと立ち上がった一人だ。犬飼さんに相談して自身で企画・プロデュースを行い、東京・新丸ビル7階の丸の内ハウスで「カケラ。」展と題して開催。会場には展覧会の説明はほとんど掲げずに、募金箱も設置しなかった。

「これらの作品には人に伝える力がある。だから、ただ見てもらうことで何かを感じたり、考えたりしてくれたらと思ったんです。震災後、みな何かしなければ、何ができるだろうと自問自答してきたと思う。今もそういう人が大勢いるはず。この活動が誰かの、次のアクションを起こすきっかけにつながることを祈りたいですね」

 子どもたちから「早く新しいオブジェをつくりたい」という声があがった。まもなくこのがれきの作品づくりが再開されるところだ。犬飼さんは将来的にこれらの作品を石巻に常設展示して、全国からたくさんの人々が町に見に訪れるようになることを願っているという。

●カケラのチカラ
http://ameblo.jp/watanohasmile/

大分から発信される「木繋」の想い パーティクルボード

保温・断熱性を持たせるために利用したのは、竹繊維や地元で処理に困っているバーク(樹皮)。また、住宅で使用されることを想定して、温かみのある質感を目指し、表面に日田杉の板を張るなど美観も考えられている。

 大分県立日田林工ひたりんこう高等学校は、創立111年を迎える農業系と工業系学科の併設校だ。その中の、林産工学科は、日本人の生活に馴染み深い木材の有効活用を学び、地球資源を考える授業を行っている。

林産クラブのメンバー。左から、田中優希さん、本松美紀さん、大倉歩美さん、穴見翔部長。

 また同学科には、普段の授業をさらに掘り下げて研究したいという有志が集まってつくられた「林産クラブ」がある。「生徒の間から、われわれの学校で専門とする木を使って、何か東北の人たちとつながることができないかという声があがったんです」と、同クラブの顧問を務める河津文昭先生は言う。「がれきはその80%が木材。木は切った後も何十年という寿命があるのに、その命を全うせずにがれきとなってしまった。そこで木でつながる『木繋きずな』というテーマを掲げて、このがれきにもう一度命を吹き込んであげようと考えました」。

過去から未来へとつなぐ

 同クラブでは、地元特産の杉の生育を阻害する竹の繊維やチップを使用したボードなどを開発してきたことから、そのノウハウを応用して、がれきを用いたボードをつくることを考えた。素材となるがれきの木材は、今年5月に宮城県石巻市の許可を得て、半壊した住宅の持ち主の立ち会いのもと約30キロを譲り受けた。

 そして、昨年から進められていたさまざまな実験や研究開発を経て、放射能やホルムアルデヒドにおいても問題のないボードがこの6月に完成。強度などのJIS規格もクリアし、保温・断熱性のある実用性の高いものとして、現在、全国のいくつかの工場で量産化に向けて共同研究をしている。「今回、僕たちが研究開発してきたことをもっと多くの人に情報発信していきたい」と、同クラブの穴見翔部長は意気込む。

 7月にはこのボードが個人の復興住宅に使用されることも決まった。過去の想い出や震災の教訓を未来につなげるために、また、新しい生活を送る人々のためにがれきは建材として再び息を吹き返した。

●パーティクルボード
http://kou.oita-ed.jp/hitarinkou/

子どもたちの遊び場のために 復興へのゴール

スタジアムを訪れたサポーターたちは、設置された寄せ書き用のボードや、ゴールに直接、東北の人たちへの激励のメッセージを書き込んだ。

 今年の6月3日と8日に「2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選」が埼玉スタジアム2002で行われた。いずれも日本が快勝し、熱気と歓声に大いに包まれた。その両日、日本サッカー協会の協力のもと、南門広場には横4メートル、高さ2・1メートルの木でつくられた「復興へのゴール」が展示された。

 これは宮城県南三陸町の塩害木でつくられたものだ。塩害木とは、津波によって海水を被り、根から枯れていってしまう木のこと。南三陸町と気仙沼市では、あわせて約20ヘクタール以上の杉林が塩害に見舞われた。

 平地でまとまった土地が少ない被災地では、学校の校庭や公園、競技場ががれきの仮置き場や仮設住宅の適地として使われている。震災で発生した災害廃棄物は、岩手、宮城の2県だけで約1700万トン(5月21日現在)。埼玉スタジアム2002の競技場の容積のおよそ12個分にあたる。

がれき処理のサポーターになろう

「早く公園でかけっこしたい」「おもいっきりボールを蹴って、サッカーをしたい」。これは、東北の子どもたちの切実な声だ。

「一日も早く子どもたちが広い場所で遊べるようになってほしい」という願いから、環境省の発案によってつくられたのが塩害木を使ったそのゴールだ。

 脇には、多くの人にがれき処理への関心を持ってもらえるように、これまでの広域がれき処理の取り組みをはじめ、日本ユニセフ協会が塩害木を活用して建設を進めている南三陸町『あさひ幼稚園』の園舎再建支援プロジェクトや、ヴォルフスブルクの長谷部誠選手がその幼稚園建設のために行った支援活動についてのパネルも展示された。

 がれきがなくなることで、子どもたちの遊べる環境と笑顔を取り戻せるなど、さまざまな復興支援につながる。一人でも多くの人ががれきの広域処理のサポーターとなって、力を合わせて進めていくことが今、早急に求められている。

●復興へのゴール
http://kouikishori.env.go.jp/flower/project/

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  • 花と音楽で、がれきが再生と希望のシンボルに
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  • 想いをつなぎ、伝えるがれき
  • あなたも応援できるがれき処理!
  • 震災がれきのこと、みんなで考えよう
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